見出し画像

ポリクリ日記① -内科ポリクリ、1日の流れ-


小動物ポリクリ、始まる

小動物ポリクリ、要するに犬猫を主に扱う動物病院での実習が始まった。
内科3週間、外科3週間。これからその奮闘記を記す。

小動物ポリクリ、終了する

めっちゃごめん。ポリクリ終わっちまった。これを書いている今、もう6週間が嵐のように過ぎ去ったあとだ。ポリクリ中にポリクリ日記など呑気に書いている暇はなかった。家に帰ったら即・飯・風呂・in bed ・気絶!
だからこれは、ポリクリ6週間を終えたわたしが、ポリクリを振り返って書いている備忘録となる。

内科ポリクリ学生の1日

私が最初に回された科は内科、そう、internal mdecine。カッコつけて英語にしたが、特に意味はない。
内科ポリクリ学生の1日は次のような感じ。

8:30 症例検討会開始

「僕が診療したワンコ(もしくはニャンコ・エキゾチックアニマル)はこういう子でこういう病気で、こう治療しました」という報告会が毎朝繰り広げられる(毎朝3-5症例ほど報告)。正直朝イチに頭に入力可能な情報量の5-6倍ほどあるため、ポリクリ生の脳はこの時点で融解を始めている。
毎朝こんな発表を繰り広げている研修医の先生は、すごい。

9:00 初診稟告聴取

初診ーー、すなわち始めて病院にかかる患者さんの問診がスタートする。
「田中さーん、田中モモ(仮名)ちゃーん、四番診察室へお入りください〜」
いかにも、病院! といったこのアナウンスで、モモちゃん(わんこもしくはにゃんこ)を連れた飼い主さんが、恐る恐る診察室へ入ってくるところから話は始まる。

大学病院へやってくる患者さんは、基本的にHD(ホームドクター)で、「あかん、ウチではムリや。大学病院でミッチリ調べてもろたほうがええで」という判断が下された子ばかりである。すなわち、曲者揃いである。
故に、初診症例の稟告聴取はけっこう長くなる。
一体いつから具合が悪いのか?
いつからHDさんにかかっているのか?
HDさんの検査でどこまで病気についてわかったのか?
HDさんでどんな治療をしてからここにきているのか?
HDさんはどんな検査を希望して大学病院に連れてきているのか?
飼い主さんはどこまで病気について理解して病院にきているのか? ……etc.

そういったことをうまくコミュニケーションをとりながら洗い出す。ちなみにこの問診、ポリクリ中に学生も何回かやらされる。ヒエーッ。

10:00-16:00 検査、検査、検査、検査

大学病院では、稟告を聞いたあと、いったん完全に飼い主様からペットをお預かりする。検査が半日近くかかるなど長いため、飼い主さんにはしばらく病院外に外出していただくことの方が多い。

あとは検査三昧である。こいつの病気は一体なんだ? そして、どこまで進行しているのか? みっっっっっっっっっちり調べるのだ。
レントゲン、エコー、血液検査、神経学的検査、MRI、CT ……などなど。どの検査を必要とするかは、症例がどんな症状を呈して、どんな病気を鑑別としてあげるかによって変わってくる。ここでどの検査を実施すべきか、的確に選択できるか否かに、獣医師の技量が現れる。

検査をする段になって、ポリクリ生ができることは一つ。

保定!! つまり動物を抑えておくこと!!

この時ほど動物と言葉が交わせればいいのに、と思うことはない。初めてやってくる動物病院、なんか薬の匂いするし犬の鳴き声うるせえし、知らない人がいっぱい! で動物は(よっぽど図太いハッピーな子でないかぎり)とても神経質になっている。そんなところに「はい採血するよ〜」と言って押さえつけられると、大抵の子はびっくりして暴れる。
「怖くないよ〜ちょっとちくっとするだけだからね〜」
などと言っても暴れる。噛みつく。吠える。引っ掻く。何するんだニャー!
ただ、ここで手を緩めていては検査が終わらない。だから怯えるイッヌとニャンコを押さえつける。両手両足を掴んで仰向けにしてぎゅーってする。本当に申し訳ない。心が痛む。私が動物だったら絶対に嫌だ。全力で弁明したい。

稀に注射をされても尻尾をぶんぶん振って嬉しそうにしているお花畑ワンコがいたりするのだが、例外中の例外である。ほとんどの子は「あんたなんかだいっきらいよ!」という顔で睨みつけてくるか、「ひどいにょ……」と見るからにしょんぼりしてしまう。ごめんって、本当に。

しかし、この保定が上手いか下手かで、あらゆる検査の進む速度は段違いなのだ。だからポリクリ生はまず保定を一人前にできる様に努力する。たとえ、動物からめっちゃくちゃに嫌われようとも。

17:00 だいたい検査終了。飼い主様にお返し&お話

大体の検査が終わると、大抵15時すぎかそこらになっている。そうすると、大まかな診断がついてくる。
サラッと書いたが、これは本当にすごいことなのだ。何個もある検査の結果をパソコンで立ち見し、頭の中で神速で診断を組み立てる。私がレントゲンの読影一つでヒーヒー言っている間に、研修医さんはある程度の診断をつけて先生と治療方針について相談しているのだ。研修医さんは、そして獣医さんは、すごい。

そして、いよいよ診断について飼い主様にお話をする。
私は、この時間がポリクリの中で一番辛かった。なんでって、飼い主様やペットにとって、とても残酷なお話をすることもあるからだ。

「悪性黒色腫です。肺にも転移しています。持って半年です。」
「脳腫瘍が見つかりました。1年持つかどうかです。」
「先天性の疾患が多数見受けられます。打つ手がありません。」
「僧帽弁逆流が重度です。200万かかる手術をすれば治るかもしれません。」

ストレートに伝えると、こうした事実のオンパレードである。完治する見込みのない病気。少しでも延命させたいなら、高額な手術や放射線治療が必要になる。

愛する家族に命の危機が迫っている。その事実はショックだ。しかし、そのショックを飼い主さんに与えた上で、さらに治療選択を強いなければならない。治療を諦めて緩和的ケアをするか? 高額な治療を選択するか? その治療でうちの子にかかる負担はどれくらいだろう? 辛い思いをさせて寿命はどれだけ伸びるんだろう?

話を聞いているだけでとてもつらい。でも、飼い主さんはもっとつらい。泣きだす飼い主さんも、ショックで言葉を失う飼い主さんもいる。取れる選択肢をホワイトボードに箇条書きにすると、獣医療の限界がまざまざと突きつけられる。

それでも、獣医さんは懸命に話をする。飼い主さんと病気を抱える動物の双方にとって、一番良い選択はなんなのかを一緒に考える。その日には結論が出ないこともある。そうしたら、飼い主さんと電話で話しながら結論を探す。とても大変だと思う。獣医さんは、とてもすごい。

飼い主様が納得して(or ,一時休戦として)動物を共に帰られたら、やっと診療が終わる。ポリクリ生はめでたく家に帰ることができる。しかし、獣医さんには、まだまだ仕事が山積みである。獣医さんは、過酷な仕事なのだ。

ここまで書いて、切に思う。
獣医師の給料を上げてくれ。
獣医師の待遇を上げてくれ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?