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読書記録 | 2022年12月

12月に読んだ本

帯がピカピカすぎて映り込んでしまうかと思った。
という理由で若干斜めの写真になっている。

・『<あの絵>のまえで』著:原田マハ
・『生きるぼくら』著:原田マハ

こちらの2冊。
いつぶりなのかは覚えていないが、久しぶりに小説が読みたくなって手に取ってみた。やっぱり小説はいいなぁ。
実用書を読み切るまでにぐだぐだ時間がかかってしまうのに、小説だと早く続きが読みたくてすぐに読み終わってしまう。
この記事は個人的な「感想メモ書き」なので、「内容の要約」ではない。


<あの絵>のまえで

原田マハさんの作品は以前、『リボルバー』を読んだことがある。
ほんとうにあった出来事を描いた――みたいな小説で、読後感もとてもよかったのでいつか別作品を読もうと思って月日が経った。
ということで、今回本屋さんでうろうろしていたら新刊の棚に並べられてあったこちらを手に取った。
表紙のクリムトの絵も目を引いた。

6編の短編集

本に出会うたび、帯とかあらすじってほんとうにすごいな、と思う。
裏表紙に書いてある、

傷ついても再び立ち上がる勇気を得る極上の美術小説集。

これがそのままで、的確だった。

「ハッピー・バースデー」

主人公の母が明るい人のせいなのか、始終そんなに暗さを感じなかった。
広島弁っていうのがまた、良い。
そういえばわたしも就職できずに地元に帰ったなぁ。
主人公ほど重く捉えてなかったのを考えると、わたしってだいぶ楽観的なんだろうな。

「窓辺の小鳥たち」

なんとなく、いちばん燻ってる感があると思った話。
結果的に「いいキッカケ」をつかめた二人の話なんだけど、事の中心――渦中にいると、それがいいことだとは気付きづらい、というのがうまく描かれている。(なんかえらそうな文章になって申しわけない……わたしの語彙力が足りなくて適切な表現ができない)
自分の、家庭や社会のなかでの立場をふと考えたときに思い出したい話。
いつだって自由でいるということを忘れないように。

「檸檬」

過去の苦しい出来事を強制的に思い出させるのって、ほんとうにキツイよね。
ひとは誰も、大小あれど苦い過去があるんだろうな。
わたしも小さい頃はお絵描きが好きだったし、学生のころ新百合ヶ丘で乗り換えしてたな……と思いながら読んだ。
あの頃、小田原まで行ってみればよかったなぁ。
わたしはいつでも行動力が足りない。

「豊饒」

「おばあちゃん」が命をかけて教えてくれたことを、さらっと短編にしてしまうのがすごい。
小説家になるためにはものすごくいい経験をしてしまっている。
でも主人公・亜依があきらめなかったからこその物語。
おばあちゃんとの約束も、隣人スガワラさんとの交流も。

「聖夜」

蓼科ということは東山魁夷か……と、この話だけすぐに分かった。
後述するが、わたしは長野県在住で蓼科にはちょっとご縁があるのだ。

最初の数行、外が寒くても家の中は暖かいというもの。これだけでこの登場人物たちが富裕層なのだと伝わってきた。
これを読んでいる日、ちょうど外では雪が降って積もり始めてたので、なんだか臨場感が半端なかった。
息子の彼女が、絵に描いたような誠実な子でびっくり。10年も想うなんて。
夫婦の10年より、この20代だった女性の10年のほうが長く感じるだろうになぁ。

「さざなみ」

わりとすっきりした状態から始まっている印象がある。
退院後にすぐ、ひとり旅をしちゃうぐらいだし。
途中で「うまくいかなかったこと」とか、仕事の待遇の悪さとか、健康状態のよくない状態の描写はあったけど、それが「終わったこと」として描かれていたからか、変な心配をしなくて読めた。
これから明るくなっていく安心感というか。
こういう、自分で決めてひとりで行動して得る経験っていうのが、とてもいい。
わたしもモネの絵見たいなぁ。

(まとめ)

