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キム・イファン他『蒸気駆動の男 朝鮮王朝スチームパンク年代記』

韓ドラ沼にドはまり中のAとBの会話。

A:「ムービング」全20話観了!  韓ドラますますスケールデカくなってきた。超能力者同士のバトル、とんでもない迫力。映画『エクストリーム・ジョブ』でのチキン屋に定評があったせいか、リュ・スンリョンはここでもチキン屋でさ。もう絶対彼はリアルでもチキン屋やると思う。

B:完全に次のシーズンを見越した終わり方をしたよね。こうしてうちらはまた数年後まで生きのびなくてはいけなくなった。

A:で、Bは次に何を開封(沼語で新しくドラマを見始めること)する?

B:うーん、韓国で放映中のドラマで面白そうなものはあるのだけど、うちらが見られるようになるまで半年は待たされそうだよ。

A: Bってさ、韓国の現代ドラマだけでなく、時代劇ドラマも好きだったよね。

B:むしろ、私は時代劇の方が好き。

A:じゃあ、ドラマは少し置いといて、本を読んでみない?

B:え、私、K文学なら話題になったものはだいたい読んでるよ。

A:『蒸気駆動の男 朝鮮王朝スチームパンク年代記』って、もう読んだ?

B:ううん、それはまだ。でも時代小説はちょっと……。パク・キョンニ『土地』、途中で挫折してしまったんだよね。

A:あれは相当長い話だもんね(『完全版土地』は全20巻の予定)。でも『蒸気駆動の男』は五人の気鋭のSF作家による短編のアンソロジーなんだ。作家ごとに違ったテーストを味わえるから飽きることがないと思うよ。

B:でもSFってあまり読んだことないんだよね。

A:スチームパンクを謳っているけど、要は歴史改変時代劇、うちらの用語ではフュージョン時代劇。李氏朝鮮時代の始まりとともに、蒸気機関がもたらされ、蒸気機関とともに歴史が進んでいくという世界線を描いているんだ。SFは設定を理解するのが難しいと言われるけど、『蒸気駆動の男』でネックとなるのがむしろ朝鮮時代の歴史知識で、SF的な設定は「蒸気機関がある」だけ理解していればなんとかなる。ほら、うちら朝鮮時代の歴史なら、もうドラマでみっちり叩き込まれているじゃん。ドラマだけじゃもったいないと思わない? その知識のパスポートは小説の世界でも通用するわけよ。
例えば、「チャングムの誓い」の王様で有名な中宗が亡くなった時、廟号を「中祖」にするか「中宗」にするか紛糾する様を描いたチョン・チョンソプ「蒸気の獄」では、その昔、中宗が信頼を寄せていた趙光祖(チョン・グァンジョ)の失脚を、彼が世の中に蒸気を広めようとしたことが理由であるとしていて、趙光祖の背後に汽機人(蒸気で動く機械)都老(トロ)という謎の人物が浮かび上がる。そして、イ・ソヨン「知申事の蒸気」で、この都老は、250年後の正祖の治世に、洪国栄(ホン・グギョン)として歴史の表舞台に再度現れる。

B:趙光祖! 洪国栄! 知ってる! この前見たドラマ「赤い袖先」で洪国栄をカン・フンが演じてたよね。私、結構好きなキャラ!

A:私は「イサン」でハン・サンジンが演じた、ちょっと癖の強い洪国栄のイメージが強いかなー。でも、「知申事の蒸気」の彼は汽機人で、心は今のAIのように学習して身に着けたものだから、正祖の側室となった幼い妹の死も、正祖との間に築いたであろう信頼関係にも、人としての感情が動かない。この世界線での洪国栄は汽機人の都老だけど、うちらの中ではハン・サンジンだし、カン・フンなわけじゃん。読んでいると、その姿が重なって悲しいときに悲しめない彼らに、もう涙腺崩壊ですよ。

B:つまり、小説の世界に、韓ドラの世界を重ねて、あの登場人物が、この世界線では、こうなっちゃっているんだという、うちら独自の楽しみ方があると?

A:そうなんだよ。韓ドラ鑑賞沼だけで、うちらが育んできた朝鮮王朝に対する無駄に厚い知識を持て余すのではなく、それをもっていれば二倍楽しめちゃうというのがこの『蒸気駆動の男 朝鮮王朝スチームパンク年代記』なんだよ。

B:なるほど! それ、めちゃ気になってきた。


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