令和二年八月十三日 庭にて
暑い。
茹だるような暑さとはこのことだね。
この時分なら元気に鳴いている蝉も声を潜めている。
ジージーという油蝉の声が、今は懐かしく感じるね。
***
さて、今日の水心子正秀は非番である。
ここのところ、時間遡行軍の動きも鈍く、男士が本丸を出るのは遠征がほとんどだ。
だから、今日の水心子は手合わせのために鍛錬場に向かった。
彼は勤勉な方だから、こういう時みっちり鍛錬を行い、任務を怠らない。
真面目なのはいいことだけど、なんでも100%の力でやろうとするのは、なかなか見ているこっちがひやひやするものがあるね。
まあ、それが彼のいい所なんだけれども。
鍛錬を終え、その帰り道。
水心子は顔を洗いに水場に向かった。
ざぶざぶと頭を洗いたかったから、洗濯場の方へ向かったんだね。
あまりの暑さに顔は真っ赤になり、上気した頬からまるで湯気が出ているようだった。
荒い息を整えながら、水心子は進む。
すると、水心子がふと立ち止まった。
なにかを、じっと見ている。
向日葵だ。
水心子って花に関心を持つタイプだったんだね。
水心子は向日葵に近づき、顔を寄せる。
「こんなに太陽の光を浴びても、こいつは萎びないんだな」
そう呟くと、水心子は光を手のひらで遮りながら、空を見上げた。
目の奥がちくちく痛むような力強い光線。
水心子は洗濯場に下り、そこにあった盥に水を入れ戻ってきた。
そして、先程まで顔を寄せていた一本の向日葵にたっぷりの水を与える。
乾いていた土が焦げ茶色に変わったのを確認し、水心子は首に巻いていた手ぬぐいを盥につける。
手をつけると川の水はまだひんやりと冷たい。
つけていた手ぬぐいを絞り、水心子は顔を拭いて目を細めた。
水心子は母屋に戻ることにした。
もう一度、空を見上げると、太陽には薄い雲がかかり、先程よりは過ごしやすい気温になったように感じられる。
あんなに暑かったのを忘れ、そこかしこから蝉の鳴き声がし始めた。
盥を戻した水心子は向日葵に言った。
「また来る」
***
今日は水心子の知らない一面を見られて面白かったな。
源清麿 拝
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