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青く漂う夜

スマホに刻まれた連絡先を眺めては、その先に思い浮かぶ顔の少なさに悲しくなった。そしてそれは鏡だった。
バイト先に向かう道程にOMSB氏の新作を聴きながら首を揺らす、夕立が降りそうな空がそのまま落ちてきそうな気がした。

十月十四日
バイトまで後二十分だ。
靴はボロのおさがり。服は汚れてもいいような帰宅後貧乏性が作用して洗濯機に辛うじて救われるようなものを着て歩いている。格好は十年前と悪い意味で変わらないのかもしれない。仮に頭頂部に煉瓦でも降ってきたら、さながら始めて家に届いた卒業アルバムの3枚目の自分が目の前に現れるだろう。
いいかヤンガン見失うな。
耳元で呟いて消えた。
いつもの信号のガードレールに腰掛ける。
交差する車の種類の少なさに何とも言えない気持ちになる。
油と肉の破片が染み付いたズボンのポケットからウォークマンを取り出す。OMSBから久石譲へ切り替える。
まだらでピンク色の空に雲が浮かんで太陽は見えない。信号機が黄色から赤に変わって、後方から子連れの弾んだ声と自転車の錆びついた金切り声が響いた。俺は少し疲れた。バイトまで眠った。久石譲の音楽が耳に届いた。
それから陽が少しずつ傾き出した。
夕暮れは街の前方に影を落としながら、遠くに視認できるきらきらと光る海の方へと沈んでいった。
靴は以前として汚く見える。
しかし少し隠れた。
信号は赤だった。すっかり夜になり、赤い蛍光がくっきりのその輪郭がなぞれるほどに輝いていた。暗い夜になった。排気音のしない、しんとした無口な車共が俺を置いて家路や出掛けるために急いだ。欠伸をすると青に変わった。
緑が映える。夜は少し青いことを知る。
ウォークマンをポケットに入れ、横断歩道を渡った。
さながらソナチネのラストシーンのように。

毎日マックポテト食べたいです