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写真を撮らずにはいられない、『みどり~のゼリー』

 芸妓・舞妓さんたちも食べに行く、お店の一つに、
 「切通し進々堂」
があります。
 京都には大正2年(1913年)創業の「進々堂」という有名なベーカリーがありますが、こちらはまったく別のお店です。

 「京都祇園もも吉庵のあまから帖」3巻の5話に、この「切通し進々堂」が登場します。どんなお店か、本文からその部分を切り取って紹介しましょう。
 
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奈々江が後ろをついて行くと、お父さんは「切通し進々堂」の前で立ち止まった。郵便局から目と鼻の先。奈々江の憧れの喫茶店だった。店先に置かれた冷蔵のショーケースには、いろとりどりの鮮やかなゼリーが並んでいる。
「好きなの選びぃ」
何度も店の前を通っている。でも、横目で「美味しそうやなぁ」とチラリと見て素通りするだけ。だから、食べるのは今日が初めてだ。
その名前がユニーク。例えば、「舞妓さん好み あかい~のゼリー」。他に、「みどり~のゼリー」「きいろい~のゼリー」と三種あり、迷ってしまう。
「そないに迷うんやったら、三つとも食べたらよろしいがな」
「そないな贅沢したら、罰が当たります」
「罰って……そないなこと言う若い娘、今どきおらへんで」
真顔で言ったら、お父さんに笑われてしまった。
店内に入ると、団扇がところ狭し、壁一面に縦横びっしりと並んで飾られている。夏になると芸妓・舞妓が自分の名前の書かれた団扇を作ってご贔屓や、行きつけのお店に配る習わしがある。お店は、それを壁などに飾る。つまり、切通し進々堂は、それほど大勢の芸妓・舞妓が馴染みにしているということの証だった。
一匙すくって口の中へ。
「おいしおす〜」
赤いプルプルのゼリーの中に、ミカンとパインが入っている。
「そらよかった」
奈々江は、まるで夢のようだと思った。そうだ、夢に違いない、と。
 
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スイーツは、味や香りはもちろんのことですが、「色」がキレイなことも魅力の一つです。
インスタはやっていませんが、どうしても写真を撮りたくなってしまいます。
そうそう、インスタが流行り出してから、
いかにも「インスタ映え狙い」というメニューが増えています。
でも、「切通し進々堂」のゼリーは、ずっとずっと、それ以前から「映え」ているのです。
 ちなみに、写真の左側は、名物の「上玉子トースト」です。
 分厚いので、どうやって食べるか悩んでしまいました。



 

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