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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #39 Ryusei Side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。二人は内緒で社内恋愛中だったが、さとみに好意を抱く志田潤に関係がバレた。潤は琉生の元カノ・由衣を使って、さとみと琉生の仲を裂こうと画策している。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

由衣と会ってから急いでタクシーで帰ってきてみたものの、さとみは帰ってこなかった。

俺は帰ってきてしばらくダイニングで待っていたが、さとみは帰ってこなかった。

そしてあのままダイニングで寝てしまったようで、朝、5時ごろ寒さで起きた。

6時まで待ち、ギリギリ仕事に間に合うかなという7時になってもさとみは帰ってこなかった。仕方なく、昨日自分で作った夕飯を温め直し、朝食として食べる。

1人分のコーヒーを淹れ、それを飲み、いつもと同じ時間に、家を出た。

同棲を始めてまだ1ヶ月なのに、いきなりこんなのって寂しいじゃないか。

俺は由衣を恨んだ。なんで、いきなり。由衣の行動にも納得できないし、帰ってこないさとみのことも恨んだ。

誰か友達のところに行ったのだろうか。しかし交友関係が活発そうではないさとみに、そんなにすぐ行く当てがあるようにも思えなかった。しかしまさか、さとみに限って他の男のところにということはないだろうが。

俺は会社に向かう電車の中で、もう一度さとみにLINEをした。返信がないかもしれないと思いつつ。

「昨日、由衣から、さとみと話したこと、聞いた」

既読はつかない。そのまま俺はLINEを打った。

「帰ってきたら話がしたい」

どこに、いるんだろう。今日は会社に来るのか。とりあえず、朝礼が終わったらさとみの部署、総務を覗きに行こうと思った。その矢先。今までのLINEが全部既読になった。

「今日は会社休む」

さとみからのLINEだった。俺は慌てて、返信をする。

「どこいる?もう帰ってくるなら、俺も家戻るけど」

「夜には帰るから。仕事して」

いつものさとみの返信だった。

「わかった」

俺のその一言に既読はついたものの、そこで返信は途絶えた。

***

「りゅーせーさーん」

会社に着くなり、例の耳障りな声で呼ぶやつが来た。志田だ。

「あれ、なんか顔色悪いですね。寝不足ですか?」

ヤツが俺の顔を覗き込む。俺は手で志田を追い払う仕草をした。

「ちげーよ。バカ」

普通にしてたつもりでも、夕べの疲れが顔に出てしまっているのかもしれない。俺は志田の観察力に辟易しつつ、朝礼の準備を始めた。

そこへ総務のヨシダさんが来た。

「おー、ワンコくん」

「ヨシダさーん」

志田がヨシダさんに駆け寄った。本当に犬みたいだな、コイツ。

「ワンコくん、昨日さとみちゃん、どうした?」

え?さとみ?俺はさとみの名前に反応して、ヨシダさんと志田の会話に聞き耳を立てる。

「あ、急に具合悪くなったみたいで・・・ちゃんと送っていきました」

送っていった、だと?どこへ?俺は今すぐに志田の胸倉を掴んで問いただしたい衝動を堪えつつ、耳をそばだてた。

「そーなの。今日も休みって連絡入ったからさあ。熱でもあったのかなあ?」

「んー、そういうわけじゃなさそうでしたけど。なんか、メンタル的な?」

志田がヨシダさんにも思わせぶりなことを言っている。しかしヨシダさんもそれで察した様子だった。これ以上踏み込んだらいけないと思ったようで、すっと話を切り上げた。

「年頃の女の子はいろいろあるだろうしな。ありがとね」

ヨシダさんが去っていくのを見届けてから、俺は志田に声を掛けた。

「佐倉さん、なんかあった?」

「え、いや、まあ。さあ?」

志田が目を逸らす。

「はぐらかすなよ、お前」

つい言い方がきつくなってしまった。まずい。

「りゅーせいさんコワい」

「ふざけんなって」

「気になります?“彼女”」

志田がニヤッと笑ったように見えた。いや、それは俺が穿った見方をしているからそう見えたのかもしれない。

「彼女って・・・」

俺の鼓動が早くなる。コイツも俺とさとみの関係に気付いているのか?まさか。じゃあ、由衣とは・・・。

「あ、違いますよ、りゅーせいさんの彼女って意味じゃなくて。三人称の“彼女”です」

志田があはは、と笑う。これはいつもの顔だった。

「別に。ヨシダさんがわざわざうちらのとこまで来るって、何かなと思っただけだし」

俺は志田から顔を背けた。いや、でももう1つ聞きたいことがあった。

「送ってったって、家まで?」

俺はあくまで雑談のつもりで話を振った、つもりだった。

駅までとか、そんな答えを期待していたのだが、返ってきたのは予想だにしていない言葉だった。

「それ、琉生さんに言う必要あります?」

茶化すような、はぐらかすような言い方で、ニヤっと笑った。

コイツ・・・。瞬間、俺は自分の頭にカッと血が上るのを感じた。なんでコイツはこんなにイラ付かせるいいかたをするんだろう。一方で心臓がドキドキしてきた。

さとみが、まさか。志田と一晩一緒にいたとしたら?いや、さとみに限ってそんなことはないと思うが。

俺はさっきのLINEを思い返して、心を落ち着かせた。志田に聞かなくても、さとみが帰ってきて、聞けば分かる話だ。詮索しても仕方がない。

「別に、言う必要ないわな」

俺は自分の声の冷たさに驚いたが、志田も気にしていないようだった。

夜にはわかる。さとみとちゃんと話し合って、由衣とのことを隠していたのはちゃんと謝ればわかってくれるはずだ。自分で自分にそう言い聞かせると、俺はそれ以上考えないことにした。

仕事に集中しろ。

俺は志田のほうは見ずに、朝礼に参加するために、席を立った。

*** 次回更新は3月5日(金)15時ごろです ***


雨宮より(あとがき):琉生もとばっちりというか、別に元カノのこととかいちいち話さないよねーと思いつつ、でも一方でいちいち隠さないでもいいのにーと思ったり。そういうことでヤキモチやいてるさとみの気持ちはわからないんだけど(おい作者)、たぶんよっぽど隠し事されて嫌なフラれかたをされたんだと思います。そのへんは機会があったら書きます(さとみと元カレの話)。ただなんでも過去のこととか全部話してほしいって思っている女の子は多いよね。その過去(いろんな女)を踏まえて、今、私のことが好きって言ってほしいんです。だから根掘り葉掘り昔の彼女の話聞かれても、あの女よかったわーとか間違えても言わないでくださいね、彼氏さん。ただ、アラフォー既婚者の私は、恋人同士・夫婦でも言えないことの1つや2つあってもいいと思っている派です。なんせ、この小説を書いていることは夫に秘密ですからねw


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