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視覚障害者の方の住まいのリサーチを基に、テーブルを作りました!obon table/Table for the Blind by the Blind

はじめまして、平井百香です。私は建築の分野で、視覚障害者の方々の空間認知について研究しています。

もともと自分の祖父が視覚障害者だったことをきっかけに、「見えない」世界に興味を持っていました。建築を学んだ大学時代に「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」と出会ったことで、目を使わなくても感じ取れる空間の豊かさに気付かされ、現在の自分のテーマへと繋がっています。

修士設計では視覚障害を持つ友人たちと対話を重ねながら、彼らの空間認知を設計手法に展開して亡き祖父のための住宅を設計し、「トウキョウ建築コレクション 全国修士設計展2013」でグランプリを受賞しました。こちらはまた別記事でご紹介できたらと思います!

その後も引き続き、視覚障害者の方の住まいのリサーチなどをさせて頂いています。

今回のテーブルプロジェクトは、2020.4月に視覚障害者・盲重複障害者のための事業所を立ち上げた「NPO法人みのり」代表の加藤木さんから、事業所で使う家具のデザインについて相談頂いたことをきっかけにスタートしました。

住まいのリサーチを通して発見した、視覚障害者の方々の生活の工夫をもとに、テーブルの基本デザインを担当させて頂きました!

視覚障害者の方々はテーブル上を手探りで把握するため、物の位置を見失わないように、お盆の上に食器をまとめて食事をとる工夫をしていました。

図1

図2

視覚障害者が認識できるのは、手の届く範囲が全て。手の動きと連動して、周囲を把握していきます。

机の上を一覧できないため、お盆を使って領域を分かりやすくすることで、空間の手がかりをつくり利便性を高めているのです。

ただし、お盆は毎回位置が異なり、触るたびに動いてしまう不安定さがあります。そこで、視覚障害者の工夫に着想を得つつ、お盆のような「足し算」のデザインではなく、「引き算」のデザインとすることで、よりシンプルで使いやすいデザインを実現しました。

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テーブル天板にクレーター状の凹みをつけ、物の配置を固定し、把握しやすいデザインとしています。

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ものを置くと、こんな感じです!

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安心して撫でられるように、尖ったエッジをなくし、凹みの断面はペーパーウッドのカラフルな色彩を活かして、見える人にも楽しいデザインとしました。素材のセレクトや構法の検討、実際の製作は、細田真之介さんに担当して頂きました。

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天板を裏返せば、フラットな机としても使用できます。

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事業所での色々な作業がしやすいように、様々な身体動作に合わせた寸法体系とすることで、動作の負荷を軽減しています。こちらは人間工学的な寸法を参照しつつ、大学の後輩と一緒に実際のサイズで実験をしながら設計しました。

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実際に視覚障害者の方に使って頂いたところ、

「位置が把握しやすいだけでなく、物が倒れにくく、テーブルから落ちにくい」

「凹みに触れてから物に到達するので、『もうすぐ物に触れる』という心の準備ができる」

「穴の大きさや位置がちょうど良く、使いやすい」

「大きなドットが可愛い!お花みたい!」

「麻痺がある方も、凹みに手を引っかけて身体を支持しやすいのでは」

という、嬉しいご意見を頂くことができました!

図5

特に、「麻痺の方にも使いやすいのでは」というご指摘は、次の展開を考えさせられる新たな発見でした。

この「obon table」は、「視覚障害者による」「視覚障害者のための」テーブル制作プロジェクト「Table for the Blind by the Blind」シリーズの第1弾です。

第2弾の、弱視の方向けの書見台「Lectern table」も、すでに事業所にて使用頂いています。

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今後も、リサーチとデザインを繋げる活動をしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします!

obon table / Table for the Blind by the Blind

リサーチ&基本デザイン:平井百香(東北大学大学院)

プロダクトデザイン:細田真之介(SOF http://sof.boo.jp/)

プロデュース:加藤木貢児(NPO法人みのり http://ageo-minori.or.jp/)


追記

・ウッドデザイン賞2020

・ソーシャル・プロダクツアワード2021 を受賞しました!

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