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パイロットに向かない人の特徴は? 日本航空の元機長に聞いた"機長の条件"

エアラインのパイロットとして、最終的に機長になるには特殊な能力や才能が必要なのか? 機長という立場に立つ人の人間性について、日本航空に40年近く勤務し、7年以上機長を務めたKさんに話を聞いた。

「特別な才能は不要」人間力で決まる機長

ーパイロットになるのに必要な条件とはどのようなことだろうか?

「パイロットになるには特殊な能力やセンスが必要だと思われているかもしれませんが、実際はそんなことはありません」

たしかに、日本航空の自社養成パイロットの応募資格をみると「4年制大学または大学院(修士課程)、高等専門学校(専攻科)を卒業・修了されている方」となっており、学部学科等の指定はない。
また、身体条件として「各眼の矯正視力が1.0以上であること」などの視力の規定があるほかは、「心身ともに健康で、航空機の乗務に支障がないこと」のみだ(※日本航空株式会社 職種別募集要項 新卒より 2022年4月時点)。

「学力と身体検査で絞り込んでから面接で採用、という流れは一般的な会社の採用とほとんど同じはずです。つまり、ある程度の学力と健康な身体があればパイロット候補生として採用はされるんです」

ーでは、パイロット候補生として採用されたあと、どのような人物が機長になっていくのだろうか?

「私個人の感覚ですが、ごく普通の常識と真っ当な人間性を持った人が機長になっていると思います。パイロットに才能や天才的なセンスは必要ないんですよ。強いていうなら、空間認識能力……つまり物体の位置や方向、姿勢、サイズなどの関係を正確に認識する能力が高い人は有利かもしれませんが……」

「それよりも、運航管理者や客室乗務員などと適切にコミュニケーションが取れることや柔軟な思考を持っていること、己を過信せず常にニュートラルな心を持っていることが大事かもしれません。利己主義者や我を押し通すタイプで、そういった性格であることを自身で理解してない人は不適切だと思います。

ー上述した性格の人間がパイロットに向かない理由は具体的に何なのか?

「機長には大きな権限があります。『最終的には機長の判断に従う』のがルールですが、例えばフライト前のミーティングで燃料をどのくらい積むか決める際、会社の意見や運航管理者の提案に一切耳を貸さないようでは困りますよね?」

「人は権力を持つと天狗になるものなんです。自分の性格をよくわかっていないと、自惚れたり勘違いしたりしていることに気が付かず、パワハラをしてしまったり、最悪大きな事件や事故を起こすことになってしまいます」

ーでは、機長に適さない人間はどのように見分けるのか?

「訓練を行う中で、複数の教官とチェッカーが判断します。訓練中にプレッシャーやストレスを意図的にかけたり、何気ない会話をしたりすることでわかるものですよ」

地頭がよくても「勉強が継続できない人」は向いてない

ーパイロットのフライト以外はどんなことをしているのだろうか?

「勉強です。飛行機の操縦には、かなり覚えることが多いんです。例えば航空法は、日本だけじゃなく海外の法律も学びます。それから航空気象、救急法など。それと、飛行機のコクピットをご覧になったことがあればわかるかもしれませんが、コクピットは全面スイッチやハンドルだらけです。そのスイッチとハンドルすべての操作を覚えなくてはいけません」

「さらに、機体ごとにオイルの温度は何度以上か、エンジンの回転数は何%がマックスかなど……恐ろしく覚えることだらけです。訓練生から副操縦士、機長へとステップアップするたびに訓練があり、訓練中は激痩せしたり頭にハゲができたりするくらいプレッシャーを感じながらみんな猛勉強します」

「一般的に、機長になるのに10年かかるといわれています。10年間厳しい勉強を続けますし、機長になってもまた日々勉強と経験の積み重ねです。エンジントラブルがあったら、ハイジャックされたら……などさまざまな状況をシュミレートして常に考えていますし、とにかく勉強を続けられる人でないとダメですね」

パイロットのやりがいはゴルフと通じるものがある

ーそんなパイロットのやりがいとは?

「私の場合はやはり、空を好きなように飛べることですね。もちろん、行き先や航路、おおよその飛行時間は決まっていますが、その中でどのように飛ぶかは機長の自由なんです」

「たとえば、機体の上昇角度、雲を右から避けるか左から避けるか……などだけでもさまざまなパターンがあります。燃費や機体の揺れを抑えていかに早く、安全に飛べるかは機長次第。予想通り完璧に飛べた日の夜に飲むビールは最高に美味しい!」

「ちなみに、これってゴルフと一緒なんですよね。パイロットにゴルフ好きが多いのはゴールまでの道のりを考える楽しさ、という共通点があるのかもしれません」




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