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【新卒の頃の思い出】先輩の呆れ顔が忘れられない

私の会社では以前、部署に関係なく新卒入社のメンバーで構成された「新卒の会」という組織があった。この組織は業務以外のイベント行事の仕切りを担当する。

と言っても、イベント行事が他の会社よりも多かったし、ハードな内容だったのは自覚している。入社してからすぐには蛤合宿(海で蛤をとるらしいが私の年は実施していない、かわりに寝ずに100キロ歩いた)、その一ヶ月後に軽井沢合宿、さらに内定者懇親会、就活時期の学生への社内案内、仕事始めの会、花見、など。

中でも最も過酷だったのが軽井沢合宿だ。全社員と、さらにグループメーカーの社員と総勢200名以上が参加する、大運動会である。二泊三日に渡り、朝5時からの座禅をし、テニスやバレーといった一般的なスポーツから、騎馬戦や相撲などの激しい肉弾戦も繰り広げられる。これだけだと楽しそうに聞こえるかもしれないが、すべての競技が真剣勝負であり、怒号が飛び交いけが人も絶えない。

その軽井沢合宿の準備を、新卒社員は入社後すぐに担当させられる。当時の私は、日中は外部に研修に行っていたため7時半には家を出、研修が終わると一旦会社に帰り、その後準備作業、終電で帰れればラッキーだった。帰れない日も多かったので、自転車で通勤したが、あまりにも疲れてしまい自転車を漕いだまま眠ってしまい転んで怪我をしたこともあったなぁ…。土日も毎週軽井沢に行って現地調査をしていたので、いつ休んでいたのか寝ていたのか、何よりいつ仕事をしていたのか本当に謎だ。(ちなみに、この5年くらいは軽井沢合宿は行われておらず、会社全体としてもこのような無茶な働き方はさせないよう、人事部長が目を光らせている。)

新卒の同期は20人くらいいただろうか。参加者を8チームにわけるためのドラフト会議資料作成をしたり、そのために全社員に体力測定をしてもらったり、おそろいのTシャツの発注をしたり、バスの並び順や宿の手配などあらゆる準備を行う。さらに一人1競技程度を担当し、競技のルールブックの作成や、必要な器材の調達なども行った。私は中学時代バレー部だったので、バレーを担当した。どうしたらルールをわかりやすく説明できるか、時間内で終わらせるためにはどこを改定したらいいか、会場のセッティングはどうするか、などバレーだけでも準備を完璧にして、ここで先輩や上司から一目置かれる存在になりたい。そう思っていた。


さて、時は流れて軽井沢合宿当日。1日目は、テニス、バレー、ドッチの3種目が行われるが、この日の成績によって1日目の食事内容が決まる。1位は焼肉食べ放題に飲み放題、最下位は同じ店の駐車場の隅で白飯のみ。いずれも白熱したゲームとなった。

問題が起こったのはその日の夜だ。食事も終わり、かなり夜も更けていたと思う。新卒の会のメンバーが集められて反省会が行われる。イベントのたびに毎回このような反省会はあるのだが、私はこれが苦手だった。絶対に怒られるからだ。その日の段取りが悪かったところ、できていないところを指摘され、翌日のスケジュールを確認して解散すればいいはずなのだ。だが、競技で使った器材がきちんと片付けられていないことが問題になり、反省会が終わったら全員で片づけようということになった。

「ラケットが1本ない…」テニスを担当していた私の同期が言った。借り物のラケットをなくすなんてとんでもない、見つかるまで探すぞ!と先輩に言われ、新卒全員であちこち探した。もうとっくに0時は過ぎていたと思う。ささに運が悪いことに、この日は大雨だった。

「お前、自分は関係ないと思ってるだろ?」

私と一緒にバレーの競技の準備を手伝ってくれた先輩が、私に向かってそう言った。そうだ、確かに私は自分には関係ないと思っていた。テニスラケットをなくしたのは担当者の責任だし、私は自分の担当に責任を持って、現に何もなくしたりしていないじゃないか。今回のイベントで、私は管理がしっかりできている、テニスを担当している彼はできていない、それがすべてで、それが社内の評価につながるんじゃないのか。

思ってます、と答えた先輩のあきれた顔は、あれから13年たった今でも忘れられない。

当時の私にとって、仕事は自分をアピールする場だととらえていた。今思い返してみると、先輩がなぜあんな顔をしていたのかがわかる。その事業やイベントを成功させて初めて、それは”仕事”になるんだということ。そして成功してからでないと、評価はつかないと。自分をアピールするだけでは、それは仕事ですらないのだ。


なぜ急にこんな昔話を思い出したのかというと、ちょうど少し前に同じくSOD出身の方にインタビューをさせて頂いたからだ。

そのインタビューの中で、イベントの業務を通して「仕事とは何か」を知ったというお話があった。自分にとってイベントの業務はテニスラケットの件が一番思い出深く、ずっと先輩のあきれ顔の意味もわからなかったのだが、インタビューでお話しを伺って、ようやく気付くことができた。

というわけで、明日私が第二・第四金曜日に連載させていただいているTOKYO HEADLINEにて、アダルト業界で働く女性へのインタビュー企画を始めることになりました。初回として、元SOD・現LOVELY POP代表取締役の綱島慶乃さんへのインタビューが載る予定です。

こちらもあわせて是非。

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