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初めから君に恋してる二

二 ピアノが怖い
高校生は、のんびりした春休みを過ごしていると思う人もいるだろうけれど、それは違う。ポラロイドカメラを手に入れた次の日から、私はしっかり高校オケ部でしごかれていた。
おかしいよね。自分でもそう思う。
なぜ高校ニ年生の春休みからオケ部に入部となったのか。
実は、春休みに入ってすぐのこと。オケ部の副部長をしている近藤先輩から電話があったのだ。
近藤先輩は、以前お母さんのピアノ教室に通っていたのだ。部長の川中先輩も副部長の近藤先輩も私と同じ中学だったので、当然ピアノを弾いている私のことは知っていた。
「陽葵ちゃん、いまさ、部活入ってる?」
近藤先輩が可愛らしい声で電話をくれた。
久しぶりに聞く先輩の声に心が弾む。昔は仲良かったのだ。中学校で学年が違い、疎遠になったのだけど、先輩がわざわざ電話をくれるなんて……。なんか危険な予感がする。
「いえ、別に入っていませんけど」
警戒しながら返事をする。
「え、そう? 入ってない?」
嬉しそうな近藤先輩の声。
怪しい……。何かがある? 先輩って、何かある時って、すっごくかわいい声で言うんだよね。
「はい」
テンション低めの声で、応じる。
「あのさ……、よかったらでいいんだけど、人助けだと思って、ちょっとオケ部に手伝いに来てくれないかな?」
近藤先輩が言いづらそうにお願いしてきた。
キタァ。
近藤先輩のお願いだ。今度、高校ニ年生だし、いまさら部活っていうのもなあ。
正直、面倒な気持ちが湧き上がる。お断りしてもいいかな。
これって、まさか、オケ部のスカウトってこと?
びっくり。なんで今ごろ?
「はあ……。でも、もう高校二年生ですし、ちょっとやめておきます」
思わず正直なところを返答する。
「実はさ、ピアノ弾ける子がいなくって、困ってるの」
先輩が悲しそうな声を出す。
「先輩、弾けるじゃないですか」
部長の川中先輩も、副部長の近藤先輩もピアノがかなり上手い。ピアノコンクールにもでていたはずだ。
「弾けるけど、もう高校三年だし。オケ部の、ピアノグループの存続が危ういの。誰もいないのよ。とにかく、助けると思って、ね? お願い!」
「えええ」
私が渋い声を上げる。
「ほんとに、ほんとにお願い。陽葵はたぶんピアノグループになるから」
私は、昔っから近藤先輩に弱い。
近藤先輩は、華奢で、目が大きくて、かわいらしい。それだけでも反則なのに、何かあるたびに可愛い声で上目遣いをするのだ。
近藤先輩のピアノは、昔からスローなテンポを得意としていて、いわゆる感情を乗せるのが上手いと言われるタイプ。
165センチ、黒髪ロングのストレートな私とは、見た目もピアノも正反対のタイプで……、ひそかに私は近藤先輩に憧れていたりもする。
近藤先輩には、春休みもあって、しばらく会っていなかったけれど、声の感じで、いつもの近藤先輩の表情が目の前に浮かんできた。
「……。わかりました」
ため息をつきながら了承する。
負けた……。断るのは所詮無理。憧れの近藤先輩からの頼みだもの。
「ありがとう!」
近藤先輩は嬉しそうな声を上げた。
どうせ春休みは暇だし、部活も入ってないしね。
もう桜も見に行ったから、することもない。ああ、さようなら、私の、残りの春休み。
ポラロイドカメラで素敵な写真も撮れたし、まあ、いいか。家で腐っているのもよくない。青春の無駄遣いってやつなんだろう。
恨めしい気持ち半分、オケ部に期待半分。いい経験ができるかもしれない。
私は気持ちを切り替えることにした。
