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構造設計のすすめ03 組織設計事務所における構造設計者 part2

■組織設計事務所への就職活動

 弊社は中堅の組織設計事務所です。毎年の構造設計部への入社人数は2~3人程度です。エントリー数はだいたい20~30人。これは非常に狭き門です。
 これがゼネコンほどの規模になると桁が違ってきます。そもそもゼネコンには30~50人、スーパーゼネコンになると100人以上の構造設計者が在籍しているため、組織設計事務所と比べてもマンパワーおよび組織力が違います。 

 入社して同期や近い年代の同僚がいるのといないのでは、モチベーションが大きく変わってきます。お互いを高めあって上を目指すことが希望ならば、ゼネコンを選択するのもひとつの手です。
 組織設計事務所下げをおこなっているかのように感じられるかもしれませんが、相応に設計事務所で働くメリットもちゃんとありますので、その点を踏まえて就職活動におけるポイントを述べたいと思います。

 より高給を狙うのならば、組織設計事務所より大手や準大手のゼネコンの方がよいでしょう。とは言え、そもそも建築の設計は平均的に賃金の低い業界なので、お金稼ぎを目的とする方にはこの職業はお勧めしません。しかし、与えられた予算の範囲内かつ建築主の望む範囲内で、自らのアイデア・提案に基づいて設計した建築物を、この世界に具現化できるという意味ではやりがいはひとしおでしょう。

 この点では、組織設計事務所もゼネコンも変わりはないと感じています。むしろ組織設計事務所の方が、グループや建物用途を絞られることなく幅広い範囲の建物を構造設計することができるので、モチベーション維持にも繋がるだろうと考えています。また手を挙げれば、自分の希望するプロジェクトにも携わることができる比較的融通のきく環境となっています。
 ただし、建築設計は創造行為なので、設計した建物が存在する限り社会的責任が重くなることは注意しておきましょう。

 私がなぜ組織設計事務所を選んだのかをお話ししましょう。

 まず、『少数精鋭の環境』にあこがれていたという点があります。構造設計者はどこに行こうとも少数派閥ではありますが、ゼネコンほど大きな組織になると個々の才能が埋もれる懸念があります。個を目立たせるなら、設計事務所一択だと私は思っています。

 2点目に、弊社の社風・働く人間の質が私にマッチしていたからです。会社という組織である以上、人と人とのコミュニケーションは避けられません。
 私は学生の頃、「構造設計者」というものは「おしゃれ空間で黙々と製図版に向かって図面を描いている人」だという認識でいましたが、実際はまったく異なります。「構造体を安全へと導くために、プロジェクトに関わるあらゆる人と調整を行って、建築に生じる各種の力の流れをコントロールする人」それが「構造設計者」です。
 つまり調整に継ぐ調整が必要で、うまく関係を続けていける雰囲気をもった設計事務所でないと定着できませんし、そのような所員が揃った場所でないとストレスが溜まる一方です。

 そんな組織事務所への就職も、採用担当が採用試験や面接の数十分の間に、入社希望者がどんな人材か、どんな性格かをすべて把握することは難しいですし、学生にとっても就職希望先が期待している企業なのかを見分けるのは難しいと思います。
 そのため求人情報が出るより前に、先手を打って就職希望先へのインターンシップアルバイトに赴くことはお互いのためにも必須に近いことだと思っています。
 職場の雰囲気や仕事内容だけでなく、どのような社員が在籍しているのかを知ることができますし、早々に採用担当者にアプローチをとり、自分をアピールできる機会にもなります。少なくともこの行為だけで、他の入社希望者の何歩も先をいけることは間違いないです。

■どういった人材が求められるか

 人生を左右する就職という活動には、気力が必要です。その気力をどれだけ費やせるかにかかっています。
 自分の中に存在するありったけの積極性を発揮しましょう。事実、弊社に所属する構造部員の多くは学生時代にインターンシップで弊社を訪れていたり、アルバイトに来たりしています。また就活前に会社訪問にも来ています。
 就職活動は情報戦です。先手先手で行動している者が勝ちます。私は当時その事実さえ知りませんでした。後悔は先に立ちません。今の学生さんたちはとても意欲的です。就活に全力で取り組んでほしいと思っています。
 もちろん設計事務所側も積極性のある学生を求めています。

 ほかに就職で有利なこととして、大学で学べることはちゃんとと頭の中に叩き込むことです。
 学生時代に学んだことや研究したことを実務で存分に発揮できないとしても、教科書や参考書、論文に出てくる各用語や計算式などは、就職の際に有利になることがあります。
 例えば、弊社の筆記試験では、複数個示された建築構造用語から2~3個を選択して、その用語の解説をするといった課題が出題されます。液状化現象にしろ保有水平耐力にしろ、パッと具体的に説明できますか?教材に載っていることは役に立つときがきっと来ます。

 また、就職活動の際に示すポートフォリオはしっかりまとめましょう。あなたの実績を示すチャンスはそれしかありません。どのような論文を書いたのか、どのような賞を受賞したのかを整理して実績を明確にしましょう。
 私は、論文と卒業設計並びに学部時代におこなった設計課題、受賞の記録などを1冊のバインダーに閉じて面接に臨みました。今ならタブレットPCを持ち込んでプレゼンするのも大いにありでしょう。
 面接担当者への手土産として心を掴めば、あとはあなたが面接のペースを掴めます。

 入社した後も、ある程度働いてみてこの職場は違うなと感じたら辞めてもかまいません。そして、その選択は間違いであったと感じる必要はまったくありません。たまたま就職した先が、あなたを成長させてくれる企業ではなかったというだけです。そのような企業は、社員のモチベーションも低く、惰性だけで在籍している者も少なくありません。あなたに向上心があればあるほど、そう感じさせてしまうことでしょう。
 人間関係が悪かったり、賃金が安かったりと、たまたま巡り合わせが悪かったのです。仕事の選択の失敗など、人生においてはちっぽけな事柄にすぎないのです。

  構造設計者は30代でも若手と扱われる場合もあります。
 日本建築構造技術者協会(以下、JSCA)の調査によると、JSCAに所属する構造設計者の半数以上が60代以上です。(JSCA機関紙『structure』No.149より)

 構造設計の分野においても高齢化は進んでいるのです。つまりこの先人材が不足し、構造設計業界としての活力は低下していくことが想像できます。
 しかし、逆に考えると若手にとってはチャンスでもあるのです。自らのモチベーションを活かして、技術力と知識力を磨けば、早い段階で剛腕をふるうことが可能です。「若くして雑誌への掲載や賞を獲得する」そんな世代が生まれてもおかしくはありません。

 この業界は比較的古い体質であるため、活性化のためにも構造設計者または構造エンジニアを目指す若者が増えてほしいです。ただでさえ世界的に人数の少ない若者の構造系への就職率が低いと建築構造界の知識と技術の伝承が阻まれます。
 責任はとても重い仕事ですが、楽しいことは多々ありますので、気楽な気持ちで考えてみてください。それが建築界の状況をよくする最善手です。 

 まだまだ続きます。
 次回は具体的な入社試験対策について書きたいと思います。
 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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