短編小説。虹の見える丘。

0、 日常。
1、 変化。

登場人物
ぼく
盲目の彼女
クラスのみんな

(僕の知識不足で、盲目の方は普通のクラスにいないことが多いかもなのですが、あくまでフィクションとして見てやってください)

0 日常。

雨が降っている。普通だ。慣れたことだ。僕はいつも持ち歩いている折り畳み傘で今日も帰るんだ。僕が、なにか気合いいれて出かけたり、行事があったりすると雨が降る。最初は僕が原因ってみんなは知らなかったみたいだけど、どうやら僕であることが判明したらしい。はっきりとした理由はよくわからなかった。だけど、みんなは楽しそうに僕をからかった。
何がそんなに楽しいのかわからなかった。だけど、当時は正直つらかった。

 ぼくは、いま中学2年生。いわゆる中だるみといわれる学年のようだ。中学校生活にも慣れてきて制服にも新鮮味がなくなってきた。好きで中だるみしてるわけじゃないけど、担任の先生や全校集会で中だるみ、中だるみといわれてるうちにほんとに中だるみしてるんじゃないかって錯覚に陥る。学力テストは同級生150人中87位。半分より下で良くも悪くもない。話のネタにもならないつまらない順位だ。まあ、当時の僕には友達がいなかったので特に影響もなかった。あ、誤解しないでほしい。友達がいないだけでいじめられてるわけではない。いじられてるだけだ。だって、僕がそんな風にハブられる理由は「一緒に遊ぶと雨が降る」だけなのだから。たいしたことではない。だから僕は、当時、やせ我慢でもなく、ほんとに気にしていなかった。高校に行ったらまた変わるもんだと、安直に考えていた。
話を戻そう。学力テストで中の下、、くらいをとる人間が僕を象徴する唯一の指標だ。あとは、雨が降る、くらい。今日の授業も眠かった。毎日が憂鬱でしかたない。これが、中だるみだろうか。

教室は遠足の話でもちきりだった。さっきまで寝たふりをしていたので、話の内容は粗方、把握していた。みんなが何を食べたいかを決めて、ありきたりなカレーになったようだ。ご飯は、飯盒で炊くのであまり期待しないほうがいいなと考えていると、班決めの時間になった。男女で7~8人のグループを作るらしい。たいていは7人で例外的に8人グループを作るんだそうだ。うちのクラスは見事に36人で7人グループが5個作れる。だが、そうなると、一人余ると思う。勘のいい方はもう察してると思うが、余るのは私だ。最初から会議に参加していて余ると、虚しくなるだけなので、やる気のない素振りである寝るという行為に力を借りた。僕以外に寝ていたのは、いわゆるヤンキーやオタクたちである。まさに、頂点と底辺だなって鼻で笑ってた。だが、案外そういった人たちは、友達が多い。それぞれ、ヤンキーグループとオタクグループがそもそもできており、7人ぴったりだった。いまでこそ、一人でいようが、何人でいようとかまわないと思うが、中学高校には、集団でいないとダメみたいな、謎の法則がある。なので、僕もその法則に則って集団に入らなければならない。グループは計5個。ヤンキーとオタクとそれ以外だ。僕は、それ以外のよくわからないグループに入った。どうやら、そのグループには、その中の男子に恋してる女子がいるらしい。それくらいしか覚えていない。恋なんてめんどいだけと思ってる僕にとって、班会議中にちらちら意識してるその子はめんどいものでしかなかった。なんとなくみんなの話を聞いていると、どうやらみんなで協力してその男女を結ばせようという作戦が出来ていた。聞いたら、遠足で行く公園には高い丘があって、そのうえで告白すると成功するという、わけのわからないスポットがあるらしい。だが、それは美男や美女に限ったことで、振られた告白は、みんなの記憶からなくしている。都合のいい場所であるらしい。そんなことを考えているといつのまにか遠足当日になっていた。ぼくはその日も折り畳み傘を持って行った。天気は、晴れの予報だ。今日は晴れるといいな。

