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私たちはまだ恋をする準備が出来ていない #27 Ryusei side

アラサー・アラフォーが恋をしたくなる小説。
あらすじ:さとみ32歳、琉生25歳。内緒で社内恋愛中。話は少し戻って、週末の引っ越しの時の話。今回の主役は、琉生です。
※毎回1話完結なのでどこからでもお楽しみいただけます

さとみとの同棲開始はバタバタだった。結局余裕、と思っていた荷造りもなかなか出来ず。最後はほぼダンボールにも詰めずに車に放り込んだ。それでも大学時代の友達、ダイスケに車を借りて、何とか二日間で引っ越しは終わった。

ダイスケは年明けに結婚した。“おめでた”婚なので、入籍だけサクっと済ませたらしい。しかしサークル内で一番モテてた男がこんなに早く結婚するとは。相手はサークルで付き合ってたサキ。

「助かったわ、車。やっぱ俺も買おうかなあ」

ダイスケに礼を言って、さとみと選んだ手土産を渡した。

「上がっていけよ。今、サキいないから。年末、LINEで飲もうって言ってただろ」

「いや、飲むのはやめとくわ。彼女待ってるし」

俺はさとみが夕飯を作ってくれているのもわかっていたから、さっさと帰りたっくって思わず断ってしまった。だけど、車だけ借りてそのまま帰るのも厚かましすぎるかなと思った。どうしよう、と考えていると、ダイスケが見透かしたように声を掛けてくれた。

「じゃあ、茶くらい出すからさ。ちょっと寄ってけって」

「あー、じゃあ、ちょっとだけ」

折衷案で小一時間ほど、お邪魔することにした。

ダイスケのマンションは新築ということもあり、壁紙や木の匂いがした。さとみの家とはまた違う、雰囲気。

ダイスケとは年末会おうという話も、サキが妊娠中ということもあるので、なんとなく流れていた。

俺は先に結婚を決めたダイスケにいろいろ聞きたいことがあったので、今、サキがいないのは好都合だった。

「彼女と同棲かあ。もう結婚考えてんの?」

ペットボトルのウーロン茶を淹れながら、ダイスケが言った。

「まー、そうしたいんだけどな」

俺はまだ生活感のない部屋をぐるっと見渡す。きれいすぎて、1か月以上生活していたとは思えない。まるでモデルルームのようだ。

「サキは?元気?」

ダイスケだけならともかく、サキがいるにも関わらず生活感が全くない部屋に疑問を感じて、尋ねた。

「年末から、つわりがひどくて実家に帰ったまま」

予想外の答えだった。

「え、じゃあ、新居に一人?」

「ああ。だから、あんまり新婚って感じしない」

「そっかあ」

俺はあまり時間もないので、聞きたいことを切り出した。

「結婚って、どう?なんでサキって決められたの?」

「うーん、それよく聞かれるんだけどなあ。あんまりわかんないんだよねえ」

ダイスケが本当にわからない、という感じで腕組みをする。

「だって、俺ら、相当いろんな子と遊んでたじゃん?」

ダイスケがタバコに火をつけた。

「うん、まあ。だからサキと切れてなかったってことに驚いたんだけど」

ダイスケは俺と一緒にかなり遊んでた。お互い一人暮らしだったが、彼女かどうかもわからない女の子が常にダイスケの家に入り浸っていたし。入学当初、サキと付き合ってたのは知ってた。が、いつのまにかすっかり聞かなくなっていたので、てっきり別れていたと思ってたのだ。

「なんだろー。いや、サキとは・・・ずっと、付き合ってたかどうかもわかんないんだよね」

ふーっと煙を吐いて宙を見つめるダイスケ。

意外な答えに俺がびっくりした。

「え、そーなの?」

純愛を期待していた俺の考えが打ち砕かれる。

「んー、まあ、俺ら、女の子と仲良くなっても付き合おうとかいちいち言わないじゃん」

「俺らっていうな、俺ら、って」

確かに大学時代は何となく飲み会の流れで、誰か持ち帰ってそのままヤった既成事実から付き合ってる“風”になっていることも多かった。

「ただ、他の女の子と別れたらなんか、ついサキのとこに戻っちゃうっていうか。会いたくなって、なんか、ズルズル」

サキは大人しいほうだから、ダイスケが戻ってきたら許してしまうタイプだったのかもしれない。サークル内でもいつも地味な作業を黙々とやっている記憶しかないので、わかる気もした。

