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恋する日本語

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旅する日本語展参加作品。
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記事一覧

恋をして、旅をして、また言葉を繋ぐ私は、きっとこの先も心に感じた世界に、言葉で色を塗っていきたい

恋をして、旅をして、また言葉を繋ぐ私は、きっとこの先も心に感じた世界に、言葉で色を塗っていきたい

旅する日本語展に参加する企画作品を書き終えた。
今年は11の言葉。こういった企画ものはなぜか、テーマの分すべて書きたくなる私も、四苦八苦しながらなんとか書き終えることができた。
この企画の何が難しいって、聞き慣れない、使い慣れない言葉を使うこと。それだけでもとても難しいというのに、今年はさらにそこに、「都道府県名」を入れる、という決まりが加わった。

去年はその「都道府県名」という決まりがなかった

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未来へ続く、私たちの物語

未来へ続く、私たちの物語

真夜中に月を見ていると、背後から突然抱きしめられた。
ふわっと、彼の香りが漂ってくる。
安心できる温度。鼓動の音が幸せの音と重なり合う。
袖擦れ合うほどいつも私たちは同じ時間を過ごしている。
だけど、もうすぐそれも終わる。
お互いの就職が決まり、私は地元である北海道の札幌に残ることが決まっていて、彼は東京へ行ってしまう。

高校時代から、ずっと一緒だった私たち。一度別れたことはあったけれど、それで

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心を満たす、優しさの味

心を満たす、優しさの味

富士山のすぐ近くの、静岡にある旅館。
テーブルの上に並んだ、これぞ日本人の朝食というメニューに、思わず喉鼓を鳴らした。

嫌なことがあったときは、ひとり旅に出ることにしている。
できれば、空気の美味しい場所。
そう思って、今回選んだのが富士山の近くだった。

豆腐とワカメの味噌汁。
焼き鮭に、大根おろしの添えられた卵焼き。
マグロとカンパチ、イカのお刺身。
アワビの踊り焼きは、オプションで追加した

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新しい春は、笑顔の先にある

新しい春は、笑顔の先にある

まだしっかりと閉じたままの桜の蕾。
昼間の気温が少し上がる日が増えたとはいえ、まだ春を感じられるのは、先のようだ。

ぽつり、と催花雨が蕾を濡らす。
先月までは、雨より雪が降る日が多かったのに、福島の冬が通り過ぎる日もきっと近いのかもしれない。

幼稚園のお別れ遠足なのだろうか。
アクアマリンふくしまの前に停まったバスから、ピンク色の帽子を被った子供たちが降りてくる。
背中には大きなリュック。肩か

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旅立ちの朝に捧ぐ、「ありがとう」

旅立ちの朝に捧ぐ、「ありがとう」

夜が明ければ、新しい1日が始まる。
よく眠れなくて寝返りを打つと、母の寝息が聞こえてきた。

女でひとつで、私を育ててくれた母。

「あなたの人生での色節だから」

そう言って、母が少しだけ無理をしていたことは、祖父から話を聞かされていた。

明日になれば、私はこの家を出て行く。
母が買ってくれたウエディングドレスを着て。

「自分が失敗したから、あなたには幸せになってほしい」

母の言葉はいつだ

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夜空の星が舞い降りて

夜空の星が舞い降りて

沖縄本島よりも、さらに南にある波照間島にやってきた。
日本最南端の小さな島は、空も海も砂浜も、とても美しかった。

昼間はとても空が高く感じられ、夜は手を伸ばせば星が手に届きそうなほど、近くに感じられる。

彼女と出会ったのは、そんな美しい夜のことだった。
真っ白なワンピースをまとって、ゆっくりと近づいてくる。

ひらり、とワンピースの裾を靡かせ、彼女が微笑む。
僕の手を取った彼女は、まるで反対の

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秘密の時間を抱きしめて

秘密の時間を抱きしめて

私たちが密会場所として選んでいる場所は、横浜の中華街だった。
都内から神奈川まで出かけるのは、私たちが人目を避けているから。
大勢の人々が行き交う中華街は、私たちが誰に気兼ねすることもなく、お互いの手と手を絡められる場所だった。

