088.悪魔の恋人 [Ra ラジウム] [双子座28度]
僕は悪魔に恋をした。
悪魔だから好きになったんじゃなくて、好きになった人がたまたま悪魔だっただけだ。
なんか不倫の話みたいだな。昔の女友達のことを思い出す。「好きになった人がたまたま結婚してただけだ」とか言ってた。「そんな奴やめとけよ。都合よく使われてるだけだよ?」って、僕は何も知らずに忠告したけど、実際自分が当事者になってみたら、やめとけよでやめられるわけない。恋ってそういうものなんだ。はじめて分かった。
どうしようもなく心惹かれて、心も体も自分のものじゃないみたい。今まで感じたことのない、とてつもなく大きな安らぎの中に溶けていくようになったり、キラキラしたときめきの中で恍惚としたり、切なくて胸が締めつけられるようになったり。ほんと忙しい。
それはともかく。
週末、悪魔の実家に遊びに行くことになったんだ。お父さんとお母さんに会わせたいって。僕はびっくりした。うちの家族はもともと仲があまり良くなくて、恋人や友達を紹介するとかそういう感じじゃないんだ。ちょっとした機能不全家族っていうか。お互いに無関心で干渉し合わないのが普通。だから実家に招いてくれるなんて、すごく意外で。悪魔もきっと、家族とは疎遠で孤独に生きてきたんだと思ってたから。僕の気持ちを理解してくれるのは、きっと似た境遇だからだって思ってたんだけど。勘違いだったみたい。
悪魔は今は一人暮らしだけど、実家にはちょくちょく顔を出すようにしてるんだって。知らなかった。僕が家族と仲良くないの知ってるから、気を使って今まで話題にしなかったのかな?でも悪魔の家族ってどんな感じよ?やっぱそりゃ身構えちゃうよ。
それでまあ当日。かなり緊張してたんだけど、実際家に行ってみたら、向こうの両親はすごく感じよくて、僕のことを歓迎してくれた。昔からの知り合いみたいなムードで話しかけて、リラックスさせてくれて。なんかオープンマインドな、明るくて温かい家族だ。
「恋人だよ」って紹介してくれた時、嬉しかったな。友達っていう扱いでもおかしくないと思ってたから。同性の恋人って、まだちょっと受け入れられない空気あると思うし。だから嬉しかった。なんかその時のこと思い出すだけでニヤけてきちゃう。あほだね。
でもなんかカルチャーショックだ。
僕はすごく誤解してた。同じ孤独を抱えた者同士だから分かり合えるんだろうって思ってたけど、そんなのは僕の頭の中ででっち上げたストーリーだった。全然違う。全く違う世界に住んでたんだ。それでどうして、僕の心がこんなに分かるんだろうな。
正直言うと、ちょっと裏切られたような気持ちにもなった。こんな温かい世界に生きてきたなんて。同じ痛みを共有してないじゃないかって。僕のことを本当には理解してなかったんだって。おかしいよね。自分で勝手に思い込んで、裏切られたとか思うなんて。でもそう感じたのは事実。
そうだ。実家で悪魔が使ってた部屋に入れてくれたんだけど、そこに昔の写真が飾ってあった。まだ幼い少年って感じで、目がキラキラしてる。すごく可愛い。今はもっと大人の顔だ。射抜くような強い目線で人を見る。でも基本はあまり変わってないかな。今でも時々、こんな風に力が抜けた、無垢な感じで笑うんだ。生まれたばっかりの子供みたいな笑顔。見てるだけで幸せな気持ちになる。
でも悪魔ってほんとに悪魔なんだ。その時はね。
見間違うはずのない、正真正銘の悪魔の顔をする。人間にはできない、悪魔のことができる。どうしてこれが同一人物なんだろうって思う。
みんなには非難されると思うけど、僕は全部好きだよ。年齢もなにも関係ない。何をしてようが、何を言おうが、どこにいようが。
全部好きなんだ。
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