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ももん、入院する①


前日譚 金曜21時 腹痛、来たる

「なんだかお腹が痛いわねえ」──金曜日の夜、ももんはふとそう思った。
そして、一瞬でどうでもよくなった。だって、ももんはお腹が弱いのである。一年のうちおなかが痛くならない日の方が珍しいのだ。
ただ、いつもと痛い場所がちょっと違う。痛いのはみぞおちのあたりと、その裏の背中だ。
まあやっぱりたいしたふうには思えず、ももんは健やかに眠った

翌日。
なんだか朝から食欲がなかった。やっぱりみぞおちとその裏の背中が痛い。それも、ときどきウッと唸るくらいには痛い。
あ〜れれ〜? お〜かし〜いぞ〜??
いくら腹痛に慣れっこのももんとはいえ、さすがにこの痛みはちょいと嫌だった。眠ったら治るかしら? その日遊ぶ予定だったお友達に「ごめん、胃が痛いからちょっと今日ムリ」とLINEを送り、ベッドにごろんと横になる。
お昼になっても、相変わらずちっともお腹がすかなかった。なんだか胃のあたりがずっと張っているのだ。う〜ん。

ここで、なんだかきーんと耳鳴りがすることに気づく。あれ? と思い、ももんは目をぐるりと一周大きく回してみた。すると……。
きんきんきんきーん……、と目の動きに合わせて耳鳴りが強くなる。こ、これは…。
そう、ももんはなぜだか、熱が上がる時にだけこの謎の「目を動かすと耳鳴りが強くなる」現象が発生するのだ! ちなみに一切の機序不明である。誰かおんなじ人がいたら教えてくれ。

土曜12時 発熱

慌ててお熱を測ってみた。すると37.0℃。ももんは残念ながら平熱が低いので、このあたりでまあまあだるいのである。
あらら〜、風邪ひいちゃったよ…。落ち込みつつ、ももんはコンビニへと買い物に向かった。動けるうちに帰るものを買っとこうと思い、ゼリーとバナナとポカリなどを爆買いする。レジのお姉さんに、「こいつ風邪っぴきだな」と即バレするラインナップだ。
お家に戻ってゼリーだけなんとか流し込む。お熱は37.4℃まで上がっていた。これは困った。ふつうに風邪を引いて困ったのではなく、以下の重大な二点の問題が発生していた。

  1. この日は土曜日であり、近所の病院はほとんどお休みだった。

  2. なんと翌日、はるばる300kmの移動を経て、2週間にわたる大動物診療(牛、馬)の実習に出発する予定。

この2週間の実習、先に終了した同期たちが実習終了後バタバタと体調不良でぶっ倒れるハードさなのだ。そんな「体調が悪くなるので休みます」と未来予知と共にぶっちしたい実習に、体調が悪い状態で臨むなんて……。それもお医者さんにも行けずに……。
そう、ももんはこの時点でバリバリに実習に参加する気だったのである。ちゃんと荷造りもしていた。相棒のぺんちゃんも、ちゃんと連れて行こうとしていた!!(下、証拠写真)


腹痛に見舞われながらの荷造りのようす。
具合が悪すぎてぺんちゃんと聴診器と洗剤しか入ってないポンコツの極み

どんどん1日が終わりにすすむ。つまり、明日の実習出発へ近づいていく!!治さねば!!治さねば!!
午後6時、食欲はほとんどないが、夕飯としてうどんを茹でて食してみる。なんとか体に鞭打ち、半玉を食べることに成功した。
ふう。食べられた。食べられるということは、そんなに重症ではないはずだ。少し落ち着いて熱を測ってみると、

38度❤️

土曜20時 嘔吐 Good bye うどん

午後8時、母親に「夜間診療に行ったらどうか」と説得されるも、ももんは「いや、そんなに重症じゃないし…ただのお熱だし」と抗っていた。
ところがである。吐いてしまった。「あ、これは吐きますね」という謎の自身のもと、きちんとトイレで嘔吐した。まだまだ未消化のうどん。残念極まりない。
そして、おなかのほうはぱんぱかりんに張り、持続的に「うっ」と痛んでいる。
これは、流石に病院に行こう。ももんは決めた。

土曜21時 夜間診療というカオス

すぐにタクシーを呼んで夜間救急センターへと向かった。そこはカオスだった。
世の中にはこんなに具合の悪い人がいるのか…。呆然とする。

  • 顔を真っ赤にしてうんうん唸っている小さい女の子と、おろおろするパパ。

  • 泣き叫ぶ赤ちゃんと心配そうな若い夫婦。

  • 「痛い…死ぬ…マジで死ぬ」と呟き続けているパーカーのお兄さん。

  • 豆腐アレルギーなのに間違って麻婆豆腐を食べてしまい、搬送されてきた女性。

その場にいる全員が限界であった。限界の患者たちに、丁寧に話を聞いてくれる看護師さんたち。なんて大変な仕事だろう。ももんは全力で、「くっそ腹痛いです吐きます熱あります死にそうか死にそうじゃないかだけおしえておねがい」と伝えた。

お医者さんの返答は、「今すぐ死ぬことはなさそうなので月曜になったら消化器内科行け」だった。簡潔ぅ!
夜間救急診療とは、「夜も土日もやってて、みんなを助けてくれる優しいお医者さん」ではなく、「何かしないと死にそうなやべえ患者を見つけ出して処置し、そのほかの死にそうじゃないやつには速やかにお帰りいただくお医者さん」である。だから薬の処方も診断もそんなにできない。
しかし、「死ななそう」と判断されたももんはお家に帰った。ほくほくと安心を抱えて。ついでに腹痛を抱えて。
家に帰ったあたりで思い出した。
「あしたからの実習どうしよう…」

続く


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