『普通の人でいいのに!』冬野梅子

「おもしろい仕事」という幻想

【モーニング月例賞2020年5月期】奨励賞受賞作
https://comic-days.com/episode/13933686331667252531

話題になっているWEB漫画。面白かった。33歳OLの自意識を巡る物語。趣味のツートップに「古本、古着」を上げている時点で他人事じゃないなと思った。俺のブックオフに入り浸って古本と古着をdigしてる毎日のこの先にこれがあるのかもしれない。

この物語の強烈なところは人間のしみったれた所を恥ずかしいくらいにあらわにする細やかさ。益田ミリをもっと漫画っぽくドラマチックにしたらこうなんのかな。特にモノローグの自分を常に俯瞰して実況中継してる感じが痛々しいけどTwitter的な現代っぽい感性だなあと。

経理の主人公がキラキラした仕事をしている友人、知人を羨ましがったりするところに強烈に感情移入した。東京の大学行って東京で就職して2ヶ月で辞めたけど、サークルの同級生とか後輩が東京で働いたり飲んだりってやってるのTwitterで見るの嫌すぎて本アカウントじゃない方に入り浸ってた。出版とか映像とか映画の配給とか音楽関係とか….。東京に早々に負けて地元でニートやってる自分には眩しすぎて見れないからやめてほしいと思ってた。

つまんない仕事だろうがなんだろうが東京で働いてるだけで主人公がうらやましい。でも住めたら住めたでこういう風になるのかな。東京で2ヶ月で仕事辞めてからニートしたりバイトしたりなんとか地元で再就職して今も暇さえあればブックオフですよ。お洒落な古着屋なんてこっちにはない。あとまんだらけとか名画座とか。まあそんなのはいいんだけど。

仕事転々として思ったのは「仕事は基本的につらい」っていうことだ。新卒の甘々ちゃんだった頃にはハードすぎる現場だったから辞めたけども大なり小なりどこへ行ってもつらいことはある。「本当に自分のやりたいこと」が仕事だったら楽しかったのか?問題。

大学生の頃は映画が好きで映画サークル入ってたけど短編映画一つ撮らなかった俺からしたら、好きなものを消費するのと生み出すことの大きな溝を感じる。それを飛び越えられないのが凡人というか。今も古着と漫画好きだけどまあそれを仕事にしてやってくのはまたかなりハードル高いだろうね。

漫画誌の編集は楽しそうだけど出版社のエントリーシート書くのが面倒だったので断念した。映画でも漫画でもそれを仕事にすること自体がめちゃくちゃ遠くて険しい道なのに、それをやってる人がやっぱり羨ましいよなーとか思ってしまう。

具体的な到達方法や仕事の中身に思考が及んでないのに、仕事の外側だけ羨ましがってもしょうがないね。ていう真理だけど割り切れないのも人情で。

ある出来事にブチ切れた主人公がウラジオストク(キラキラ勢の友達も行っていた)の弾丸旅行に飛び出すのがクライマックスなわけなんだけど、そこでもやっぱり勢い「だけ」なのでうまくいかない。経理の私はめんどくさい仕事に取り囲まれて生きてきた→勢いで行くとこまで行ってやる→別のめんどくさい仕事をしないとウラジオストク行けないよっていうこの流れ。

つまりキラキラ勢の友達が他人より人生サボってるわけじゃなくてそういう具体的な手順をちゃんと踏んできたからその仕事なり旅行を楽しめるわけだ。主人公は直前の別の友達の電話でもそれを指摘されて返事では納得してたくせに根本的なところで分かっていない。

なんだろう。そういうの言い出したらこうやってブログ書いたりするのも虚しい。

「兵士になれないものが密告者になり、芸術家になれないものが批評家になる。」みたいな台詞が「バードマン」ていう映画にあったのを覚えている。好きなことを仕事にするくらい突き詰められない凡人はただその周りをウロウロするしかないよね。そんなことを思いました。

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