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伊坂幸太郎 『火星に住むつもりかい?』 【読書メモ】

今(2022年8月現在)の日本で起こってる出来事や論争に
関心がある人は、
この小説に心を揺さぶられるかもしれない。
何が正義なのか。
常識とは何か。
正しいと信じて疑わない人、それを利用する人、犠牲になる人。
気づかない人、考えない人、考える人、戦う人。

この状況で生き抜くか、もしくは、火星にでも行け。
希望のない、二択だ。

p121

こちらの正義は、あちらの悪

p122

加護エイジが、ハッとさせることをいう。
戦争だって始まるときは、“みんな”の大事なものを守るために。

伊坂幸太郎作品の登場人物が語る、豆知識が好き。
しかもそれが意外と後で効いてくる。
特にこういった細かい発言が伏線になっていて、
それが気持ち良いところで回収されるのが
この作者の特徴だと思う。

群像劇が好きになったのもこの作者の影響。
それぞれの人がそれぞれの動機で好きに動く。
ただしその動機や心情が語られすぎないのが良き。
その結果物語全体がある方向に収束していく。
まるで実際の世界みたいに。

警察の高圧的で、自分たちがルールであるような振る舞い。
これには自分も違和感を感じている。
しかしその警察側にも色んな人間がいる。

美容室のカメラの映像が毎回設定どおりに消えるのがいい味を出してる。
一人称、二人称、三人称それぞれの良さを
惜しみなく見せてくれる。

『君が、いいことだと思ってやっていることは、全部無駄だ』と無神経に言えちゃう人は、自分の面倒臭さを正当化する理由を考えたいだけに思えちゃうんですよ

p273

磁石は複数を一つにまとめる時、
磁力の向きを合わせない方が安定するが
全体としての力は弱まる。
向きを合わせると力は強くなるが危険である。
個々の意見を尊重することの意味と、
集団としての意識を
メディアの裏表を使って操作することの危険性。

ぼくりりのあとがき、二十歳の自分には書けなかったな…

もっとディストピア小説読みたい。

※この先、読後閲覧推奨


監視カメラの止まった理容室で客は
「世の中は良くなったりしないんだから。それが嫌なら、火星にでも行って住むしかない」
と口元を緩める。
しっかりやることやってカッコいい男。

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