『俺は沢口靖子のことを何も知らない』石川実

圧倒的な才能を感じた 

https://daysneo.com/sp/works/3b68203b05f5fd18d99a1188dc176e40.html

『連ちゃんパパ』に引き続いて、web漫画の紹介。昨年の年末くらいにめちゃくちゃバズってたと思う。今さらという感じだけど、実際かなり面白かったので書く。 高校生の男女が学校をサボってどっかにいく話は名作に決まってる。 読んだことない人はぜひ読んで見てほしい。 

 好きなものをずっと好きなままでいるには? 好きになったものでも知っていくうちにいつしか興味を失ってしまう。そんな虚無的な考えを持った主人公がひょんなことから熱狂的な沢口靖子ファンの女子に出会い、学校をサボって沢口靖子が出演するドラマのロケを見にいくことになる。 

軽い会話劇を中心にサクサク進んでいくが、何と言ってもやっぱり最後の展開がすごいと思う。これ初めて読んだとき衝撃的すぎて、初めからもう一回読んでしまった。

 この物語の「沢口靖子」という存在はマクガフィンみたいなもので、もっとシリアスにやろうと思えば別のものと置き換えられるだろうけど、「沢口靖子」というチョイスの意外さがこの物語の面白さを支えていると思う。 真剣なテーマを語るには必ずしも真剣な展開が必要というわけではない。くだらなくて笑える物語に適度に織りまぜることより深みが増している感じ。 また、主人公の「知れば知るほど興味を失う」=「あえて自分の知らない世界に興味を持つ」という哲学を中盤できちんと活かしているのも良いと思った。 

主人公に比べると沢口靖子ファンの女の子は「好き」という感情の「強度」はあるんだけど、興味のないものに対しては見向きもしないしそれを知ろうと思わない。 主人公の悩みを解決するヒントを女の子が与え、女の子が見過ごしそうになったものを主人公が拾って手渡す。 異なった性格の2人を出して「どっちかの考えが正しい」みたいな話ではなく、お互いに影響を与え合う話だったので、よかった。とても面白かった。

 ふざけた導入からは想像つかないような切ないラストシーンが胸にしみる。 主人公は「好き」という気持ちを持ち続けることに成功したが、その代償も同時に背負うことになった。 会話しながら「沢口靖子」という言葉がだんだんと別の意味に入れ替わっていく演出が、もうね漫画的に美しすぎて、はっきり言って傑作ですよ。 サイトを見るとどうやらヤンマガの担当がついたみたいだけど、確かにヤンマガの雰囲気を感じる。 早くデビューして単行本出してくれないかな。 

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