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『ゾンビランドサガ』佐賀を救うのは誰だ

アイドル」×「ゾンビ」という革新的イノベーションで視聴者に衝撃を与えた『ゾンビランドサガ』 私のお気に入り作品の1つだ。
音楽活動を主テーマとしながら、これまでに取り上げた『ぼっち・ざ・ろっく!』、『ガールズバンドクライ』、『けいおん!』のどれとも異なるジャンルのこの作品について振り返ってみたい。


魅力度最下位ですが何か?

また余談から入りたい。例の都道府県魅力度ランキングで我が茨城県の戦績は凄まじい。2009年から昨年(2023年)までの15年間で何と12回の最下位(47位)を獲得している。まぁ、われわれ県民は茨城の魅力をよく知っているので、こんなランキングは気にもとめていない。例えば、茨城に大洗があるだけでも大半の県よりは断然魅力的だと思う。
ちなみに、大洗といえばガルパンの聖地だが、今年(2024年)からキャラクターの誕生祭リアル開催が復活して大盛況のようだ。

さて、そんな茨城県と熾烈な最下位争いを繰り広げている県がある。それが佐賀県だ。2019年から昨年(2023年)までの5年間のうち、4回が茨城と佐賀による46位、47位争いだったのだからライバルと呼んでいいだろう。そして、この直接対決は茨城の1勝3敗だ。

佐賀県といえば、明治維新の実現に大きな功績を残した主力四藩の1つ(肥前佐賀藩鍋島家)であり、明治の一時期には政治の中枢を担う参議は佐賀県出身者が最も多かった(大隈重信、副島種臣、大木喬任、江藤新平の4名)こともある。ついでに余談ながら、茨城県は明治新政府に朝敵とされた最後の将軍・徳川慶喜の出身地水戸がある地域だ。この当時からライバルだったのだ。

ところで、その佐賀県が時代と共に徐々に凋落し、

「今や存在自体が風前のともしびの佐賀」

と揶揄される状況を設定に取り込んで製作されたのが『ゾンビランドサガ』だ。

主人公たちメンバーがご当地アイドルとして活動する様子を軸に展開する物語は、よくある単純なサクセスストーリーではない。例の『SAVE THE CATの法則』に照らして分類すると『ゾンビランドサガ』のジャンルは「難題に直面した平凡な奴」となる。しかし、これが並大抵の難題ではない。

主人公が直面する絶望的難題

「難題に直面した平凡な奴」ジャンルの有名作品は『ダイ・ハード』、『ターミネーター』、『タイタニック』、『シンドラーのリスト』などであり、私の見立てでは『ゆるキャン△』もここに属することを下記エントリーで紹介した。

「難題に直面した平凡な奴」の基本構成は、

  • 無垢で平凡な主人公が望まないトラブルに巻き込まれる

  • そのトラブルは前触れもなく突然起きる

  • 渦中の主人公は生きるか死ぬかの試練に直面する

である。
『ゾンビランドサガ』の主人公はアイドルにあこがれる普通の女子高生・源さくらだが、彼女が巻き込まれる難題はおよそ他に類を見ない強烈な過酷さだ。

源さくら・唐津市ふるさと会館アルピノにて

主なところを列挙すると、

  1. 物語開始から1分後に死亡する

  2. ゾンビになる

  3. 生前の記憶が失われている

  4. 芸能活動は全くの素人だが、伝説の少女(?)たちと共にアイドル活動を始めなければならない

  5. デスメタルバンドに混ざって、いきなりライブをやらされる

  6. 最終目標は佐賀を救うこと

本来、主人公は生きるか死ぬかの試練に直面するはずが、いきなり死んでしまう展開はあまりにも斬新だ。しかし、ゾンビとなって死を克服し、「死んでも夢はかなえられる!」「朽ち果てても進め!」と語る主人公のけなげな姿勢に視聴者は共感するのだ。

重要な価値要素は「社会との交流」

主人公とその仲間たちはご当地アイドルとしての活動を通じて佐賀を救うことが最終目標だ。あまりにも困難で無謀な目標だが、それが彼女たちが生きる意味だ。
実現のためにはゾンビィばれを防ぎつつ、イベントやライブで地域の人々と交流し、ファンを増やさなければならない。これが物語での重要なテーマであり、作中でのプラスの価値観として描かれている。図示すると下記のようになる。

例えば、アニメシーズン1の第3話で唐津駅前でゲリラライブを行ったが、お粗末なパフォーマンスで全く人を集められず、ファンを増やす効果を生み出せなかった。これは「相反」の状態だ。

一人だけ楽しんでくれた少女・アニメシーズン1の第3話より

また、第4話では宿泊先のホテルでゾンビィばれすれすれの状態となり、目撃者がパニックになって逃げまわるシーンがある。こうした地域住民や社会からの拒絶が「対極」の価値観となる。

逃げ惑う目撃者・アニメシーズン1の第4話より

そして、作品中では生じなかったが、ゾンビィばれしてしまった結果、地域住民からの襲撃を受けて殺害(破壊?)されてしまうような状態が「マイナス中のマイナス」にあたるだろう。
この展開はアニメシーズン2のサブプロットに用いられている。グループメンバーがかつての人気アイドルに似すぎていることに気づいた地元記者が核心をつかみ、「事実を公表する!」とプロデューサーに迫るシーンなどがそれだ。

幸いなことに、物語の中ではこうしたマイナス中のマイナスに陥ることなく、主人公と仲間たちは社会との意義ある交流を積み重ねてきた。その成果はシーズン1・2ともに最終話のライブシーンにたっぷりと描かれている。

アニメシーズン1・第12話より

これはありきたりなハッピーエンドではない。壮絶な難題に直面しながらもあきらめることなく解決に挑み続け、それを成し遂げた主人公と仲間たちのたゆまぬ努力の成果なのだ。
その過程での登場人物たちの悩み、苦しみ、葛藤を目の当たりにしてきた視聴者だからこそ、最終話の展開に心から感動できるのだと思う。

『ゾンビランドサガ』を見てない人がこのブログをここまで読むとは思えないが、それでも未視聴の人がいれば、ぜひ鑑賞することをおすすめする。努力の大切さを教えてくれる最良の作品がここにある。

佐賀県・唐津市にて


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