実は、家でいまピアノの練習をしたくないというのもある。お母さんやコンクールの審査員に「心を開く」という課題を突き付けられていたのだが、どうしてもクリアできない。言われたことができない自分が欠陥品のような気がして、ピアノの前に座るのがつらいのだ。
何度もアドバイスをもらっているのだけど、どうしても感情を表にだすことができなかった。こういうのは性格もあるのだろう。もしかしてピアノに向かないのかもしれない。
もしかして、オケ部に入るの、いいかもしれない。
何か私の中で変わるかもしれない。
そんな気がした。

次の日。私は朝早くから制服に着替え、階下へ降りていく。
「いってきます!」
「どこへ? まだ春休みだよね?」
お母さんが私の制服姿に驚いている。
「高校の、オーケストラ部だよ」
私は明るく報告する。心配かけたくないから、元気よく返事をしてみた。
「へ? 陽葵、オケ部にはいるの?」
お母さんは目を丸くした。
「ピアノは? コンクールはどうするの? 今さらオケ部とかやめなさい」って言われるかなと心配したけれど、お母さんはニコニコしている。機嫌は良さそうだ。
「近藤先輩から電話きて、オケ部のピアノにスカウトされたの」
「近藤さん? 近藤結花ちゃん? 元気だった? そう、いいわね、オケ部、しっかり楽しんで!」
お母さんは嬉しそうに目を輝かせた。

「失礼します」
恐る恐る音楽室の扉を開けると、いっせいに中の人たちが私に視線が寄越す。
早めに来たつもりだったが、すでに部員たちは集まっていた。ピアノの席は空席で、川中先輩が教壇に立って、曲の指示をしている。近藤先輩は、各グループ内の調整を手伝っているようだ。
本当にピアノに人がいない。オケ部のピアノグループは、人数が足りてないんだ。びっくりした。
ピアノ人口は多いから、てっきり近藤先輩が大げさに言っているのかもと思っていた。
近藤先輩いわく、ピアノグループは、川中先輩と近藤先輩を除くと、私一人になる。
一人か。ちょっと寂しいかも。こういったとき、ピアノは孤独なんだよねと思う。
「あ、きたよ」
部員たちがざわめいた。
「かわいそうに、川中部長の犠牲者か」
「近藤の後輩らしいよ」
「あの、有名な?」
話題にされたのが分かり、私の体温が上がった。心臓が大きく鼓動する。
川中先輩も近藤先輩も、かなりピアノが弾けるせいか、要求するレベルが高いらしく、ピアノグループは、練習も求められるものも、一番ハードと、オケ部の中でも噂があるみたい。
それで、ピアノが弾けても、違う楽器にする人がほとんどらしい。
そ、そんなに、練習がつらいのかな。もしかして、オケ部の中でピアノグループが嫌われているとか?
ドキドキしながら、ペコリとお辞儀をする。
近藤先輩が私に気がついて、ドアまで小走りで来てくれた。
「こちら、四月から高校ニ年になる杉浦陽葵ちゃん。知ってる人もいるかと思うけど、あの、杉浦陽葵をスカウトしてきました。川中部長と私と同じ中学校出身。ピアノグループに推薦します。私の可愛い妹みたいなものなので、優しくしてあげてください」
近藤先輩が私を紹介する。
「優しくしてあげて」とか、「妹」とか、「あの、」とか、近藤先輩の言葉は突っ込みどころが満載で、私は思わず眉根を寄せる。
「じゃ、自己紹介がわりに、超絶技巧練習曲 第5番「鬼火」を弾いて?」
はあ?
面食らった私は瞬きをする。しかも、あまりうまく弾けてない、暗礁に乗り上げている曲だ。ええ?
近藤先輩の顔を見ると、満面の笑みだ。
な、なんて、無茶ぶり。いきなり?
この曲なら、一応は弾ける。納得いく出来ではないけど。近藤先輩、突然ピアノを弾けとか、部員の前で無茶振りしないでください!
あー、変な汗でてくる。
ええええ! 本当に弾かないとだめですか?
