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「宙のおつかい」第5話

カチャン!

音と共に扉が開いた
扉から眩しい光が目を差した

「おはよう!そろそろ起きて。朝ごはんできたから。」
ネエサンの声だ!
僕は目を開けて頭を起こした

「宙君、おはよう。あなたのご主人様を起こしてくれる?朝ご飯食べたらお散歩だから」

ご飯?オサンポ!
わあいわあい!

あれ?ゴシュジンどこ…?
僕はキョロキョロした
ゴシュジンの手が僕の目の前よりちょっと高いところから見えた

ゴシュジン…まだ寝ているのだな
よし!
ブルルルル!
僕は体を起こして立ち上がり、全身を振るわせた

僕は後ろ足で立って、ゴシュジンがいるちょっと高いところに前足を乗せた
ゴシュジンが寝ている…
僕はゴシュジンの手を前足で押さえて、ゴシュジンの顔を舐めた

「ブゥわっ!こら!宙!やめなさいって!」
ゴシュジンが手で僕の前足を払う
なんの!僕だって負けない!
もう一度ゴシュジンの顔を舐める

「だから、やめてって!顔舐めるの!」
やめないよ!起きてオサンポ!

「わかったわかった!」
ゴシュジンが体を起こした
そして僕の前足を両手で掴んで床に下ろした
「宙、若いうちはいいけど、後ろ足で立つのは歳をとると腰に響くから、今のうちにやめておきなさいね」

全く…ゴシュジンは何を言っているのだか、よくわからない
僕は首を傾げた

「はいはい、起きますよ…」
ゴシュジンは高いところから足をおろした
そして床に立ち上がった

ゴシュジンは部屋の扉に向かった
僕はゴシュジンの後ろをついていった

ワンワン!ワンワンワン!
ダンダダンダン!
部屋の奥でミチあいつが吠えている
ミチは柵に囲われてその中で自由に動けるようになっている
柵の上に前足を置いて後ろ足でビョンビョン飛んでいる
「おはよう、道!」
ゴシュジンがミチに近づいて頭を撫でた

「おはよう、金沢ここの生活にもそろそろ慣れた?」
奥の方からネエサンの声が聞こえた
「うん、もう三日目だしね。ここは東京と違ってのんびりできていい。」
「まあ、あなたはお勤めしているから。ゆっくりしたいよね。ただ、ここの冬は厳しいのよ。雪がすごくベタベタして、長靴は必須よ。」
「そっか…」
「それより、朝ごはんにしない?毎日同じもので悪いけど、私のお気に入りのパン屋のトーストとボイルドエッグとサラダ。それにお紅茶も。」
「英国に来たみたいで嬉しいのよね。ネエサンのモーニング!今日も美味しそう。」
「あなたはコーヒー派だけどお紅茶もいいでしょ?」
「紅茶も好きだけど、一式揃えるのも維持するのも大変。ポットにカップ、紅茶ポットカバーに砂時計。一時期姉さんに憧れてやってみたけど、すぐに埃かぶっちゃった。そもそもポットに残った茶っぱ洗うの面倒。」
「そんな面倒じゃないわよ。コーヒーだってドリップにサーバー、一式揃えるの大変でしょう?」
「若い時はコーヒーも凝ってみたけど、勤め出したらそんな余裕ないない。だからもっぱらコーヒーメーカーにお任せ。あれは楽でいい。」
ネエサンの眉が上に上がった
「全く…あなたは不精ね。」

ゴシュジンとネエサンは椅子に座った

僕はゴシュジンが座った椅子の側で丸くなった
カチャカチャ、サク!モグモグモグモグ…
音が聞こえる
二人ご飯食べているんだなあ
美味しそうな匂いだなあ

「前も聞いたけど、道君、何でサークルゲージの中で生活しているんだっけ?」
「最初はうちの中で自由にさせていたのよ。でも、うちは本がいっぱいあるじゃない?イタズラされたら困るから。」
「おじさんが遺した本でいっぱいだものね。研究者も大変だ。」
「あら?私の方が多く執筆して本や論文にしているのよ。あの人は本当に思いついたらどんな紙でのメモして…新聞のチラシだって、ひどい時なんてドル紙幣にも書くのよ。」
「それ、円に変えないと」
「そうなんだけど…でもあの人の文字と思うと捨てられなくてね」
アノヒト?そういえばここはネエサンとゴシュジン以外の匂いがしたんだよなあ

