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忙しい人にこそ読んでほしい名作|ミヒャエル・エンデ著「モモ」

子供の時、お布団の中で父がよく本を読んでくれました。

チョイスする本は絵本ではなく、童話がほとんど。

その中でも一番記憶に残っているのがミヒャエル・エンデ著「モモ」です。

わたしは両親や友人から「モモ」と呼ばれていたので、タイトルから心惹かれました。

社会人になってからは一度も手に取ることはなかったのですが、最近Audibleの聴き放題配信で見つけたので久しぶりにモモの世界に浸ることに。

「モモ」は、時間泥棒に時間を搾取されている人たちを救う物語です。

「忙しい」「時間がない」が口癖になっている人は、もしかしたら時間泥棒に搾取されているのかもしれません。

わたしはこの物語から時間とはなにかということを学びました。

この記事では心に残ったエピソードと一緒に、時間の使い方を振り返っています。

小説「モモ」の概要

町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。そこへ、「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります…。「時間」とは何かを問う、エンデの名作。

「モモ (岩波少年文庫(127)) 新書」あらすじ

舞台は都会のはずれにある、小さな円形劇場の廃墟。
そこに住みついた8歳~12歳くらいの女の子「モモ」が主人公です。

モモに話を聞いてもらうとモヤモヤが晴れたり、悩んでいたことが解決したりするので街の人たちはことあるごとに「モモのところへいってごらん」と言うので、モモが住む円形劇場の廃墟はいつも友人たちでにぎわっていました。

そんな平和な世界に静かに忍び寄る時間泥棒の組織。
彼らは人間の時間を体内に取り込み生きながらえる灰色人間。

「時間の節約」のすばらしさを街中の人たちに説き、豊かな未来を築くために自分たちの組織に時間を預けることを提案してまわります。

時間は巧妙に盗まれていくのですが街の人たちは流れに逆らえず、次第に「忙しい」「時間がない」と言い合い、慌ただしい生活に変わっていくのです。


※ここから先はネタバレを含みます。

時間とは心で感じるもの

モモの親友である道路掃除夫ベッポは、とっても長い道路を受け持ったとき、こんな考え方します。

「いちどに道路ぜんぶのことをかんがえてはいかん、わかるかな?つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、つぎのひと掃きのことだけを考えるんだ。」

「するとたのしくなってくる。これがだいじなんだな、たのしければ、仕事がうまくはかどる。」

「ひょっと気がついたときには、一歩一歩進んできた道路がぜんぶおわっとる。どうやってやりとげたかは、じぶんでもわからんし、息もきれてない。これがだいじなんだ。」

「モモ (岩波少年文庫(127)) 新書」4章

楽しいとき、夢中になとき、長い時間でもあっという間に感じます。

好きなことやハマっていることだったら夢中になるのは簡単ですよね。

でも、仕事をそんな風に取り組むのはむずかしい。

ベッポは、仕事に対して夢中になるには「いつもただ次のことだけを考えること」と話しています。

時計は規則正しく1秒、1分、1時間を指し示してくれる。
しかしそれは、時間について共通認識を持てるように作り出した機械的な概念。

私たちは、時計がない時代からずっと時間と共に生きています。

時計に振り回されているから、時間の節約という考えが生まれてしまいますが、本来時間は流れているのだから節約することはできません。

できるのは、その時間をどのように使って生きていくかということ。

時間泥棒はなぜモモの時間が盗めないのか?

モモは時計が読めないし、読もうとしない。

「12時だからご飯を食べよ」「17時だから家に帰ろう」という生活をしていない。

空想に浸るときは終わりを迎えるまでいつまでも空想し続けるし、話を聞く時も終わるまでいつまでも聞き続ける。

時間の流れに乗って生きているんです。

そして誰よりもその時間の使い方が大切なことだと知っている。

時間泥棒の一人がモモに接触し誘惑を試みたシーンがあるが、あっけなく返り討ちにあいます。

モモの前では嘘がつけない。

そればかりか本音をこぼしてしまうという意思に反した失態まで犯してしまう。

モモは相手のペースに流されず、自分の時間を生きている少女だということなのかもしれません。

現代を生きるわたしと言ったら、〇時までに家を出て、〇時までに仕事を終わらせ、〇時までに…、と常に「~まで」という制約に追いかけられています。

だからといって、モモのように空想にふけるといった好きなことに没頭する時間なんて1秒も持てていない。

物語に登場する時間泥棒に時間を盗まれた街の人たちと同じような生活を送っています。

モモとの違いは、自分の意志で今を過ごしているかという点。

みなさんはどうですか?

