見出し画像

ワットなのかルーメンなのか

以前少し触れたのですが、一般家庭用の照明器具に対する問い合わせで最も多い質問が「この照明って明るいですか?」です。「何畳用ですか?」も非常に多い。

これについて、今はw(ワット)ではなく、lm(ルーメン)やlx(ルクス)など明かりの単位を用いての説明がなされるので、既にご存知の方も多いとは思いますが今日はそれを簡単にお話ししようと思います。


白熱電球生産終了のニュースは、まだ皆さんの記憶に新しいことでしょう。
2008年に発せられた経済産業省からの通達により、各社徐々に生産量を減らし2014年には一部特殊電球を除くほとんどの主力商品が生産中止になりました。

実際には、それ以前より「白熱電球」は最もエネルギー非効率な製品の一つとして目をつけれらていたのでこうなるのは必然でしたが、照明業界に身を置く立場として、時代の移り変わりをこの目で見たのは実に貴重な体験ではあったとは思います。
白熱電球についてはまたの機会に話できればと思います。


当時、明るさの目安といえばw(ワット)でした。
これは本来、その電球が使う電力量(消費電力)なのですが、消費者にはこれが分かり易かったのか、そのまま明るさの目安という認識として広まっていました。

ところが、電球形LEDでは、ズバリ「その電力量(w)が小さくて非常に省エネかつ長寿命、そして明るさは従来とほぼ同等」というふれ込みであったため、w(ワット)とは別の、明るさを表す正しい単位で説明する必要があったんです。


それがlm(ルーメン)。そしてついでにlx(ルクス)。


lm(ルーメン)は、ズバリその光源自体が出す光の総量で別名「光束」と言います。
光源が360度、全方向に放つ光。
君、どんだけ輝いてんの?ということ。

lx(ルクス)は光源に照らされた面の明るさで、別名「照度」と呼ばれます。
太陽や電球から光を受けて、
君、どんだけ照らされてんの?ということです。


これらは照明業界においてはもちろん、建築の現場でも共通言語でした。
なので、各電球メーカーは今こそ正しい単位を浸透させる時!とばかりに、まずlm(ルーメン)という単位を積極的に使って周知を図りました。

ルーメン!ルーメン!ルーメン!

超イケメンアイドルユニット「ルーメン810」!
1stシングル「おれ、どんだけ輝いてんの?」をひっさげ、ついにメジャーデビューです!

まあそんな感じ。

しかし、、、そんな華々しいデビューとは裏腹に国民は戸惑いました。
電球形LEDのパッケージに大きく描かれた「lm/ルーメン」の文字。

リム?リットル・メートル?810?
るーめん、て何や?
それで、w(ワット)はどこや?

いけるいける!今がお前たちの出番だ!と事務所からもめちゃくちゃプッシュされ、でかでかとその名をプリントされた衣装に身を包み、満を辞して鮮烈なデビュー!かと思われた次世代ユニット(この言い方自体古い事は是非スルーしてください)ルーメン810でしたが、国民は彼らよりw(ワット)を選んだのです。

おい!ワットはどこだよ!ワット出せよ!
言ってることがよく分かんねーんだよ!
と、ブーイングの嵐。

これにはメーカーも想像を絶する悔しさだったでしょうよ。

単に電球が切れたから交換したいと思って来た消費者からしてみれば、新しい単位と数値の整合性がよく理解できず、切れた白熱電球の代わりのやつは結局どれなの?という問い合わせが殺到しました。

たまりかねた各電球メーカーは早々にパッケージを変更。
lm(ルーメン)表記を控えめに、そして国民の要求に応えるようにw(ワット)を大きく分かりやすく記載しました。
ただし誤解を招かぬよう、そして間違った表現にならぬよう「〜w形相当」と表記しました。
つまり、こうですね。

「60W形相当 / 810lm」


「〜w形相当」というのは、いわゆる白熱電球の時のその明るさに相当するんですよ〜という意味で、前に使っていた電球の代替えがどれなのかが非常にわかりやすい。そして、明るさとしては810lmあるんですよ。覚えなくてもいいけど、一応小声でお伝えしておくね!
という事。


私なんかは、この辺りからも日本でLEDというものが「白熱電球の代替え品」としてしか浸透できていないという状況がうかがい知れるなあなんて思います。


かく言う、私が作っている照明の多くも電球を取り外せるタイプ。
電球を交換することで、器具の寿命がくるまで使い続けられます。

最近ではLED一体型(光源が交換できないタイプ)の照明器具もよく見られるようになっておりますが、電球形LEDがどれだけ長寿命だと触れ回っても、光源が交換できないという点が、消費者の決断をかなり鈍らせるので、チップという小さな光源サイズを活かした千変万化な照明器具は日本の一般家庭にはなかなか浸透しておりません。
逆に海外ではLED一体型の照明はかなり多く、それに伴ってデザインもまさに多種多様です。

光源が10年持てば器具側の寿命とほぼ同等なので、結果的にどちらも買い替え時期にはなるのですが、照明器具の製品の特性と仕様が、いかに購買意欲に関わるかよくわかる部分でもあります。


その点においても、良い意味で一体型という部分にもやは全く注目されないシロモチ(いわゆる平たいシーリングライト)が、いかに定番品として日本の生活に浸透しているかが分かります。
なんせあれを買うときに、LED一体型だからなぁ〜と気を揉む人はあまりいないでしょう。ちなみにあのシロモチで、明るいものだと6000lmくらいあります。これはめちゃくちゃ明るいですね。
ただ、この製品がこんなに暮らしに普及しているのは日本だけでございます。


とはいえ、LEDを使えば小型化できるから、薄型にできるからという特性の持ち味から、極限に挑戦したようなデザインをするのも私は少し違うと思っていて、特性は分かりながらも、やっぱりユーザーが愛着を持ってくれたり、生活に溶け込むような意匠と性能を持ち合わせた製品を作りたいなと、私なんかは思っています。
まあそれは今回いいか。笑

以上、ごくごく基礎の明かりのお話でした。
気づいたらルクスの話ほとんどしてない!!
また次の機会に、何ルーメンで何ルクスくらいがどういう場所でどういう状況に適しているの?なんて話をさせてもらおうかなと思います。

最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた!

陰翳礼讃!





このサポートは照明器具の製作に使わせていただきます! みなさんの暮らし、そしてこころを照らせる照明を作りますね。 これからもどうぞよろしくお願いします♪