わたしのお気に入りは、いちばん最後に収録されている「さざなみ」。
直前に「聖夜」を読んだせいなのか、秋が舞台の話とはいえ直島ってあたたかそうだなぁなんて思ってしまった。
わたしが寒冷地に住んでるせいだが、香川県というだけで暖かそうなイメージしかない。
最後の一文の、「新しい私が、佇んでいた。」
この文からわたしは、さわやかさと強さを感じ取った。やわらかい追い風を受けてる……みたいな。
この一文のおかげで、読後がすごくよかった。
そしてこの短編集を病院の待合時間に読み終わってしまったせいで、すぐに本屋へ行くこととなる。


生きるぼくら

『<あの絵>のまえで』を想定よりもだいぶ早く読み終わってしまったので、短編だったのが物足りなかったのかも……と、いそいそと本屋に行った。
この『生きるぼくら』を読み終わってから知ったのだけど、原田マハさんは蓼科に別荘?をもっているのね、なるほど。
『<あの絵>のまえで』でも蓼科が舞台の小説が収録されていたけど、まるごと一冊、舞台が蓼科だという『生きるぼくら』を店頭で知り、次はこれにしよう! と買ってきた。

記事には場所を明記していなかったのだけど、以前の日記で蓼科湖に散歩に行ってきたことを投稿している。

知っている場所というより、地元に近いのかもしれない。でも地元と言い切れないでもいる(そんなに詳しくない。道とか)

うつくしい話

読中と読後の、率直な感想は「うつくしい話」だと思った。
八ヶ岳を背景に移り行く季節とか、目にしたことがあるせいなのか想像しやすくて、ずっとあのうつくしい光景を思い浮かべていた。
あと登場人物がうつくしい。

そして読み終わったその日、考えすぎてなかなか寝付けなかった。
いじめや引きこもり、がん治療や認知症なんていう現実の重い部分を描いてはいるけど、蓼科で繰り広げられる人間関係があまりにもうつくしすぎて、ちょっと怖くなってしまった。
都会の、田舎に縁のない人がこれを純粋な気持ちで読んでしまったら、田舎を美化して想像してしまうかもしれない……という、謎の心配がわたしを支配した。

理想のおばあちゃん

主人公・人生(すごい名前だよねぇ、読者に己の「人生」を考えさせるための名前なのかなぁ)のおばあちゃん――マーサさん。
このマーサさん、ハイパー理想の「田舎のおばあちゃん」すぎる。
茅葺屋根の家で、ひと昔どころじゃない昔の生活をいまだに続け、自給自足をして、近所づきあいも上手で、若衆にも人望があって……。
わたしが知ってる「おばあちゃん」は誰もかれもが一癖も二癖もある、性格がひん曲がった人しかいない。偏見だとはわかっている。
マーサさんみたいなかわいい性格のひとなら、わたしだって介護をちょっとがんばろうって思えたかもしれない。
こんなマーサさんみたいなおばあちゃん、羨ましすぎるでしょ。
余談だけれどわたしは将来、ひん曲がってねじ曲がった自分の祖母と同じようになるんだろうなと思っている。そういう血筋かなって。

理想の上司たち

・なにかとサポートしてくれる、偶然出会った師匠の志乃さん
  こんないい意味だけのおせっかいな人……存在する?
派遣の仕事ぶりを素直に評価してプライベートまで気にかけてくれる田端さん
  こんないいひと……存在する??

登場人物(とくに大人)が揃いもそろっていい人すぎる。
こんなに赤の他人がサポートしてくれることある……?
主人公・人生視点の話だろうから、人生自体がとてもピュアで素直な人間で、そういう風に目に映っているのかもしれない。それにしても、人間関係が天国すぎて羨ましい。
困ったことがあれば素直に相談する。そうすると志乃さんが親身になって、ときには厳しく正論で、解決策を提示してくれる。
介護はプロに任せろとか、自転車移動が厳しいのだから原付免許をとれとか、あげく原付を格安で売ってくれる人を紹介するとか。
さらっと書いてあることが羨ましすぎてならない。そんなイージーに……いや、人生たちのやってることは決してイージーなことではないのだけど。