もう一度近藤先輩を見ると、大きく頷いた。
オケ部の皆さんから、パラパラと拍手がある。
もう、逃げられない。泣きたくなる気持ちを抑えて、私は数回深呼吸する。
試されている気がする。
もう、仕方ない。やるしかない。やるしかないんだ。
背中からも脇の下からも冷や汗が出てくるのを感じた。
弾く。私は、弾く。弾ける。
気持ちを静かに保って、ピアノの前に座る。それから、ゆっくりと、鍵盤を確認する。
目を軽く伏せ、空気を吸って、吐いて……、吸って、吐いて……と自分の気持ちが落ち着くように呼吸する。気持ちが整うまで、数秒。
鍵盤に指を滑らせ、ピアノを弾き始めた。
楽譜通りには弾けている。
曲が終わると同時に、オケ部のみんながワーッと歓迎とばかりに拍手と、足をバタバタと床に打ちつけた。
うーん、ピアノグループ、決定かな。無事、弾けてよかったけど。
思わず苦笑いする。
ピアノグループに入るのが嫌だったわけではない、だけど、せっかくのオケ部だし、違う楽器にしてもいいかもなとも、考えていた。
はあ。でも、近藤先輩には敵わない。よそのグループにいかないよう、先を読まれていたようだ。
オケ部の満場一致で、私はピアノグループに入ることになった。
小さいころから毎日ピアノの練習はしていたし、今でも、家で四~五時間ほど練習する。特技はピアノだから、ピアノグループで確かによかったんだけどね。

しばらくすると、部活のメンバーの顔も、各々が所属するグループもだいたいわかるようになった。練習は厳しいけれど、和気あいあいとしていて、居心地がいい。
ピアノグループは、実質、私しかいないので、ピアノの練習はというと、譜面をもらって、隣の第2音楽室で毎日一人で練習だ。管楽器グループの音出しなどの手伝い以外、結局、孤独にピアノと向き合うことになった。
「杉浦、オケ部の練習曲だけだと暇だろう? オケ部の過去の曲を弾いて勉強していてもいいが、ピアノの今の課題曲とか、練習している曲とかも、持ってきて、弾いても構わないぞ」
川中先輩からピアノの練習曲の演奏可という許可が出た。
「そうね、全体で合わせるときや音出しが終わると、基本的に陽葵ちゃん一人で練習になっちゃうものね。私たちも、最後にはここに戻って、陽葵ちゃんのピアノを見るつもりだけど、それまで暇だもの。何か弾くもの、持ってきてね」
近藤先輩もにこにこと笑っていた。
家で練習はしたくないけれど、練習しないといけない曲が数曲ある。感情を乗せて弾くという曲、ドビュッシーの「水の反映」と、指使いや速さを求める、リストの超絶技巧練習曲 第5番「鬼火」だ。「鬼火」はこの前みんなの前で弾かされた曲だけど。
みんながパート練習している間、ぽっかり空いた時間は、この2曲を練習しようか。
本当は嫌だ。できれば、逃げたい。特にドビュッシーの「水の反映」を弾きたくない。
でも、逃げてどうなるわけじゃないしね。はあ、やるしかないか。
学校にいる時なら諦めて、未来の私も練習するかもしれない。
川中先輩と近藤先輩の言葉に、私はこくりとうなずいた。

明日は始業式だ。
毎日オケ部で練習しているが、ニ年生がピアノグループにいないってあたりがやはり寂しい。
他のグループを手伝った後は、個人練習になるので、私はひとり第二音楽室へ移動する。
今、オケ部で練習しているのは、秋の定期演奏会用の曲で、ジェームズ・バーンズの交響曲第三番だ。オーケストラでは、ピアノが常に用いられるわけではない。しかし、この曲は、ピアノがオーケストラと一緒に演奏できるので、うれしかった。
定期演奏会では、他にも数曲予定していると川中先輩が言っていた。徐々に仕上げていって、弾けるようになったら、新曲を追加、またそれを仕上げて……といった練習スタイルらしい。
私は新しい譜面を読むのは好きなので、新曲が楽しみ。音の確認をして、右手でメロディーラインを追っていく。左手の確認をして……。
バーンズの曲の練習が一通り済むと、時間ができてしまった。
隙間時間をどう過ごそう?
悩んだ末、カバンからポラロイドカメラで撮った写真を取り出して、譜面台に置いた。
見ていると、心が落ち着くというか。がんばろうって気持ちになる。やっぱり、この写真、好きだわ。
写真の表面をそっと指で触る。
山崎川の桜の花は、もうほとんど散ってしまっただろうな。彼は、また、走っているんだろうか。
ふう、と小さく息を吐く。
それから、仕方なくカバンから今個人で練習している曲の楽譜を取り出した。
やるしかない。練習しないといけない。苦手ならもっと練習が必要なんだけど、いやなんだよねえ。
取り出したのは、レッスンの課題曲「ドビュッシーの水の反映」だ。スローテンポで、キラキラした水面を表現しないといけない曲だ。
キラキラだよ? キラキラ。
ピアノの音で、水の揺らめきってどう表すんだろう。サラサラと流れ、ゴウォと落下する水音。
この曲は、トリプル・ピアノ、ピアニッシモ、ピアノ、メゾ・ピアノ、メゾ・フォルテ、フォルテ、フォルテシモと音量の幅が要求されていて、ただ、楽譜の強弱の指示通りに弾くだけでは、この曲の、水の煌めきのようなキラキラ感がだせない。
自分なりの表現方法を考えなければならない。憂鬱だった。
ドビュッシーの「水の反映」と言ったら、聴く人は、川のせせらぎや水面の光を思い浮かべ、それを期待して聴くよね。音で綺麗な景色を再現するって、むずかしくない?
大きなため息をついて、両手で楽譜通り鍵盤を押していく。
ここで、16分休符が入っているのは、なぜ? どう考える?
