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「ここに泊まって下さい、自分はよそに泊まりますから」と簡素な部屋でサブちゃんは言った。


先ほどある人のTwitterに、

『ウチに来たらいいよ』と言ってくれる人がいることは大いなる救い

というような事が書いてあって、そのセリフを言う側の自分を想像してみた。
そして「『ウチに来たらいいよ』って言いたいけど、言えないな」とすぐに結論してしまった。


私にとっての永遠の憧れの部屋は「前略おふくろ様」という古いドラマで主人公のサブの住んでいた4畳半の部屋だ。

4畳半一間なのに、サブはよくそこに人を招いていた。
あるいは、押しかけられていた。

風呂ナシトイレ共同4畳半木造モルタル造りというサブのそのアパートは、ドラマ放映時の昭和50年代の東京で最もありふれた住宅様式だったように思うが、サブの部屋の質素さは当時においても新鮮だった。

今なら半透明プラスチックの収納ケースにあたるところの御茶箱、それと長火鉢。サブの部屋の家具と言えばそれくらいなのだった。


長火鉢にかかっているヤカンのお湯で手際よくお茶を煎れて、客人に「どうぞ」と湯飲みを差し出す若き日の萩原健一は、

『ウチに来たらいいよ』と言ってくれる人

のように見えた。
ドラマ上の筋立てでその時の相手が招かれざる客だったとしても、ショーケンは端からその人を受け入れるために対峙しているようにも見えるのだった。

はた迷惑な言動を繰り返す桃井かおり演じるいとこの海ちゃんにも、

「ここに泊まっていって下さい、自分はどこかよそに泊まりますから」

とサブちゃんは言うのだ。


なぜ私が「『ウチに来たらいいよ』って言いたいけど、言えないな」と即座に思ってしまうかと言えば、私の部屋が人に見られたくないもので溢れているからだ。

大量の本と雑誌と書類。それを人に見られたくないと、思ってしまう。

部屋に上がった人が「たくさん本がありますねぇ」くらいの感想しか言わないならいいのだが、大抵の人は隅から隅まで背表紙を見て、何かしら一家言語りだすから、イヤんなっちゃうのだ。
私ってば、いい歳をして自意識が肥大しているのだ。

本当は、本を全部始末して、サブちゃんのような部屋に住み、気軽に人を招けるようでありたいと思っているのだが。


そんな私の癖に、ひとの家に上がらせてもらう系のテレビ番組で、家への訪問をかたくなに断る人にはがっがりする。
断る人続出の町だと(なんだか嫌な町だなぁ)などと勝手なことを思ってしまう。


別れた妻はそういう番組を見るにつけ「わたしなら絶対に断らないけどな」と言っていたが、そんな元妻を招くところから、人を部屋に呼ぶ訓練をしようかと思う。


明日になれば、きっとそうは思ってないのだろうけれど。




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