人生とつぼみ

わたしの語彙力がないのは勘弁してもらいたいんだけど、面白い関係のふたりだなと思う。
人生にとってつぼみは従妹のような、義理の妹のような……他人。
お互いいじめがきっかけで引きこもりになったり、対人恐怖症になったり、なんとなく境遇が似ているふたり。
わたしの年齢のせいなのか、ストーリーが進むにつれて「いい子たちだなぁ」という感想しか出てこない。
社会経験のない子たちが祖母の介護なんて、えらいこっちゃ。
介護は年齢も社会経験も関係なく大変なことだけど。愛情と根気だけでなんとかなるものじゃないよね。とくに認知症は。

純平

このひとがいちばん、「ふつう」だなと思った。
(ふつうというい単語は難しいのだけど、ここでは「一般的」とか「平均的」とか、そんな感じで受け取ってもらいたい)
うまくいかない就活にくすぶって、父母が甘やかしてくれてることにも気づかない20代前半。その辺によくいる。わたしもそうだったかもな……と、ちょっと恥ずかしくなったりもした。
素人なのに勢いだけで稲作を始めたりしないあたり、とても普通でいちばん身近かもしれない。
人生・つぼみのふたりとは対極にいるのかも。陽キャとまではいかない気もするけど、ふたりの視点から見れば充分、陽キャかな?
で、人生とつぼみがなかなか「ふつう」ではないので、「ふつう」の純平がすごくスパイスになる。
ひとの髪の毛つかんで切ろうとするとこは怖かった。
「切ってみれば?」とか言わずに「ハサミある?」で庭に連れ出すのがものすごく。

だれに薦めるか問題

読み終わってから、ほんとうにいろんなことが頭の中を駆け巡った。
介護職をしている友達の話。認知症にもいろいろなタイプがあると言っていた。
そんな話をしたのは、わたしの実家で母が認知症の祖母を看ているから。
あとはすでに特老にいるけど、認知症の進みが早かったという夫の祖母。義母が一時期、家で看ていた。トイレの世話がほんとうに大変だったと言っていた。
いろいろ駆け巡って、わたしは母にも義母にも、この本をあまり薦めたくないかも……と思ってしまった。
とくに義母なんて、まさに八ヶ岳のふもとにいるし。そこで田畑を耕していたマーサさんと認知症になってしまった祖母が重なりそう。
重なったうえで、現実とまったく違う! となってしまいそうな。
わたしが勝手に心配しているだけで、実際読んだら違う感想を持つかもしれないけど。

考えすぎるとよくない

認知症の祖母。介護の大変さ。
わたしのまわりに転がってる部分に思いをはせると、なんとなく苦しくなってしまう。
前述のように、田舎の人間関係なんて大体がめんどくさいものだし。
けれど、この話を読んで率直に「うつくしい話」と思ったことを忘れたくない。
八ヶ岳の、あの綺麗な景色を見て描かれた話ならなおさら。

(まとめ)

夫の実家は田んぼを作ってるので、結婚してからは種まきと田植えの作業を手伝いに行っている。
わたしの実家は田んぼも畑も所有していないので、田舎で生まれ育ったけどそれまでは農作業には縁がなかった。
もちろん機械を導入している現代的な田植えだけど、それでも慣れない作業はわたしにとっては重労働。
この本に描かれている、機械に頼らない稲作なんて、正直ぜったいにやりたくない。
読みながらあまりの大変さ(想像だけど)に、読んでいるだけなのに息切れしそうだった。
その作業を初心者ながらやり遂げると決意して、実行までした人生とつぼみはほんとうにすごいと思う。

あの綺麗な空と山と田んぼを見て、作者がこの話を書いてくれたなら、読んでよかったと思った部分だけを覚えておくことにする。

蓼科の御射鹿池

積雪もなく、新緑でも紅葉でもない、なんでもない時期にふらっと行った御射鹿池の写真を添えて。

スクエアサイズで撮ることにハマっていた……


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