雑文 #185 シルバーチェーン
昨日の続き。
昨夜、雑文 #184 を書いて寝たら、朝起きた瞬間に突然思い出した。
さくらんぼの瓶詰めの他にもJからもらったものがあった。
Jはチャラかったので、チェーンネックレスを着けて学校に行っていた。野球選手がよく着けるようなキンキラキンのやつじゃなく、シルバーのチェーン。上ボタンを開けた制服のシャツの下からそれがちらちら見えた。ちなみに私はアクセサリーを着ける男性が好きじゃない。でもJには似合っていた。
ある日教室で、休み時間かなんかにみんながワイワイしてたときに、彼は突然それを外して私にくれた。「これ、やるよ」とか言ったかもしれない。あんまりみんなから見られてなかった。何しろすごく自然だった。成り行きみたいに私はそれを受け取った。お礼を言ったかどうかもわからない。
それはきっとさくらんぼの瓶詰めのプレゼントの後で、私はちょっと好きになりかけてた。チェーンネックレスのセンスはともかく、私はうれしかった。男の子にアクセサリーをもらうなんて。大事なものなんだろうか。自分で買ったのだろうか誰かからもらったのだろうか。私は訊けばよかったのに、そんなことを何も訪ねずただ受け取った。
私は学校にそれを着けていかなかったけど、家や外で秘かに着けていた。シャツやセーターの下に隠して。一度外食したとき、母に「何それ?」と言われた。慌てて隠した。今思えば思いっきり怪しい。
そのチェーンネックレス、もしかしたらまだ持ってるかも。物持ちの良い私だ。朝一番、すぐに見つけた。だいたいアクセサリーなんてそんなにいっぱい持っていないし、場所も取らないからよっぽどのことがなければ捨てない。
それはシルバーなのか、銀メッキなのか、黒くなっていないから違う素材なのか、まさかプラチナではあるまい…とにかく私には見分けがつかない。
それを手にしたとたんにまた思い出した。もっと大事なこと。
彼は途中で東京へ引っ越した。離れる前、私に電話してきてくれたんだった。
何を話したんだっけ。そうだ、彼はやたら主張していたんだ。「お前に期待している」と。
彼曰く、私は将来何かになる。何か特別な才能がある。きっと東京で活躍するだろう。俺は信じてる。だからがんばれと、彼の電話のテーマはひたすらそれだった。
そういえばほのかに好きだった中学の同級生にも卒業するとき電話をもらって熱く応援されたよね…
私にはイケてる男子が応援したくなるような何かがあったんだろうか。何ともありがたい、そして申し訳ない。私は何者にもならなかった。普通の会社員や主婦にもなり損ねた。仕事に燃えてるわけでもない。経済的余裕もない。日々何とか暮らしているだけだ。
Jのような人と、ずっと友達でいたかった。しょげているときに明るく屈託のない笑顔で、私を励ましてほしかった。
しかし何の根拠があったのだろう。彼の私への信念は強かった。裏切りたくない。裏切りたくなかった。まだ間に合うだろうか。どうしてこのことを忘れてしまっていたんだろう。支えになるじゃないか。たとえ過去の私への応援であっても。時々あのシルバーチェーンを取り出して、思い出そう。私の存在をあんなに肯定くれた人がいたことを。
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