見出し画像

第二章 鮭

「産卵する鮭やん」
子供達の準備をした後出勤する。電車に揺られ阪急梅田で地下鉄御堂筋線に乗り換えるのだ。その人の流れはまるで川の様でいつもの様に私も流れて行く。
 そんな中でも毎朝5人くらいは逆に歩いてるもので、その人達はとても歩き辛そう。すごい人の川の中を必死で避けながら目的地の方に向かっている。私は心の中で「産卵する鮭やん」と思っている。こんな出勤ラッシュ時にどこに行くのだろうなとど考える余裕はなく只々私もその人を避けるのだ。
 自分が会社員で職があって、毎日熟すべき仕事があるんだと思う瞬間。でもこの時点で私の充電はほぼ0に等しい。それでも昨今の厳しい社会情勢のなか働き場所があるだけでも幸せと思おう!などと真っ当な事を必死で頭と心に叩き込みながら会社に向かう。
 もうこの会社には15年ほど勤めている。三回の妊娠出産で休みはしたものの10年以上は在籍している。なんでこんなに続けられているのかはたぶん、そこまでハードでなく人間関係も良好だから。あとはすごく大好きな人がいて、その人と切れたくなかった。その人は親会社の私より五個年上だった。いつもやる気に満ちてなんでも知ってて、入社間もない私にはとても新鮮ですぐに好きになった。でも、その人は既に結婚し、子供もいる人。つまりはそういうことなのだ。私も川に逆流する産卵する鮭だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?