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「ホットミルクでも飲む?」娘の気遣いに支えられた朝

早朝AM4:30、家の電話が鳴った。
まだ寝ている家族を起こさないように早くでなくちゃ。焦りつつ、ついにこの時が来たのかと覚悟を決めて受話器を取る。

「1時間ごとの巡視のため3:57に入室したところ、お母様の呼吸の確認がとれませんでした」

母の逝去を知らせる電話だった。

ひと月ほど前から病床の母の体力はガクンと落ちていた。
母の強い意向があり、医師と相談して入所している施設で最期まで過ごす看取り介護に入った矢先だ。

1時間前に部屋を訪問したときにはまだ呼吸をしていたこと、その後呼吸の確認がとれなかったため、すぐに姉と私の携帯へ連絡したが繋がらなかったこと、できるだけ早く施設へ来て欲しいこと、相手が言葉を選びながら話してくれているのがわかる。

電話を切る直前、「母が長い間大変お世話になり、本当にありがとうございました」言葉にすると声が震えた。
覚悟はしていたけれど、ああ、お母さんは逝ってしまったんだね。
指先からサーっと冷たくなっていくのを感じる。

これからどうしよう?
とにかく姉に連絡して、それから交通手段の確保だ。
大阪の自宅から神奈川の施設まで最速で行ったとして、いったい何時に着けるだろうか? 

幸い伊丹空港がすぐ近くにあるから、朝一番の飛行機で羽田まで行こう。
スマホのアプリからチケットの手配をしようとするも、手が震えてうまく操作ができなかった。

大きく深呼吸して「落ち着け、落ち着け」声に出して自分に言い聞かせる。

「ホットミルクでも飲む?」

ふと顔を上げると、すべてを悟った娘がそばに立っていた。

「起こしちゃった? ごめんね」

「うーうん、ホットミルクでも飲めば?」

「そうだね、じゃあ、もらおうかな」

娘が作ってくれたホットミルクは、ほんのり甘くて、あたたかくて、沁みた。
改めて娘に状況を説明すると、

「そんな気がした。さっき夢にばぁばが出てきたから」

驚いた。虫の知らせって本当にあるのだろうか。
お母さん、孫に会いに来てくれたの?

私自身は、AM3:50になぜかバチっと目が覚めた。
寝付きの良さには自信があるので、普段こんな時間に目が覚めることはまずない。
ぼんやりと、もしかして虫の知らせかな? と思いながら二度寝をしたのだが。。。

娘と話しているうちに冷静さを取り戻してきたようで、頭がクリアになってきた。
飛行機のチケットの手配はできたが、姉は携帯をナイトモードにしてるため向こうが起きるまで繋がらない。
とりあえず、LINEにメッセージを送る。

17歳の娘は普段は家族とろくに会話をしない。
学校から帰ってくると自室にこもり、食事の時以外は部屋から出てこないし、全身から話しかけんなオーラが出てて、正直こっちも声をかけにくかったりする。

「ありがとう。おいしい」

「別に。。。牛乳温めただけだし」

そんな娘が作ってくれたホットミルクは、ちょっとだけのお砂糖とお菓子作り用のリキュールが数滴落とされたもので、今まで飲んだどんな飲み物よりもあたたかくて、絶妙なタイミングでホットミルクを出してくる娘の気遣いがなにより沁みた。

いつの間にか、そっと相手を思いやれる人に育ってくれていたんだね。
いつも私の顔を見れば「ご飯なに?」て、食事のことしか聞いてこないから、心の中でイラッとしてごめんね。

「親は子どもの成長がなによりうれしいものなんだよ」と言っていた母の言葉を思い出した。

本当だね。
お母さん、あなたが亡くなった日の朝に、娘の成長が私を支えてくれたよ。

ありがとう。あなたの娘で良かった。
ありがとう。あなたのお母さんになれて良かった。

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