証言②きのこを食べたら、尿からセシウムが出た、健康不安もついてまわりますよ。

原告団団長 菅野秀一さん(79)南相馬市原町区高倉行政区在住
取材日;2019年1月19日 

 菅野さんは、南相馬・避難20ミリシーベルト撤回訴訟の原告団長だ。原告のみなさんは、菅野団長の指揮のもと、提訴前から週に一度、放射線の勉強会を続けてこられた。長年、市議会議員や区長を務めてこられた人望の厚い菅野さんだからこそ、原告のみなさんをまとめることができたのだろう。 このページに、原告の小澤洋一さんが撮影した、国が特定避難勧奨地点を決めるときに測定した動画をアップしたが、たいへんずさんな測定の仕方である。菅野さんはじめ、原告のみなさんが憤るのも無理がない。ぜひ多くの方に見ていただきたい。(和田)

菅野さん

■ 国は収束したと言っているが、原子力緊急事態宣言は発令中だ
 
 今でも家の両脇は毎時6マイクロシーベルトくらいあります。雨樋の下もまだ高くて毎時1.5マイクロシーベルトくらい。放射線量は事故から6年目までは下がったけど、7年目から下がらなくなった。一度除染した場所でも、むしろ少し上がってきています。
 廃炉作業は続いているし、メルトダウンしていますからね。放射能が出ていることは間違いない。収束はしていないよ。国はわかっている。国は、原発事故は収束したと言っているが、原子力緊急事態宣言は、いまだに発令され続けているんだからね。

 山菜やきのこも14年くらいから測定してきました。たらの芽、わらび、まつたけ、あみたけ、そのほかいろいろとね。
 高いものでは4万ベクレル/㎏あった。イノハナなんかは1万9千ベクレル/㎏。高いですね。
 生え方で汚染の度合いが違うんです。原発事故当初は、木の皮から生えるきのこがいちばん高かった。それが下がってきて、いまは土から生えているのが高い。逆になったね。いろいろ勉強してきてだんだんわかってきた。

 土壌の放射能汚染はものすごい。国はいまだに空間線量しか見ようとしないが、いまも土の中は何万ベクレル、何百万ベクレルもある。一般の人が立ち入りできない放射線管理区域以上なんです。
ずいぶん、放射能にくわしくなったもんだ。

■がまんできずにきのこを食べちゃったら、尿からセシウムが出た

 健康不安もついて回りますよ。子どもの甲状腺がんもそうだし、周りでがんになる人が増えている。食べ物も気を付けないと。女性はみな気を付けていますよ。男性は女性ほどではないね。私も母ちゃんに怒られています。

 じつは昨年、がまんできずにきのこを食べちゃった。うちの山で採れるからね。測ったらセシウムが600ベクレル/㎏あった。ゆでこぼすと30ベクレル/㎏くらいに下がったんだよね。だから大丈夫かな、と。国の基準の100ベクレル/㎏以下だ、と思って食べちゃったんだ。
 まつたけも、イノハナも食べた。やっぱり、まつたけはおいしい。採ったら捨てるのは、もったいないもんね(笑)。でも、まつたけも汚染がひどくて6〜7万ベクレル/㎏ありました。ゆでこぼすと下がるのはわかっているけど、まつたけはゆでこぼしはできない。焼いて食べちゃった。

 事故前は、秋になると採ってきて道の駅に卸していたんです。1回山に入ると40万円分くらいになっていました。いまはもう無理です。山菜も、タラの芽も放射能が高い。こしあぶらなんかは、いまだに12万ベクレル/㎏だ。

でもね、もう食べないよ。食べたら、やっぱり尿中にセシウムが出たんです。うちの原告は、ちくりん舎にお願いして、尿中のセシウムを定期的に測定してもらっています。きのこや、まつたけを食べる前は、0.6ベクレル/㌘くらいだったのが、食べたあとしばらくして測ったら3.2〜3.4㌘/ベクレルに増えていた。
 尿にセシウムなんて出ないのが普通だからね。うちの母ちゃんに怒られました。