 カレーライスはカレーは担任がこだわったおかげでかなりの出来だった。ライスをいれないところは置いておいて、そのあとは自由時間になった。ヤンキーとオタクたち以外の多くがあの丘に集まっていた。ああ、ついに始まるのか。彼らにとってのメインイベントだ。呼び出した。心臓がキュルキュル鳴ってそうな顔をしたその子は笑顔が怖い。男の子もまんざらでもない感じだ。ああ、両片思いか。と、冷めた目で見ていると、その感情が、現れたのかもしれない。

雨だ。

にわか雨だ。どさー。と降った。びっくりする。みんな屋根のある本部に駆け出した。もちろん丘の上の二人も。皆寂しげに外を見ていた。カレーも、もちろん台無しになり、生徒以上に担任が落ち込んでいた。割と、雨はすぐ止んだ。だが、この後雨が降るといけないのでこの日の遠足はこれで終わりとなってしまった。告白もそもそもできなかったらしい。

帰り道。また、雨が降った。僕は用意していた折り畳み傘を出して、平然と帰った。みんなは急いで駆けていた。学校に入ると、同じ班の人たちにとんでもない罵声を浴びせられた。とても驚いて何が起きてるのか理解できなかった。話によると、僕が雨男で、雨が降ったのも僕のせい。そして帰りに折り畳み傘を持っていた僕は確信犯とされ、今こうした状況になったらしい。当時若かった僕でもわかる。こいつら、頭悪いなと。だが、集団の多い方の人たちは、自分たちが強くなったと勘違いしているので必要以上に多く、それでいて陰湿だった。ぼくは、今まで友達がいないだけだったが、ついに、嫌われる存在になってしまった。これからの、学校生活がめんどくなるんだろうなと思いながら、折り畳み傘を差して、小雨が降る家路についた。

ここまでが僕の日常のお話。ここからが変化のお話。
雨はやむのかな。

2、 変化。

季節は一つ流れ、秋が来た。夏休みが終わり、だらけ切った状態のみんなが教室に現れる。僕も、十分だらけた。一生分寝たのではないかと錯覚するくらい、帰宅部は長期休みが暇になる。勉強はそれなりにできるので7月に終わり、そこから一か月、ほぼ寝ていた。当時の僕は特に趣味もなく日常を無駄に過ごしていた。

チャイムが鳴る。担任が来る。夏休みにカレイのカレーを作り食べたという話をしていた。今でも覚えてるくらい、つまらなかった。僕はその料理は作れない。そんなくだらないことを考えていると、担任があることを伝えた。

転校生が来る。らしい。

どうやら、まだ来られないようなのだが、このクラスに一人の転校生が来るらしい。それから、一週間もしないくらいのこと。朝。雨が降っていて傘を差して歩いていると、目の前に、眼が見えないのであろう同じ制服を着た学生がいた。この学校には、盲目の人はいないはずだから、あれが噂の転校生なのだろうと私は思った。ここ二三日、その話で持ち切りだったのもあった。傘がないみたいだ。だから僕は、傘を差してあげた。もちろん僕のことが誰かも分からないはずなのに、とてもいい笑顔でありがとう。って言ってくれた。その笑顔にドキッとした。これまで、恋とかどうでもいいと思っていた僕にとって、まぎれもなく、初恋だった。僕は、なにも言えず、ただ、学校に向かって歩くことしかできなかった。ぼくは、初恋の人と相合傘をしているのだ、という状況を、恥ずかしく、うれしく思いながら、学校までの道を早足で進んだ。時々、早くなりすぎて雨がかかってしまったことを僕は後悔している。学校について、職員室まで連れていき、教室に入ると、みんながニヤニヤしながら僕を見ていた。いつものことで慣れていた。今日は、転校生と一緒に登校したのだ。そりゃあ、みんなも見るにきまってる。

