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広告コピー、あるいは時代を映す鏡について。

とある勉強会で、広告コピーと時代性の関係性についてまとめて発表した内容を、noteでもシェアしておこうと思います。

コピーは刹那的。

広告コピーはその場その場で目を引く、見る人を振り任せることをしなくてはいけません。とても刹那的です。十年後にはわかってもらえる、ではいけません。100年後に評価されても広告としては意味がありません。広告は生ものです。長期保存は効きません。今、その時代、その場所に生きている人だけをめがけてコミュニケーションをする。それが基本的な広告の姿です。


コピーは時代を映す鏡。

「コピーは時代を映す鏡」と言われたりします。本当でしょうか?
たとえば、第一三共ヘルスケアの栄養ドリンク『リゲイン』が1988年に展開していた広告キャンペーン。そのコピーは、こんなふうでした。

「24時間戦えますか?」
(第一三共ヘルスケア/リゲイン/1988年)

バブル真っ只中、イケイケどんどんで働くサラリーマンたちの応援歌として大ヒットしたCMです。とても人気があって、CDもたくさん売れました。では、このコピーを2019年の今、使うとどうなるか?

ブラック企業認定です。

はい、働き方改革関連法案、労働基準法に引っかかります。もう第一三共はブラック企業認定です。ネットが荒れます。あれだけヒットして、カラオケでまで歌われていたコピーも、30年経つと全く違った捉え方をされる、そんな典型ではないでしょうか。さて、広告コピーが時代とともに変化?本当に?まだ疑っている人もいるかもしれません。下の表は時代ごとの代表的な広告コピーを抜き出したものです。有名なものばかりなので覚えていらっしゃる方もいるのではないでしょうか。今日はこの中から「家族」「仕事」「女性」に絞って、どう変化をしてきたのか見てみたいと思います。

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家族について

まずは「家族」をテーマに見るにあたって、「味の素」さんが食卓の光景をどんなふうに描いてきたかを見てみることにしました。
1967年、戦後が終わり、高度成長期に入った頃のコピーは、

「おかわりもお遊びも もうお兄ちゃんに 負けません」
(味の素/1967年/高度成長期)

戦後が終わり、高度成長期に入った頃のコピーは「おかわりもお遊びも もうお兄ちゃんに 負けません」。兄弟が小さな食卓で競い合うようにご飯を食べてモリモリ成長していく姿が目に浮かびます。
そして、1986年、バブルを迎えた頃のコピーは、

「大きくなったら、お父さんになるんだ」
(味の素/1986年/バブル期)

キャッチボールしたり、一緒にお風呂に入ったり、お父さんに憧れている少年、といったイメージでしょうか。まだまだ父の威厳の名残を感じます。ちなみに「昼間のパパは光ってる」という清水建設の有名なコピーも同じバブル期に生まれたものです。お父さんがバリバリ仕事して、鬱陶しくはあるけどまだ一定の存在感は残っていた時期なんだと思います。同じ父として、とても羨ましく思います。
さて2011年、この時期のコピーはこうなりました。

「ごはんだよ。帰っておいで」
(味の素/2011年/喪失期)

ちなみにビジュアルはこちらからご覧いただけます。
新聞・雑誌広告のご紹介|広告ギャラリー|味の素株式会社
https://www.ajinomoto.co.jp/kfb/cm/newspaper/pdf/2010_10.pdf


なんとなんと。兄弟で争うように食べ、お父さんに憧れを持っていた子どもたちが家に帰ってこなくなり、彼ら・彼女らに呼びかける広告に変化しました。恐ろしい時代ですね。

さ、改めて、3つの年代のこのコピー。これらが描いていたのは、こんな家族像でした。1967年、世代をまたいだ家族が一つの食卓でご飯を食べる「サザエさん的拡大家族」。1986年、「核家族化」が進みつつも、父の存在感はまだ残されていた時代。そして、2011年は家族の繋がりが弱まってくる。このように読み取ることができるのではないでしょうか。

仕事について

「仕事」についてはアルバイト情報誌をもとに見ていきます。
高度成長期からバブルがはじまるまでのちょうど間の時期、1979年に学生援護会から求人情報誌が発刊されました。その当時のコピーがこちら。

「松下は日経ばかり読みだした。盛田は先輩とよく逢っている。出遅れたかな、オレ。」
(学生援護会/1979年/高度成長期)

就職することへの前向きさが伝わってくるコピーです。つづいて、バブル期の1987年、男女雇用機会均等法が生まれた翌年のコピーを見てみましょう。

「プロの男女は差別されない。」
(リクルート/1987年/バブル期)

女性目線で仕事探しを応援するようなコピーになりました。そして2002年、失われた30年とも呼ばれる喪失期に出てきたのが、

「失業率にわたしも入ってるんだっけ、 入ってないんだっけ。」
(リクルート/フロムエー/2002年/喪失期)