どうしたら、水の動きが表現できるんだろう。
1小節ごと、ピアノに向き合って、ゆっくり弾いてみる。何かが違う気がする。どこが違う? こうだろうか? 私の音色って何? 何が特徴なの?
試行錯誤を繰り返してしていたら、川中先輩と近藤先輩が音楽室に戻ってきた。
練習の見回りが終わったようだ。
私もバーンズの曲を見てもらおうと、慌てて楽譜を並べなおした。
「陽葵ちゃん、さっき弾いていた曲は、ドビュッシーの水の反映ね!」
近藤先輩の目が輝く。
「はい、そうです。私には、表現が難しいです」
泣き言をいうと、
「大丈夫よ、まだ弾き始めでしょ?」
近藤先輩が慰めてくれた。
「キラキラしている水面や、水の流れをどうやって表現するか、考えると頭が痛くなるんですよ」
私が正直に答えると、川中先輩が苦笑した。
「杉浦、考えなくていいんだぞ。深く考えなくていい」
「え?」
考えないという、意味が分からない。考えないと、弾けないと思うんだけど。
「陽葵ちゃんは、陽葵ちゃんの水のイメージを素直に表現すればいいってことだよね」
近藤先輩が解釈を伝えてくれたけど、私にはぜんぜん意味が分からなかった。
具体的にどう弾けばいいのだろうか。表現を深めるということが自然にできている二人には、こんな問題はないも同然なのかもしれなかった。
「陽葵ちゃんの、バーンズは、隣の音楽室でも聞こえていたから大丈夫よ。何か問題とか、わからないこととかある?」
近藤先輩がにっこりと笑顔を見せた。
「いえ、別にないです」
「よかった。このまま、ピアノパートを、最後まで通しで弾けるようにしてくれればいいわ」
近藤先輩が川中先輩に確認しながら、私に指示をする。
「はい、わかりました」
「陽葵ちゃんは、よく弾けるし、よく練習するから、こっちとしては安心できるわ」
近藤先輩と川中先輩がほほ笑んだ。
どうやら他のグループの見回りは疲れるらしい。いろいろな楽器の進捗状況を把握して、全楽器で合わせられるようにするという仕事は大変そうだった。
チューバやホルンの音が第一音楽室から外に漏れ聞こえてきた。まだまだ隣の音楽室ではグループ別練習が続いているのが分かった。
「川中先輩、明日の放課後練習は? 明日は、始業式ですけど」
「ああ、休みだ。休んでもいいぞ」
どこか偉そうに川中先輩の返答する様子が、ツボにはまったようで、近藤先輩が楽しそうにしている。
「ね? 川中、ふつうに全員部活は休みだよね?」
近藤先輩が嬉しそうに笑いかけると、川中先輩は近藤先輩を直視しないように私の方を向いた。
「よかったです。お休み、うれしいです」
「始業式だから、休みにしたよ。でも、どうしても、陽葵ちゃんが練習したいっていうなら、音楽室を借りて、放課後、練習しに来てもいいんだよ」
近藤先輩はいたずらっ子のように笑った。
「……遠慮しておきます。」
苦笑まじりにお断りする。明日は始業式の後、新しい教科書をもらう予定になっているし、荷物も多そうだ。それに、ちょっとくらい休みたい。
クラス替えもあるしね。一年生のクラスでは、あまり友だちができなかったけど、今度のクラスでは、ちゃんと友達が作りたい。
友達がいないと本当に寂しい。
おしゃべりもできないし、忘れ物したときやクラスの連絡を忘れた時も困る。悩み相談もできないから、一人で抱えなきゃいけない。友達と相互フォローって、すっごい大事だと思う。
「ああ、陽葵ちゃんは、高校ニ年生か。いいねえ。私なんか、高校三年生だよ。受験だよ。しかも、陽葵の髪の毛は、さらさらで、美人でスタイルもいいし、ああ、うらやましい」
近藤先輩はとりあえずほめてくれたらしい。
なぜだろう、ついで感があるからだろうか、嘘っぽいんですけど。小動物系の、目がクリッとして可愛い近藤先輩に言われても、お世辞にしか聞こえない。
「学年、髪の毛、スタイルは関係ないだろう」
川中先輩がつぶやいたが、近藤先輩は聞こえないふりだ。
近藤先輩も川中先輩も、明日は練習しなくていいと、あっさり身を引いてくれたので、休みが決定!
明日は、何をしよう。せっかくだし部屋の片付けもいいな。古い教科書とノートを片付けないと。ポラロイドカメラを飾る場所も作ろう。練習は、少しすればいいか。
それとも、また、散歩にいく?