担任は、やはり、あの子を転校生として紹介した。盲目であり、眼は見えないが、とてもかわいかった。今でも思い出せるくらいに。彼女の眼が見えないのなら、僕が光になりたいと本気で思っていた。だが、当時の僕は、シャイを極めていたので、おはようというのに、3か月かかった。それくらいシャイだった。

彼女は、盲目だけど、僕とは違いすぐに友達を作っていた。正直、僕は、彼女がどんどん遠くなっていくように感じ、この現実を認めたくなかった。だが、彼女の幸せを祈らないのは違うと思い、応援し続けた。彼女となんとか話せるのは、登校中の傘の中だけ。その間だけは、二人で話すことが出来た。あるとき、それもなくなった。彼女の友達がそれを許さなかった。ぼくは、それ以上、踏み込むのをやめた。それ以来、学校でもほとんど話すことなく、時が無駄に流れていった。

無駄な時の中で、彼女は、友達が減っていったらしい。どうやら、毎回介助が必要な彼女のことがめんどくさくなったらしい。中学生というものはちょっとした感情の変化で友達関係が作られまた、壊されていく。壊れた関係というものは、つまらない意地が邪魔をしてなかなか元には戻れない。

数か月たって、僕らは3年生になったらしい。実感もなく、中だるみしたまま進路という言葉があらゆるところから聞こえてきた。自分というものを確立してもいないのに進路を決めるというのは大変だった。僕は普通の高校を選んだ。学力的にも落ちはしなさそうな高校だった。あまり魅力には感じていなかった。覚えてるのは彼女はもっと上の高校を目指していたこと。彼女は点字を覚えて、僕らにも負けないスピードで文章を読める。そんなことばかり覚えていた。

3年生の遠足。僕は、彼女と、同じ班になった。遠足のメニューはもちろんカレー。担任は張り切っている。当日。天気は晴れ。絶好の遠足日和だった。

その日も、カレーはなかなか美味しかった。僕は彼女と話すことはなかったが、うれしそうな彼女を見ているだけで幸せを感じた。自由時間。彼女は、あの丘にいた。今年も告白しようと思っていたあの子は悔しそうにしていた。それを見て笑っているとにわか雨が1年ぶりに降った。やはり僕のせいだろうか。みんなが駆けていく。僕は、彼女のことを思い出した。彼女はみんなに忘れられ、おろおろしていた。僕は困った。だけど気付くと、折り畳み傘をもってそこにいた。彼女に差してあげると、ずぶぬれになりながら満面の笑みで僕の名前を呼んだ。ぼくも初めてその時、彼女の名前を呼んだ。恥ずかしさよりもうれしさが上回った。少し高い丘はまるで世界に僕らしかいないように錯覚させ、雨は拍手のように聞こえた。

雨が止んだ。僕は傘を閉じる。みんなはもう帰ろうとしている。彼女は顔を赤くしているように見えたので、そこから目を逸らすようにぼくは空を見た。すると空には虹が見えた。虹だ、と呟くと彼女はほんとだ。と言った。ぼくは今しかないと思った。

付き合ってください。

お返事はノーだった。だから、この告白は都合よくなかったことにされる告白で僕の心の傷もなかったことにされる。だけど、きみがいたから虹を見つけることが出来た。この丘は、

虹の見える丘

と名付けることにした。名付け親はぼくで、そう呼んでるのも僕だけ。そんな特別感を抱いた帰り道。ぼくは、僕が受ける高校について調べ、少しでも魅力を感じるところを探そうと思った。たるんでいた自分が変わるきっかけになるだろうか。こんな少しのことで変われるだろうか、と考えたがそんなことどうでもよかった。ぼくはとある決断をした。

進路を決めた。

土砂降りの受験日。そして、土砂降りの合格発表日。

僕と彼女は、同じ場所から、虹を見上げた。




おしまい。

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