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職業と貴賤

尊敬する作家の先生の言葉で好きな言葉があります。

「職業に貴賤はない、でも働き方には貴賤がある」

僕はこの言葉を聞くまで、苦手になっていた職業の方がいました。

警察です。

今も得意かと言われれば胸を張って
「ハイ!!得意ですっ!」
と言える訳ではないですが、この言葉を聞いてから、職務を全うしていることに対して尊敬できるようになりました。

そもそも警察を苦手になったのは、9年前のある出来事から。

2011年エフアンドエムの福岡支社で勤務していた時のことでした。


24歳。
今よりももっとワーカホリックで、その日も夜中の3時まで資料作り。

翌日は長崎で3アポ。
当時営業成績で競っていて、どうしても外せない経営者のアポが3つ。博多駅から出ている「特急かもめ」には絶対に乗り遅れられない。

資料作成が一段落し、翌日も早いのでそろそろ寝ようとしていたちょうどその時だった。

なにやら外が騒がしい。

町中に住んでいたので、酔った大学生が夜中に奇声をあげていることはあっても、この時間までうるさいことはこれまでになかった。

そういえば、1時ごろも外で何か音がしたような気がする。

寝る準備を進めていると、ほどなくして家のチャイムがなった。

ドアを開けると青い制服に黒いベストを着込んだ4人の警察官。
福岡県警の文字。警察24時で良く見るアレだ。

「このあたりで事件があったので、お話を聞きたいんですが、ちょっとお時間よろしいですか?」

警察官が4人も事情聴取に来るなんてきっと何か大きな事件に違いない。
もしかしたら1時ごろの音のことかもしれない。

明日は早いけれど、一善良な市民として何か協力しなければ。
それに何が起きたかちょっと気になるし。

「そういえば、1時ごろ外で音が・・・」と話し始めようとすると、

「夜中でここだと近所迷惑になっちゃうんで、パトカーで伺ってもいいですか?」と小声で警察官。

促されるように、アパートの前に止まっているパトカーに乗り込む。

「何かあったんですか?」

野次馬根性も働いて、ドキドキしていた。

詳しくは言えないと言葉を濁され、逆質問の嵐。

「いつもこんな時間まで起きてるんですか?」

「何してたんですか?」

(こちらの状況も必要なのかな。)
割とこの時間まで起きてます。仕事してましたよ。

「普段ベランダって見ます?」

(ベランダで何かあったのか。)
いやー仕事で家にあまりいないので、ほとんど見てないですね。

「さっき音がしたって言いましたけど何時ごろでした?」

「なんでその時に外にでなかったんですか?」

音がしたのは1時頃。
そんな時間に外で物音がしても普通外に出ませんよ。
まして仕事していたのに。

「1時ごろ何してました?」

「ベランダはいつもあの配置なんですか?」

さっき仕事だと言いましたけど。
ってなんか雲行きが怪しくなってきた。これ、アリバイ聞かれてる。

「なんでベランダの配置分からないんですか?」

普段はランドリーだし、仕事でほとんど家にいないからベランダなんて見ないですよ。しかも一階だし出る理由もありません。

「自分の家なのにおかしいですよね。」

ちょっと待って。
これまでの質問もアリバイや行動パターンを聞くようなものばかり。
これは確実に疑われている。

「あのー、もしかして僕なんか疑われてます?」と恐る恐る聞くと、

「岩切さん、我々はあなたを疑っています」

間髪入れずに言われた。

覚悟していたけれど、意味がわからない。

そもそも何が起こっているのかさえも分かっていないのに。

ベランダで何かあったのはなんとなく分かる、そして1時の音が関わっていることも間違いなさそう。

叩みかけるように警察官は言葉を紡ぐ。

「あなたのベランダに遺留品がおちてたんですよ」

遺留品。
ドラマでしか聞いたことのない言葉が、僕のベランダに落ちていた。
くらくらしてしまった。

言い分としてはこう。

自分の家のベランダに遺留品が落ちていた。
自分の家なのに、ベランダの配置が思い出せないなんてあり得ない。
遺留品のことを隠したいからに違いない。
つまり、あなたが犯人です。
自白してくれたら、あなたも私たちも早く済みます。


え?

ええ!??

毛利小五郎もびっくりの雑推理。
むちゃくちゃだ。論理の飛躍も甚だしい。
論理のドラコン賞があったら、ぶっちぎりの1位だったと思う。

「やってませんよ。そもそも何があったのかわかってないし。」

そんな風に返しても

「岩切さん、早く終わらせましょうよ。」

と何を言ってもその繰り返し。

そもそもベランダの遺留品ってなんなんですか?

怖かったけれど思い切って聞いてみると、やれやな空気を出しながら教えてくれた。



「女性ものの下着です」



そう、僕は下着泥棒の冤罪をかけられて、朝の5時過ぎまでパトカーに拘束されていた。
ベランダに下着が散乱していたらしい。

まず、犯人だとして、下着をばらまいてベランダに置いとくってどんな趣味なんだと。
盗んだ下着を夜中はベランダで干しといて、朝になったら取り入れるつもりの犯人なんているのか、と。もしそんな人がいたら速攻捕まえた方がいいのは間違いない。

「やっただろ」「やってない」
そんな押し問答を2時間ほどパトカーで続けていた。
外はうっすら明るくなり始めていた。
最初の4人の警察官のうちの1人が僕と押し問答をしていた警察官を呼びに来た。

パトカーに1人残された後、5分もしないうちに二人が戻ってきた。

「今日は終わりです」とさっきまでの凄みが嘘のように、普通の声で言われた。

額にはすごい量の脂汗をかいているように見えた。

もしかしたら、他の人が犯人である証拠が見つかったのかもしれない。

かくして、僕は5時に解放された。

最後に鑑識の方が来て、指紋を取っていった。

「こんなことしていいんですか」と聞くと

「まぁこれも仕事なんで」とお茶を濁されて、いつの間にかパトカーはいなくなっていた。

僕は、結局そのまま寝ずにかもめに飛び乗ったのだった。


ということがありまして、それ以来警察は苦手でした。
ニュースで見る冤罪事件も全く他人事とは思えません。下手すれば、僕もあのまま留置所行きだったので。

今振り返れば笑い話ですが、当時は警察がかなり嫌いになりました。

「誰でもいいから誰か捕まえる仕事でしょ」と思うようになっていました。

しかし職業についている人が悪い訳ではなくて、個人の働き方として卑しかった(僕はそう感じました)だけで、
警察が全部そうであるという風に見てしまうのは、良くないなと今は思っています。

正義のために市民のために働いてくださっている警察の方も大勢います。

職業に貴賤はなくとも、働き方に貴賤はある

今日は、自分の身に起こった冤罪事件を小説っぽく書きたくなってしまいました。
たまに文体変えてみるのも面白いですね。飽きずにnote続けていきます!

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