時には、豚まんを分け合って、二人で仲良く頬張る。
時には、元町にある隠れ家のようなお店で、オムライスを食べながらいろんな話をした。

結ばれることがない私たちの関係。

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流れゆく笑顔の記憶

流れゆく笑顔の記憶

冷たい気温に、つい背筋を丸めたくなるけれど、はーっと白い息を吐いて、澄み渡る空を見上げた。

祖父母の墓のある秋田にやってきたのは、いつくらいぶりだろう。
夜遅くに出て、まだ町中が眠りから覚めたかどうかわからない時間に高速バスを降りる。
ゆっくりと祖父母の住んでいた町内を歩くと、広い庭に洗濯物を干している女性がいたり、部活に行くからなのか、ヘルメットを被って自転車を漕いでいる中学生の男の子に出会っ

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美しい空に夢を誓う

美しい空に夢を誓う

私が住んでる部屋からは、小さいけれど、東京タワーを見ることができる。
高校を卒業して、大学進学とともに始まった東京での生活。
大学を卒業した今も、東京の片隅でひとり暮らしを続けている。

生活は決して楽ではない。
だけど、ずっと抱いてきた夢を諦めきれなくて、大学卒業後はアルバイトをかけ持ちしながら、芝居の稽古とダンスのレッスン、モデルの仕事をしながら、日々を過ごしていた。

夕日が朱く空を染める。

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さよならの縁

さよならの縁

京都にある地主神社には、制服を着た修学旅行生が多く見られた。
女の子が圧倒的に多く、たまに彼女に連れられて来ているような男の子いるくらいだった。

私が初めてここに来たのも、彼女たちと同じ頃、高校生のとき。
いつか私も、素敵な恋を。
そんな風に思っていたあの頃を少し懐かしく感じる。

縁という言葉なんて信じていなかった。
でも今は、その縁を信じたいと思っている。

あの頃、キラキラしていた私は、今

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空の優しさにとける心

空の優しさにとける心

木曜日の夜は、鬱々としてしまうことがある。
いろいろなことに悩み、やってくる明日の意味を考えてしまうことがある。

そんな時は、きまって週末に訪れる場所があった。
愛車に乗り込み、カフェで飲み物をひとつ選ぶ。今日はキャラメルマキアートを持ち帰りにしてもらった。

優しい空の色に浮かぶ、ふんわりとした雲。
窓を少しだけ開けると、秋の終わりの冷たい風が入ってくる。
行き先は、千葉県にある飛行機がよく見

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彼と私に通ずる感覚

彼と私に通ずる感覚

冷たい雨の降る六月の北海道の富良野。
ラベンダーのシーズンには早く、観光客はまばらだった。

一年前に別れた、彼の姿を探す。
約束もなにもない、私たちだったけれど、付き合っているときは、よく同じことを考えていて、約束もしていないのに偶然会うことが多かった。

友人たちは、私たちのことを、已己巳己のように雰囲気が似ていると言っていた。
彼と過ごす時間はとても穏やかで、愛おしかった。

いるわけないよ

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旅する日本語展2019*あとがき*その5

旅する日本語展2019*あとがき*その5

「麗らか」(うららか)・・・心にわだかまりのないさま。おっとりしているさま。

人は後悔しながらも、人生という道を歩いて行くしかない。
でも、心に残ったままでは、前に進めないこともある。
いつかそんな後悔だったり、葛藤だったり、悩みだったりを、大人になった自分と一緒に別の形に変えられたらいい。

「致景」(ちけい)・・・この上なく素晴らしい景色。良い景色。

世界にはたくさんの絶景がある。
美しい

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旅する日本語展2019*あとがき*その4

旅する日本語展2019*あとがき*その4

「#追懐」(ついかい)・・・昔をなつかしく思い出すこと。追想。

懐かしい再会は、時として淡い恋心をも思い出させる。
素直に伝えることができなかった想いだからこそ、余計に。
あのときに交わらなかった想いを抱えるふたりには、今は生きるべき人生がある。
その想いは、もう恋としか呼べないのだ。
叶うことのなかった恋。

「心細し」(うらぐわし)・・・心にしみて美しい。えもいえず美しい。

仕事に疲れたと

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