「そっか…」

モグモグモグ…
ゴシュジンはそれ以上何も言わずに黙々とご飯を食べている
ネエサンも
おいしそうな匂いだなぁ

「ただ、道は、イタズラは滅多にしないけどね。」
ネエサンがまた話し出した
「そうなんだ。ただ、あのサークルゲージ、高さがないよね。道君が後ろ足で立ったら胸あたりまでしかない。ピョンピョン飛ぶと道君のお腹まで見えるよ。よくサークルから飛び越えないよね。」
「そうなのよね。私も飛び越えるかなって思ったけど、案外、道は保守的みたい。あのゲージの中での生活にしたら、段々と私の言うことを聞くようになったし。道にとってあのエリアは安心の場所なのかも。」
「今更だけど宙がこの家を自由に歩いているけど…道君は怒ったりしないのかなあ?」
「宙君はあなたが好きよね。ずっと一緒にいるし。だからうちでも自由で大丈夫よ。でも、あの人のメモや本のイタズラは御法度ね。」
「はあい。宙はイタズラが大好きだからしっかり見張ります!」
カチャカチャ、ガタン…
ゴシュジンとネエサンが立ち上がった
食べ終わったのかな

「道は犬が嫌いなのよ。散歩行くと他の犬を見るとすぐに吠えるから。でも宙君には最初唸るけど、それ以外は吠えないから安心しているの。ただ、道のゲージの周りに宙君をうろつかせないでね。」
「うん、わかった。」

ジャー!
水の流れる音だ。ゴシュジンとネエサンが食べ終わって片付けているのかな
僕はそのまま丸くなったままにした
横目でミチの方を見ると、あいつも窓際で丸くなって寝ている

「さて、二人は明日で東京に帰るのよね。」
「うん、お世話になりました。」
「じゃあ、今日の夜はご馳走ね。どこか食べに行く?」
「いいけど、宙はどうしよう。」
「部屋の中でリードで繋いでおけばいいと思うわ。」
「じゃあ、そうするね。」
二人足元が見える
ふうぅ
僕はずっと二人の足を見ながら一息ついた

それからしばらくしたら、ネエサンが僕に声をかけた
「じゃあ、宙君。お待たせ!お散歩に行こう!」

オサンポ?わあい!
僕は起き上がりネエサンの手に前足をかけた
「シッ」
ネエサンは僕の前足を払った
「ダメよ!飛びかかったら!いけない!」
いけないの?
「宙!ほら、また飛びかかる。やめなさいって言っているでしょう?」
ゴシュジンがまた怒る

「この子はこの癖だけは治らないみたいね。」
「どうしても、人を見ると嬉しくて飛びかかるんだよね。犬友達も、社交辞令かもしれないけどみんな嬉がるの『こんなフレンドリーな柴犬見たことない!ありがとう!』って」
「あらあら、そうなのね。」
カチ!
ゴシュジンが僕の首輪にリードをつけた
奥からミチがネエサンとやってきた

ウウウウウウ…

ミチが唸る
まただ、
でもこれは僕への毎朝の挨拶
そう思うことにした

「道!いけない!」
またミチはネエサンに注意されている
ミチは僕にお尻を向けてネエサンの前でおすわりした

それからみんなでオサンポした
ミチは僕の方はみないけど、僕の隣で歩いている
ミチが僕を追い抜いた
僕もミチを抜き返した
今度はミチが幅寄せしてきた
「こらこら、仲良くしなさいね。」
ゴシュジンの声がした
ええ!こいつが仕掛けてきたのに、また僕が怒られるのか…
僕はミチと歩幅を合わせた

サラサラサラ…
いつものカワの音がする道にでた
わあい、いい匂い!
僕は道横の草むらに鼻を突っ込んだ
本当にいい匂い
クンクンクン!
ふと、目の前に別の鼻が現れた
クンクンクンクン!

またミチあいつだ!
クンクンクン!
クンクンクンクン!
僕とミチでずっと同じところを匂った
「あんたたち、何をしているの?」
ゴシュジンの笑い声がする
いいんだ、匂いを横取りするミチには負けられない!

「もうやめてよ、何もないじゃない、二人で。アハハハハ」
ゴシュジンが笑っている

笑い事じゃないんだ!

「もういいわよ。行くよ。」
首輪がリードで引っ張られる
草むらから放された…

ミチはまだ匂っている

もう、負けたじゃないか!

仕方なくゴシュジンに連れられて歩いた
ミチが僕を追いかけてきた
また並んで歩いた
「あなたたちは仲がいいのか、悪いのかよくわからないわね…」
ネエサンの声がした

そうしてネエサンの家に戻った
僕は部屋に入って朝ごはんをゴシュジンからもらった
パクパクパクパク!
美味しいなあ…
僕が頬張ってると部屋の外から聞こえてきた

ワンワワン!
ウーーーーー!ギャアオオオ!
「道!いけない!静かに!」
ギャアオオオ!ウーーーーー!ワンワンワン!
「道!静かに!」
まただ、ここへきて御飯時に聞こえるミチとネエサンの声
あいつはいつもご飯時にすごく騒ぐ