「サキはセフレの子たちともまた違ったんだけど、情っていうか、帰るとこっていうか」

ダイスケがぽつぽつと、いろいろ思い出しながら話しているようだった。

チリチリとタバコが灰になっていくのを見ていると、ハッとしたようにダイスケがそれを吸った。

ただ、サキはさとみに似た感じですごく真面目なので、浮気とかは許せなさそうなイメージなんだけど。

「サキがそれ、よく許したよな」

「許されてたかどうかわかんないけど、戻るたびに受け入れてくれてはいた」

「寛大すぎる」

俺はサキに感服した。この遊び人のダイスケをそこまで手名付けるとは。

短くなったタバコをグリグリと灰皿に押し付けると、ダイスケは2本目を口にした。

「俺が飼いならされてたのかもしれない」

「なるほど」

意外とサキみたいな女のほうが、強いのかもしれない。そういう強さはさとみにも通じる気がした。

「俺の今の彼女、サキに似てるかも」

「そーなの?年上なんだろ」

「うん。年上だから、しっかりしてるように見えるだけかもしれないけど」

「なるほどなー。でも結婚するまで、適当に遊んどいたほうがいいぜー。結婚はあと5年遅くていい」

タバコを咥えたダイスケが言う。

「もう俺はさとみと結婚するつもりなんだけど・・・」

「さとみ?ああ、彼女か。ふうん。お互い落ち着いちゃってるね」

「悪い事ないだろ?」

「そうかなー。俺はもうちょっと気を付けておけばよかったって後悔してるわ」

「え?マジで?この期に及んでそれ言う?」

“気をつけておけば”は妊娠のことを指しているに違いなかった。

俺はダイスケの予想外の答えに驚きすぎて、声が大きくなった。

「周りにはぜってぇ言えねえよ。最低すぎて社会的に抹殺されるだろ。でも琉生だから言うけどさ。サキが妊娠したし、付き合いも長いから責任取ったけど、実際は息苦しいよ。もう俺、これで終わりかあ、って」

「終わりって、そんな。これからじゃねーの」

てっきり、いろいろ女の子を見てきて、やっぱり最初のサキだった、というハッピーエンドな話が聞けると思っていた俺には、衝撃的だった。

「いや、ぶっちゃけ、今だってサキが家にいないから、適当に女の子連れこんで遊んでるもんね」

「ま、マジか・・・」

最低すぎる、コイツ・・・。

「だってさ、俺らの年でもう一生一人の女しか抱けませんとか、無理じゃね?」

「えっとー、それが結婚ですから・・・ダイスケさん」

俺は無理やり茶化してみたが、ダイスケは最低なことを重ねた。

「いや、マジで無理だって。サキだっていきなり俺の性格変わるだろうとは思ってないから、薄々気付いてるんじゃね、って思うけど」

「最低」

俺は言わずにおこうと思っていた言葉を、口にしてしまった。ダイスケはそんなのわかってる、っていうような素振りで続けた。

「つわりで実家帰ってるっていうのも、俺を一人にさせてくれる口実なのかなとすら思うもんね」

「・・・・俺にはわかんねーわ」

俺は話をぶった切って、身支度を始めた。思ってた話と違って、胸糞悪い。

「ま、な。同棲してみたら、また変わるんじゃね?変わらなかったら、祝福された結婚が待ってると思うよ」

「そうなると思うわ」

俺は軽く手を振ると玄関に向かった。ダイスケも「じゃ」と言って、見送りにはこなかった。

*** 次回は2月5日(金)15時頃の更新予定です ***

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