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女が束になるとあれこれ恐ろしい話。

結婚前、ゴスペルシンガーをしていたことがある。
パソコンショップが閉店し、失業保険をもらうためにハローワークにかよっていたのだが、『ブライダル関係の派遣会社』というなんだか珍しくておもしろそうに見えた会社の経理事務を受けに行ったら、面接で女社長に「音楽は好きですか?」と聞かれ、「専門学校の時にゼミでゴスペル取ってました!」と答えたが最後、社内のスタジオに連れていかれ、スーツで鼻歌を歌わされ、翌週、「残念ながら今回はご縁が無かったということで・・・」みたいなハガキが来たかと思えば、下のほうにちいさーく、「歌のほうでお仕事をしていただければと思っております。ご興味があれば下記の担当者までご連絡ください」と書かれていた。
なにそれ、という経緯で、ボイトレもしたことないのにゴスペルシンガーになってしまった。

私もなかなかキャラの濃い人間として生きてきた自覚があったが、その私が怯えるぐらいのキャラがいっぱいいる職場だった。
まぁ、芸術系はそんなもんかも。
でもみんな、根底はとてもいい人たちだった。

社員さんには、事務、営業、ブッキング担当、マネージャーなど、いろんな人がいた。
マネージャーのひとりに、長谷川という男がいた。
(以下、登場人物は私以外すべて仮名です)
コイツがまぁ~~~、言葉が足りないし、一言多い。
『仕事確認書』という書類の備考欄に、長谷川節が炸裂することしばしば。
当時、今よりももっと大迫力ボディだった私に、
「今回、新郎新婦が、シンガー先導でのご入場を希望されています。ビジュアル的に、桃乃内さんお願いします。」
と書かれていた。

どういう意味やねん。

いや、純粋にどういう意味やねん。
誰かの指示書に長谷川節が入ると、いつも3人一組で仕事している我々はそれを持ち寄り「ちょっと見てくださいよー!!」となる。
この時は、
①花嫁が引き立って細くキレイに見えるから桃乃内を指名
②体系的にいかにもゴスペルっぽいので桃乃内を指名
のどちらかではないか、という推測になった。
真相はわからない。
どちらにしろ、太い。

ある日、シンガー永井さんが確認書を持ってきた。
そう、長谷川のお出ましである。
この日は大変なことに、同じ式場で3組の仕事があったため、
3人1組×3組=9人のシンガーが控室にいた。
キャラの濃い、芸術気質の、関西の女が9人である。
地獄の淵とは、この部屋のことである。

永井さんの備考欄には、
「持ってる中で、いちばん高いヒールを履いてきてください。」
と書かれていた。
その指示の仕事の日は、朝から別の3人が別のホテルで仕事の予定だった。
会社としては、その3人をそのまま次の仕事に行かせたほうが、ギャラの支払いが少なくて済むシステムだった。
また、できるだけホテルから近い居住地のシンガーを派遣したほうが、支払う交通費も少なくて済む。
永井さんが呼ばれたホテルは大阪市内のちょっとお高いホテル。
しかし、朝の3人組から熊井さんが外され、そして大阪市内在住の私でもなく、和歌山から永井さんが呼ばれた。
ここから、9人の閻魔女王による審議が始まる。

おそらく高級ホテル側からの指示で、「良いビジュアルを揃えてくれ」と言われたのではないか?

朝の3人のうち、2人は美人系。

よし、ブサイクな熊井を外そう。

近いのは桃乃内だけど、デブやしなぁー・・・

ちょっと遠いけど、小綺麗でチビの永井に高いヒール履かせたらいいか!

「っていうことじゃない!?!?!?」
・・・と、以上、熊井さん主導による推測です。お疲れ様です。
閻魔たち、無事に大炎上。

じつは私ここまで、「高いヒール」の意味を、値段のことだと思っていた。
高級ホテルだからかな、と。
しかし腑に落ちた。
たぶん、この推測で合ってると思う。
永井さんは、身長143cmだった。
そして熊井さんと私は、美人2人とほぼ同じ身長である。。。

とにかく長谷川は気難しい女性ばっかりの集団相手に、身体的特徴に関する指示を平気で書いてくるヤツだということは確定していた。
もうちょっと指示のしかたがあるやろ!?!?とキレるみんなを横目に、私はふと思った。
長谷川の『言葉が足りない』部分はもしかして、長谷川なりに『オブラートに包んでる』つもりなんじゃないのか?と。
世の中に数多いる『反感を買いやすい人』『誤解されやすい人』は、その人なりに良かれと思ってやってるのに、方法やベクトルがズレちゃってるんじゃないんだろうか?
そしてそれはきっと、自分ではわからない。
そしてきっと、よほどのことが無い限り、誰も教えてくれない。
現に私たち閻魔会も、誰一人長谷川に確認も苦情も入れなかった。

長谷川は2年ほどで会社を辞めた。
今、どこで何をしてるのかまったく知らないけど、相変わらず言葉足らずで一言多いのだろうか。
ちょっと会ってみたい。
そして、なんで私に先導させたのか問い詰めたい。

女は恐いぞ。
推測でキレるし、一生覚えてるぞ。

いつかここの文章をまとめて同人誌にしたいという夢があります。