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民主主義とは何なのか?

前回までの記事で、中道左派PSOE(社会労働党)党首Pedro Sánchezが首相に任命されるまでの流れ、そしてその過程で左派と右派の対立がさらに深まることになった「恩赦法案」について書いてきました。個人的に興味があったので、くどくどとレポートしてきてしまったのですが、今回はこの一連の政治的出来事について、自分なりの考えも混じえながら書いていきたいと思います。

(ちなみに、ここまでの話については下記↓の記事から遡っていくとわかるようになっています)

今回問題となっている「恩赦法案」は、現在国家反逆罪等で有罪となっているカタルーニャ独立運動主導者たちを対象にしたもので、PSOEの取りまとめで提出された法案です。で、この法案に対して右派サイドが猛反対しており、10万人規模の大規模デモや極右VOX主導による過激なデモが展開されたわけですが、では、実際この恩赦法案の何が問題なのか。

実は、憲法において恩赦に関する明確な記述がないことから、今回の恩赦法案に関しては専門家の間でも意見が分かれているといいます。そのため、合憲を唱える左派と独立派は「政治的対立は政治で解決すべき」と主張し、違憲を唱える右派と極右は「政治は司法に介入すべきではない」と主張しているわけです。

ただ実際は、恩赦法案自体の問題というよりも、単に左派と右派いずれもが政権争いのためにこの法案を利用しているだけ、と言った方が正しいかもしれません。

左派サイドとしては、政権を握るためには少数政党、特にカタルーニャ独立派の支持獲得が必要だったことは明白で、カタルーニャ独立派JuntsがPedro Sánchez首相任命支持の条件として出した「カタルーニャ独立運動主導者たちへの恩赦」という条件を飲んだ、という見方は否定できない。つまり、どれだけ綺麗事を言っても、この恩赦法案は政権を握るためのカードであり、票取りのための必要条件だった、と思われても致し方がないと思います。

実際、調査機関40dBが行ったアンケートで「恩赦法の提案をPSOEが決定した動機は何だと思いますか?」という質問を行ったところ、「政権を握るため」が85%、「極右の政治介入を阻止するため」が70%という回答が出ていました(ちなみに、「カタルーニャ内における共生を改善するため」「カタルーニャとスペイン全土との関係改善のため」はいずれも4割弱という回答)。

では、対する右派サイドはどうか。こちらも「恩赦法案」を存分に利用しているように思われます。右派PP(国民党)が主導した大規模デモでは、「恩赦は違憲だ」と恩赦法案反対を盾にしつつ、「票稼ぎのために国を売った」「選挙をやり直すまで黙らない」「民主主義の崩壊だ」と賛同者を煽っており、これまた政権を握りたいだけ、という印象は否めない。さらには「Pedro Sánchezは独裁者だ」というパワーワードまで飛び出し、いやいや、もし独裁者だって言うのであれば、そもそもこんな大規模なデモなんて言論統制でオジャンになるよね?とも思った次第。

ただ、厄介なのはこの大規模デモがそれなりに民意に影響を及ぼしているということ。40dBのアンケートによると、「恩赦という言葉を聞いて頭に浮かぶことは?」という質問に対し「特権」「不公正」という回答が6割近くに上り、右派PPと極右VOXの支持者に絞ると7割以上が「特権」、9割弱が「不公正」と回答しています。さらに、同アンケートの12月時点の統計では右派サイドが過半数を超えるという結果も出ています。右派PPが147議席、極右VOXが30議席で計177議席となり、わずか2議席とはいえ過半数を上回るという結果に。ただし、右派PPが政権を握るとしたらもれなく極右VOXがついてくる状況は変わらないので、もし再選挙なんてことがあったら、、、と思うとゾッとする。。。

話を戻すと、結局どちらも政権を取りたいんでしょ?となるのですが、では、どちらの言い分が民主的なのか。

先ほどは綺麗事と言いましたが、首相任命決議前に行われた議会討論で、「対話」「共存」「寛容さ」の重要性を強調し、今回の恩赦法案はカタルーニャとの政治的対立の解決に繋がると主張したPedro Sánchez率いるPSOE側の言い分は少なくとも民主的であると思いました。対して右派サイドは「恩赦は違憲」の一点張りで独立派には徹底的に「No」の姿勢で、これではどうにもならないよね、という印象。独立派とはいえ今のところスペイン内の政党であり議席も獲得しているのだから、これはこれで民意を反映しているわけです。

そもそもスペインという国は、カタルーニャ、バスク、ガリシア等、独自の言語と文化を持つ自治州が共存する国です。特にカタルーニャとバスクは独立主義が強い自治州ですが、スペイン内戦後に35年近く続いたフランコ独裁政権時代には自分たちの言語を奪われるという苦い経験をしています。そういった背景からバスクの民族テロ組織ETAが存在していたのも事実ですが、活動停止を宣言してから十数年、バスクでは独立運動が活発化することもなく、むしろ落ち着いている状況です。

にも関わらず、極右のVOXはもとより、右派のPPも相変わらずバスク独立派に対してテロリスト呼ばわりで攻撃しており、一連の議会討論の発言に関してもなんだかファシズムの匂いが漂っているなあ、とちょっと怖くなりました(ちなみに、バスク独立派の代表のスピーチの方が全然落ち着いていてまともなことを言っていると個人的には思いました)。もちろんテロはダメだし、手放しで独立を承認すればいいとも思いませんが、一貫した不寛容な姿勢は民主的ではないのでは?と思った次第。

そんなわけで、またくどくど書いてしまったのですが、今回の一連の出来事で「民主主義とは何なのか?」ということを突きつけられたような気がします。ちなみに、トップの写真は12月6日の憲法記念日のセレモニーの模様。1978年に制定され今年でちょうど45周年とのこと。奇しくも憲法にまつわる騒動と重なった記念日となったのでした。。。



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