 でも、母ちゃんの甲状腺には4センチの結節ができている。私も1.5センチくらいのがある。精密検査をしたら問題はなかったけど……。それでもこれからどうなるかわからないから、心配だね。

(下記は、ちくりん舎さんが原告の方々の尿中セシウム量を調査した結果です。他県と比べての違いがよくわかります)

■自宅と庭先1カ所だけの測定、それもずさんで……

 私は、原発事故の1年前まで市議会議員をやっていました。5期20年務めました。そのあとは高倉(南相馬市原町区にある部落)の区長をやって。
地区長として、高倉地区74世帯の住民とともに生活をしてきました。
 家族は、妻と子供二人の4人です。震災直後は新潟の長岡市に避難したんですが、その年の5月に戻ってきました。
 
 南相馬市は、2011年7月1日から、年間20ミリシーベルトを超える恐れのある世帯を〝特定避難勧奨地点〟に指定していきました。しかし、国が指定する地点を決めるために行った、放射線量の測定の仕方がいい加減でね。
 少なくとも自宅の3〜4か所を測って、その平均値で指定するかどうかを決めるというならわかるが、測る場所は玄関と庭先の2カ所だけ。空間の放射線量の測り方も、測定器を当てる時間が国の測定マニュアルに定められているより短かったりと、おかしいことばかりで。

 そういう国のやり方がおかしいということは、「ふくいち周辺環境モニタリングプロジェクト」を立ち上げた小澤洋一さんたちとの勉強会で、だんだんわかってきたんです。

 自宅の放射線量も、11年の5月頃だったか自分で測ったら、玄関前は毎時2.6マイクロシーベルト。家の両脇は、山から水が流れてくるからか毎時20マイクロシーベルトくらいあったな。
 
そんな線量の高い状況でも、玄関と庭と1カ所ずつ測って毎時3.2マイクロシーベルトないと特定避難勧奨地点に指定されません。
 子どものいる家は毎時2.6マイクロシーベルトで指定されましたが、うちは子どもが大きくなっていたのでされませんでした。もう子どもは出て行って籍はないのに指定されたうちもあってね。そういういい加減な基準で、隣は指定されてこっちはされなかったとなったから、住民の間に分断が生まれていった。だから、こんないい加減なことではだめだと思ったんです。​

(下記の動画は、原告の小澤洋一さんが撮影したもの。国が特定避難勧奨地点を決定するため、自宅を測っている様子が記録されています。小澤さんの解説入りですのでご覧ください)

■でたらめな国のやり方を裁判で訴える

 そこで、とくに放射線量が高い山間部にある我々8行政区で始めたのが、ADR(裁判外紛争解決手続)です。これは、この20ミリシーベルト撤回訴訟の前にやったんです。
 道路一本挟んで特定勧奨地点に指定されなかった家だって、同じように放射線は高いんだから、住民みんなに同じように賠償しなさいと東電に求めた。
 じつは、8行政区の区長がまとまるのは、このADRが初めてのことでした。それまでは、あまり接点がなかったからね。
 でも、私が8行政区の区長に呼びかけて説明会を開いたんだ。小澤さんも、そこへ来て国の測定のおかしさなんかを話をしてくれました。それでまとまった。その結果、特定避難勧奨地点に指定されていない地域にも精神的賠償が認められました。

 それはよかったんだけども、それだけでは済まなかった。どうしてかというと、勉強していくうちに、我々が住んでいる地域をチェルノブイリ原発事故の避難区域に当てはめたら、そもそもみんな避難しなきゃなんねえくらいの土壌汚染があるということがわかってきたからだ。
 チェルノブイリには、チェルノブイリ法というのがあって、55万ベクレル/㎡以上なら義務として避難しなくちゃいけない。空間線量だけみても年間5ミリシーベルト以上の地域が避難の対象になっているんです。
 我々が住む場所なんて、55万ベクレル/㎡どころか100万ベクレル/㎡を超えるところも、いまだにあります。

