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第三章 目を瞑る

「目を瞑って、忘れて」
その頃の私はルームシェアをしていた。なんかそんなふうにいうとおしゃれだか、ただただ家賃を削りたかっただけかもしれない。そんな私達の家にも彼はよく遊びに来た。本と自由を愛する彼は真夜中に来る事も、ふらっと来て2〜3泊する事もあった。楽しい事にしか目を向けず、嫌な事には目を瞑る。お酒が好きで女の子が好きで自分が好きで。今思ったら本当に面白い人だった。
 会社員で既婚者なのになんでこんな自由なんだ?と思う事もあったけどそーでもいいよね。となんか憧れていた。好きだった。とても。彼は私の事を「すき」くらい。そう、漢字にするみたいな雰囲気ではなく、まるで子供が初めて言うかんじの「すき」という感じ。
 その日は彼と彼の同僚の3人で飲みに行った。同僚はとても困った顔をしていて、とても可笑しかった。帰り道が同じその同僚に一緒に帰ろうとなんだかカマをかけられる感じで聞かれた。どうせ今夜は帰らないんだろ?という感じで。なんでこの人を同席させたんだろうと今でも思う。
 悪い事をしている感覚はなかった。でも彼と遊んだ日、例えば一人でいる時はよく目を瞑って、忘れてしまおうと考えていた。今でも逢いたいと思う。

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