1987年に華々しく社会に進出し始めた女性たち。しかし失われた30年には「失業」の波に飲まれ、厳しい状況に置かれてしまうことになりました。
ちなみに触れませんでしたが、1960代、求人情報誌の広告は……、ありませんでした。当時、仕事探しといえば、知人のツテで紹介されるのが基本の時代。働き手が広く情報を集め、希望の会社に応募するという就職活動は存在していませんでした。
さて、改めて3つの年代のコピーを振り返ると、こんなふうに見てとることができるかもしれません。まだ求人情報誌が存在しなかった1960年は、限られた人脈で限られた場所で働く「人材の固定時代」。1979年、求人情報誌の発刊によって生まれた「人材の流動化時代」、そしてそれは1986年、男女雇用機会均等法の成立によって女性にも広がったものの、就職氷河期には職探しが人ごとではなくなってしまいました。

女性について

3つ目のテーマは女性です。高度成長期を終えた1975年、バブル期の1989年、そして今年のお正月広告から女性の置かれた状況を見ていきましょう。
まず、1975年、ハウス食品が世に送り出したのが、

「わたし作る人、ぼく食べる人。」
(ハウス食品/1975年/高度成長期)

女性は家で料理をし、男性は外で働く。そんな姿が浮かびます。これも現代で言うとちょっと怪しいですね。炎上の香りがかなり漂います。そして1989年、旭化成、ヘーベルハウスが二世帯住宅の広告で打ち出したのが、

「ポスト長男。」
(旭化成/ヘーベルハウス/1989年/バブル期)

女性が社会に出て、正社員の給与を手にするようになったことで住宅を購入するターゲットとしてロックオンされるようになりました。怖い怖い。
そして、今年、2019年のお正月広告に出されたのが、

「女の時代なんて、いらない?」
女だから、強要される。女だから、無視される。女だから、減点される。女であることの生きづらさが報道され、そのたびに、「女の時代」は遠ざかる。今年はいよいよ、時代が変わる。本当ですか。期待していいのでしょうか。活躍だ、進出だともてはやされるだけの「女の時代」なら、永久に来なくていいと私たちは思う。時代の中心に、男も女もない。わたしは、私に生まれたことを讃えたい。来るべきなのは、一人ひとりがつくる、「私の時代」だ。そうやって想像するだけで、ワクワクしませんか。わたしは、私。
(西武・そごう/2019年/喪失期)

安藤サクラさんがパイを投げつけられているビジュアルの広告で、話題にもなりました。
1975年には家庭の中にいることが当たり前だった女性が、十数年後に社会に飛び出し、飛び出しきったのちに、私は私、僕は僕という、より個人への意識を高めていくようになりました。
家で料理をする人から、社会に出たことで消費のターゲットへ、そしていいように扱われたくなくなんてないと言う主張へ。女性の皆さん、本当にお疲れさまです。

これからの広告コピーは?

さて、いかがでしょうか?時代、時代でコピーは変わり、それを振り返ることで改めて当時の状況が見えてきたように思いませんか?

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縦が時代の流れ、横がそれぞれのテーマ、そして一番右にそれらを全てまとめて「日本」と置いた表です。では、これからは、どんなコピーが登場してくるのか。僕もコピーライターなので、少し考えてみました。

●家族の未来

サザエさん的拡大家族から核家族へ、そして家族の距離が離れてしまった今、日本の家族にはどんな未来がやってくるのか。考えたのはこんなコピーです。

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ともすればこれからは血縁よりも、個人を中心にした緩やかなつながりの方が家族的な役割を担ってくるのかもしれません。映画『万引き家族』のような疑似家族、シェアハウス、子ども食堂など、食卓の風景は血縁家族以外の人と囲む方が増えてくる、そんな時代がやってくるかもしれません。

●仕事の未来

次は仕事の未来です。人材の固定化からはじまり、求人情報の公開によって人の流れが流動化し、さらにその流れが進んでいる現在。考えたのは、こんなコピーです。

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今、副業とかパラレルキャリアとか言われていますが、あまり進まないのは副業っていうからだと思っています。主とか副とかじゃなく、どちらも頑張る。どちらも大切。大谷翔平の二刀流のように、どちらも頑張る人を二刀流社員と呼んだらどうか。リクルートあたりが言うといいんじゃないでしょうか。

●女性の未来

さあ、最後に女性の未来を考えてみましょう。家庭の中から社会にで、私は私、性別を超えて輝く女性が増えてきました。さて、コピーはどうなるのか。

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個人の時代を生きる女性たちにも老後はやってきます。結婚をするのか、だけど結婚にもリスクがある。だけど一人で生きるのも大変。そんな長い老後のリスクヘッジとして、気の合う女友達同士で気楽に過ごす、シニア女性のためのシェアハウスが登場してくるかもしれません。

まとめ

さて、先ほどの表の一番下に「未来」を追加しました。

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家族は血縁よりも非血縁のつながりが、仕事は会社ではなくプロジェクト単位でのつながりが、女性は老後をシェアしていく友人同士のつながりが、より強くなっていく未来。日本全体では個人がこれまで以上にフラットにつながっていく、そんなふうに勝手に予想をしてみました。

いかがでしたでしょうか。広告コピーからもこんなふうに時代を読み取っていくことができるということをお分かりいただけたのではないでしょうか。そして、ちょっとは広告やコピーについて興味を持っていただける機会になればうれしいなと思います。



長文にお付き合い、どうもありがとうございました!

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