高倉汚染図

(菅野さんがお住まいの南相馬原町区高倉行政区汚染地図。2018年9月に測定されたものだが、山間部には100万ベクレル/㎏(毎時1マイクロシーベルト以上)あるような場所も多く存在する。これはチェルノブイリでは、義務的避難エリアに相当。クリックすると拡大し、リンク先にとびます)


 政府は、我々がずっと反対していたのに、何度も特定避難勧奨地点を解除しようとしていた。結局、14年12月28日に住民の意向をまったく無視して避難の解除が急に決まったんだ。

 国がどうしても譲らない、住民と話し合う気もないなら裁判しかないとなった。指定するときは毎時3.2マイクロシーベルトで指定したのに、解除の時は毎時3.8マイクロシーベルト(年間20ミリ)なんていうやりかたも、おかしかったからね。
 指定の仕方、測定の方法、解除の基準もずさんで、ましてや土壌汚染も調べない。それで、急きょ8行政区の区長を集めて、裁判に訴えようとなった。誰一人反対はなかったね。

画像3

  (福島民友ネットより。この8行政区の住民ら世帯合計808人が訴えた)

 日本全国、世界中みても一般公衆の被ばく限度はみんな年間1ミリシーベルトなんだ。ICRP(放射線防護委員会)も、そう勧告しているわけだから。
年間20ミリシーベルトなんていうのは福島県だけ。
 原発労働者なら、年間5ミリシーベルトの被ばくで白血病を発病した場合、労災に該当するんです。我々は住民なのに20ミリですよ。特定避難勧奨地点が解除されたあとも、ここに住み続ける限り長期間低線量被ばくをするわけです。

■若い人は戻らない、祭りも中止

 原告団の団長、行政区の区長として胸が痛いのは、地域の崩壊が進んでしまったことだな。若い人たちは出ていって帰ってこないからね。
 行政区によっては婦人会、消防団、PTAもなくなったところがある。小学校も1クラス8人〜9人くらいに減っています。原発事故は、そういう地域の崩壊、さらに家族の崩壊を引き起こしているわけだ。国の責任は大きい。

 確かに、人間のやることには必ず間違いがある。でも一度、原発が事故を起こしたらこういう大変な目にあうんだから、やっぱり黙っていてはだめだ。国を相手に裁判をやって、全国の人に知ってもらわなくてはなんない。だからこそ、裁判も東京でやることに意味があると思ってやってきた。

 個人的に悲しいのは部落の行事ができないことだね。今年、震災後はじめて、人を集めて神楽保存会、芸能発表ができた。伝統行事なのにずっとできなかった。よそに出て行った若者もこのときは帰ってきてくれた。
 みんな、うちの公民館に飾ってある昔の子ども神楽の写真なんかを見て懐かしがっていたよ。

■裁判では経済より命が大事だと伝えたい

 やはり、金よりも命がいちばん大事。もちろん、生活の安定は大事だけれども、地域のみんな健康で仲良くやれるのがいちばん。経済優先は間違っている。
 我々区長というのは、地区住民の命、財産を守るのが務め。原告団長としても同じだ。国には、事故の責任を認めてほしい。裁判に関しても、そういう判決を望んでいます。

 それと、我々は長期低線量被ばくをしているんだから、国の責任として健診の制度や、がんなのどの病気が出たときは医療費免除とか生活の補償とか安心できる制度をつくってほしい。
 これだけひどい事故を起こして、もうすぐ10年になるというのにまったく原状回復ができていないのだから、原発をやめて自然エネルギーでやっていくということも、国の方針として示してほしいね。

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福島第一原発事故以降、福島での取材を重ね、12年に福島の今を伝える季刊誌「ママレボ」を創刊。ままれぼ出版局を立ち上げる。「女性自身」でも、原発事故や汚染の問題を中心に発信中。 ままれぼ出版局の本は、こちら。http://momsrevo.blogspot.com/