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豆腐メンタルな夫と口の悪い妻の修羅場

我が家ではあまり喧嘩をしない。

夫が対人折衝がとにかく苦手だからだ。夫はおおらかで優しくめったなことでは怒らないが、人見知りで極度の緊張体質であり、緊迫した空気を嫌う。タクシー待ちの列に割り込まれても何も言わないし、居酒屋で店員さんが一向にオーダー伺いに来なくてもじっと待つ。「すみませーん」と叫ぶのは私だ。あと、皿や箸が足りなくても「お皿くださーい」とお願いするのは私だ。自分で言えよ。

私は人と話すの好きで初対面でもあまり緊張しない。愛想よく誰とでも話す。だが短気だ。そして思ったことをすぐに口に出してしまうタチでとにかく我慢ができない。

そんな私も、どうやら人より怒りっぽいらしいと自覚はあったため、結婚してからは何か文句があっても夫にストレートにぶつけないようにと胸に誓っていた。

そんな中、夫が在宅勤務になった。

電車通勤から解放されて昼ご飯まで勝手に出てくるようになった夫、かたや、子どもがどんどん目が離せなくなる中、炊事と片付けの量が増えてイライラがつのる私。

大したことじゃあない、怒るほどじゃあない、と自分に言い聞かせるも、朝起きてから寝るまで夫の行動に心の中でいちいち罵倒しまくっていた。

まず、朝、起きろ。せめて8時には起きろ。なんで無駄に朝5時まで起きてんだ。こっちは4時にミルクとおむつ替えで起きてまた7時に起きて、朝ごはん食べさせて片付けて洗濯して犬にご飯あげて掃除機かけて洗濯干して、、と猛烈にバタバタしてる中、あんた起きてきて、こっちはワラにもすがりたいから「ちょっと子ども見てて」と言ったら「タバコ一本吸いたい」ってマジぶっ倒すぞゴラ。

からの、午後になって子どもをやっと昼寝させて一息ついたら、あんたも昼寝してるのはなぜなんだー!

とまあ毎日こんな感じで心の中で罵倒して気を紛らわせていたが、ある日、うっかり我慢するの忘れて夫に口に出して言ってしまった。

たしかその日は子どもの寝かしつけに死ぬほど苦労して、やっと寝るなーと思ったら、タイミング悪く、飼ってる犬が私たちのいる部屋のドアを鼻先でこじ開けてバターン!と入ってきてしまったのだ。その音で寝かしつけの苦労が水の泡になり、私、激オコ。

そのままなんとか、もう最後は意地で全力出し切って寝かしつけたあと夫の元に行ったら、夫はテレビ見ながら、

「今日は苦労したねー」

と、のんびり言ってきてめちゃくちゃ腹が立ったのだ。でも、よくよく考えるとこれって夫のせいでは全くない。

とにかく私はそこでキレた。具体的には、

「在宅でいつもより楽してんじゃねえよ、それでも父親かよ。あと、オメエ犬ちゃんと押さえてろや。何にもしねーじゃねえかよオメエ、母子家庭かここは?」

ということを脈略なく思いつくままに。途中からちょっと孫悟空みたいになってる。

夫からしたら、突然も突然。しかも私がキレたポイントが犬の乱入だ。わけがわからなくて驚いただろう。実際驚いていた。そしてどうなったかと言うと、

椅子から転げ落ちて、そのまま目を回してしまった。


死んだふりしたのかと思った。

恐る恐る近づくと、夫は床に倒れたまま本当に目を回していて、立ち上がれない様子だった。

とりあえず冷たいお茶を汲んで飲ませた。

思えば、私たちの結婚式でも、夫は教会のバージンロードを歩くのに、大勢の人から見られている中「誓います」の一言を発するのに緊張しまくってガタガタ震えていた。そしてそのあとのビーチパーティーで、めまいを起こして倒れた。

あの時は前日飲みすぎて気持ち悪くなったと言っていたが、緊張によるストレスが原因だったんだろう。


私は思った。申し訳ないことをした、と。

誰だってキツイ口調で酷いことをことをまくし立てられたら嫌だろう。私は今まで文句を言うことでストレス解消していたが、文句を言ってスッキリしていただけでく、人を言葉で攻撃してストレス解消していたのだと気がついた。

夫が起き上がった。

そして「溜め込む前に言ってよ」と言った。

現状の家事、育児が決してできない量ではない。ただテンパってる時はちょっと手を貸してほしい。溜め込むつもりはなく、小さなことで怒る癖を治そうとしたらこうなってしまったのだ。

私は、家事の負担軽減をして欲しいのではなく、何かしら発散させて欲しかったのだと気がついた。夫との喧嘩も発散の一つだと思ったがそれはどうやら難しい。

考えた結果、1日30分間、ランニングをさせてもらうことになった。考えてみれば産後ずっと1人きりの時間が取れてない。好きな曲も聴けてない。運動不足で太りそれもそれでストレスだったので一石二鳥だ。

それ以降1日30分のランニングで夫婦円満が保たれている。

それはそれだが、うちの夫は本当にあんなに心がデリケートで、今までどうやってやってきたのか、不思議でしょうがない。