時間泥棒に搾取された人の末路

モモのもうひとりの親友である、愛すべきホラ吹き観光ガイドのジジ。

彼は時間泥棒の陰謀により時間を盗られ、忙しく世界を飛び回る売れっ子の物語作家になっていました。

お金持ちになったジジはモモに助けを求めるようにこう言います。

「人生でいちばん危険なことは、かなえられるはずのない夢が、かなえられてしまうことなんだよ。」

「ぼくにはもう夢がのこっていない。」

「いまぼくにできるたったひとつのこと―それは口をとざすこと、(中略)また無名のまずしい男になりきってしまうまで、だまっていることだろうね。だが、夢もなしにびんぼうでいる―いやだ、モモ、それは地獄だよ。だからぼくは、いまのままのほうがましなんだ。これだって地獄にはちがいないけど、でもすくなくともいごこちはいい。」

「モモ (岩波少年文庫(127)) 新書」15章

お金や名声を手に入れた代償として、友人と語らう時間と夢を失ったジジ。

一度失えば元には戻れない。
なぜなら過ぎてしまった時間は戻せないから。

今ここにある時間がどれだけ大切なのか、お金や名声には代えがたい時間という資産を誰もがもっているんだ、ということを思わせる場面です。

そしてジジが言った「まだマシ」という言葉。

「まだマシ」と言って、今の時間を諦めていることがとても多いことに気づかされました。

「マシ」というのは望んでいないことを受け入れる時に使う言葉。
マシかどうかで判断してはいけない。

この物語は過去とも未来とも言える

白状しますと、この物語はわたしがひとから聞いたのを、そのまま記憶どおりに書いたものだからです。
(中略)
ある夜、汽車でひとりのきみょうな乗客とおなじ車室にのりあわせました。
(中略)
いずれにしてもこのひとが、その夜の長い汽車旅のあいだに、この物語を話してくれたのです。

「モモ (岩波少年文庫(127)) 新書」作者のみじかいあとがき

奇妙な乗客とは、物語に登場する時間の番人マイスター・ホラのことです。

マイスター・ホラはエンデにこう言いました。

「わたしはいまの話を、過去におこったことのように話しましたね。でもそれを将来おこることとしてお話ししてもよかったんですよ。」

時間泥棒に搾取され地獄のような生活をしているのは過去の話ではなく、これからの未来を見ているようです。

もしくは今現在、わたしたちは搾取された灰色の世界を生きているのかもしれません。

でもそれは誰にもわからない。

だって、時間泥棒は誰の心にも残らないよう静かに忍び寄ってきて、わからないように時間を盗んでいくから。

わたしたちは、ただ毎日何かに焦り、時間の節約に必死になっているだけなのです。

「自分の時間を生きる」とはなにか?

わたしは何かに追われているなと感じたら、自分が大事にしていることに時間を贅沢に使うことにしています。

  • 子供の写真や動画を思う存分見る

  • 昼間の明るい部屋でのんびりお昼寝する

  • 公園でジュースを飲みながらぼんやりする

  • 過去に好きだなぁと感じたマンガや小説、映画をもう一度楽しむ

  • 夫や娘、両親、友人など、大好きな人たちとの会話を楽しむ

  • お絵かきをする

それはなんの生産性もないかもしれない。

せっかくの空き時間なのにもったいない…と見えるかもしれない。

“こういう時間に勉強やスキルアップにつながる行動をとる人が成功する”と説かれたビジネス書を読んだこともあります。

でも好きなことをして過ごす時間が大事。

時計に囚われず、誰からも支配されない時間をすごしている時、自分の時間を生きていると思えます。

そして道路掃除夫ベッポが言うように、

どう進んできたかわからないけど、疲れてもいない。
楽しく進んでいたらいつの間にか道は終わっていた。

そんな風に人生を歩んでいけたら、なんて素敵なんだろうと思いました。

努力して節約した時間を時間泥棒に捧げるのか、それとも自分のために使うのか。

わたし達は選ぶ権利を持っています。

Audible「モモ」の朗読は高山みなみさん

小説の耳読は世界に引き込まれます。

Audibleで配信されている「モモ」を朗読しているのは、コナンの声優の高山みなみさん!

高山みなみさんが一人で読んでいるはずなのに、様々な登場人物の顔や人間性を感じられる演技力。

「モモ」の朗読を聴いて本当に素晴らしい声優さんだなと感じました。

声だけで世界が見えてきます。

わたしの中にあった大好きな物語の世界感と、大好きなモモという人物を素敵に再現していました。

書籍も映画も大好きですが、Audibleで聴くモモの大ファンになりました。

おすすめなので、まだ「モモ」を読んだことがないという方は、ぜひAudibleで聴いてみてください。

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