僕が食べ終わった頃

ワンワワン!ウーーーーー!ギャアオオオ!
「道!いけない!静かに!」
まだやっている…
お腹いっぱいになったしちょっと横になるかな
丸くなった

しばらくしたら

「よし!」
ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!
ネエサンの声と共に聞こえるミチのがっつく音
ようやく食べたんだな…それにしてもものすごい音…

僕は目を閉じて部屋の中で寝た

それからしばらくして日も落ちてきた頃
ゴシュジンとネエサン、ミチと二回目のオサンポにいった
ネエサンの家に戻って部屋に入った

カチャ
ネエサンが扉を開けて入ってきた
「そろそろ、ご飯食べに行かない?」
「いいよ」
ゴシュジンが立ち上がった

ゴシュジン、どこに行くの?
僕はゴシュジンの足元に寄った

ゴシュジンは僕の首輪にリードをつけた
でもリードの先はゴシュジンの手ではなく、部屋の取手に繋がれている
僕はちょっとしか動けない
ゴシュジン…どこに行くの?
僕はゴシュジンに前足をかけたいけど届かない
「宙、ちょっとだけ出かけるからそこで大人しくしてね」
ゴシュジンは僕に向かって言うとドアのところに向かっていった

カチャ、パタン
「何が食べたい?」
「私は何でも。」
「そうね、おすすめのイタリアンがあるの。そこはどう?」
「いいね…」

ガシャ、バッタン…カチャカチャ
外に出るドアの音だ
ゴシュジンもネエサンの声もしなくなった
僕はここで一人ぼっちになった

あぁあ、仕方ない
また寝ることにしよう
僕は丸くなって眠った
ゴシュジン…早く帰ってこないかな…
そういえば、お腹空いたなあ
オサンポ後にご飯食べていないものなあ

バタンバタンバタン!
奥からミチの飛び跳ねる音がする
バタンバタンバタン!



しばらくしてなりやんだ
あいつも寝たらしい

また、静かになった
僕の周りはもっと暗くなっていった

目お覚ました
あたりは真っ暗だ
どのくらい経っただろう

カチャカチャ…ガッチャ
「ただいまー」
ネエサンの声だ!ゴシュジンの匂いも!

ワンワンワン!僕は叫んだ!
おかえり!!

ダンダンダン!
ミチも飛び跳ねている音がする

カチャ
ゴシュジンが入ってきた

ワンワン!
おかえりなさい

「ただいま宙。一人にさせてごめんね。」
僕の首輪からリードが取れた

ゴシュジン、お腹空いたよぉ
寂しかったよぉ
僕はゴシュジンの顔を舐めた
ゴシュジンの顔は何だか赤い
それになんか妙な匂いがする…
僕は体をのけぞった

「わかった、わかった…ご飯の準備するねん」
何だかゴシュジン機嫌良さそう…
まあいいか、
僕はご飯を食べた

ワンワワン!ウーーーーー!ギャアオオオ!
「道!いけない!静かに!」
部屋の外からまたミチの騒ぐ声がする
始まったんだな、あの儀式
「よし!」
ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ!
ネエサンの声と共に聞こえる、ミチのがっつく音
今回は意外と早くもらったんだな
お腹いっぱいの僕は部屋の床に伏せった

「ねえ、お風呂沸かしてくれない?」
ネエサンの声がした
「いいよ。」
ゴシュジンは立ち上がった
と思うと、部屋からゴシュジンがすぐ出て見えなくなった
待って!ゴシュジン!
僕はゴシュジンの後を追っかけた

部屋を出て扉を出た瞬間
ミチあいつがいた
あれ?何で?ここに?ミチがいるんだ?

そう思ったけど僕はゴシュジンの後を追った
僕の肩がミチの顎に触れた

その瞬間!

ミチが僕に覆い被さってきた

ワンワンワンワン!ガルルルルゥ!

な、な、何するんだぁぁぁ!このやろう!!!

ミチの正面に向かい、右前足をミチの頭にかけた!
やめろ!いきなり何をするんだ!!このやろう!!!!

あいつは口を大きく開け、左肩にかぶりつこうとした!
後ろ足が滑り、不覚にもよろめいた!
くそ!!!
あいつはさらに押し倒してきた!
しまった!
右前足があいつの頭で見えない!!!

その瞬間
目の前に赤い火花が飛んだ!

キャイイイイイイイイーーーーーーン!
ギャアアアア!!

イタタ、イタタタタタ、痛い痛い痛たーーーい!!!!

「宙!宙!宙!やめて!道やめて道!!!!!やめてーーーーーーー!」
遠くから声がする
だが、目の前は、大きく開けたミチのクチの中しか見えない…
う。。。
さらに火花が走る
痛い!
痛い痛い痛い!…痛いのか…もうだめだ…

「チュウ!チュウゥーーーーーーーーーーー!」
声がする…

目の前が真っ暗になった
何も見ない…
意識もなくなってきた…

もう、ここまでか…

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宙のおつかい(第6話)話の続きはこちら↓


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