ふと、山崎川が頭に浮かんだ。
それもいいかもしれない。
近藤先輩は、時計を確認し、全体を第一音楽室に集めた。それから全体練習を軽くして、解散になった。楽器の片づけがバタバタと始まる。自分の楽器の管理は自分でするのが基本だから、みんな手際がよくて、あっという間に人がいなくなっていく。
「明日は全生徒、早帰りだ。部活は休みだぞ。顧問のタイラッチも午後から会議があるって言ってたぞ。忘れるなよ」
川中先輩が最後念を押すように通達する。
私が部室を出ようとすると、
「杉浦! 休みでも、指はちゃんと動かしておけよ」
川中先輩の声が背中に聞こえた。
バレていた。苦笑した。

練習後、音楽室を出ると、ユニフォーム姿の男の子とすれ違う。
あれ? そのユニフォームって、うちの陸上部?
気晴らしなのかな。音楽を聴きに、三階の音楽室まで、陸上部の男の子が来てくれたんだろうか。
足を軽く引きずる彼に、なぜか山崎川の彼を思い重ねてしまった。
考えすぎ! たぶん、考えすぎだ。
あの写真が好きだからって、走る人すべてを彼と思ってしまうのかも。
我ながら思い込みが激しいなと、頭を横に振った。
新人なので、できるだけ残って、部活の片付けや掃除をしようしたのだけれど、「陽葵ちゃん、あとは、私たちでやっとくからいいよ」と近藤先輩が声をかけてくれた。
近藤先輩たちは、これから戸締りや部室のカギを返したり、雑用が残っているみたい。ご苦労様です。
「先帰っていいよ。遅くなっちゃうから」
近藤先輩が手を振った。
「はい」
私は二人に一礼して、学校を出た。
春休みだけれど、陸上部やテニス部は、まだ学校で練習をしていた。
一人で帰れないってわけじゃないけど、何となく寂しい。トラックではタイムを計っているようで、ホイッスルの音が聞こえた。
ま、こうなったら、一人も気楽でいいと考えよう。
前向きに、前向きにと自分に呪文をかけ、軽くため息をつくと、ふんわりとどこからか爽やかな沈丁花の匂いがした。春だなと頬がほころんだ。 「あ! 赤になっちゃった」
渡ろうとした直前信号が変わってしまった。ついていない。
横断歩道の前で立ち止まってぼーっとしていたら、後ろからベビーカーを押しているお母さんが私の隣に並んだ。女性はカバンの中からスマホを取り出そうとしていた。
風に乗って沈丁花の花の香りが強くなる。爽やかな、いい匂い。
風向きのせいかな? 近くで咲いているのかもしれない。どこで咲いているのかな?
信号の向こう側の家の植え込みに白い花が見えた。あれだわ、きっと。沈丁花の植え込みを見つけた。春は花がたくさん咲くので一番好きな季節だ。
早く信号が変わらないかな。
そろそろ山崎川の八重桜が咲いてる頃だから、八重桜を見に行きたいな。一重の桜が散り始めるころ、八重桜がひっそりと盛りになる。色の濃いピンク色は一重の桜とはまた違った華やかさがあるが、本数がすくないんだよね。
それに、もしかしたら、山崎川のランナーの彼がいるかもしれないと思っていたら、視界の端で、ベビーカーが動き出していた。
ベビーカー? えええ? まずい!
思わずベビーカーを止める。慌てた拍子に右手の小指をガードレールにぶつけてしまった。
「ありがとうございます! 本当にありがとう。この子の恩人です」
赤ちゃんのお母さんはお礼を言う。
「無事でよかったです」
私は顔を引き攣らせた。
痛い。右手の小指が痛い。
家に帰る途中も、痛みは全然引かず、右手の小指がどんどん腫れていく。
痛い、痛い、痛い。
結局、家に帰ってから、整形外科を受診した。
お医者さんの見立てでは、小指の第二関節にヒビが入ったらしい。
生まれて初めてヒビが入りました。結構、痛いものなんだね。
お医者さんは「全治3週間。無理しないでね」と言って、小指用のギブスを作ってくれた。
オケ部の定期演奏会まではまだまだ時間はあるし、ピアノのコンクールも今のところ出場予定はない。幸いなことに誰にも迷惑をかけずに治療ができそうだ。
それにこの怪我のせいで、しばらくの間、家でのピアノの練習も、本気ではできないだろう。
どんよりとした心の重りから解放された気がした。
夕飯の時に、お母さんに小指のヒビを話したら、「赤ちゃん無事でよかったねえ。でも、陽葵が大ケガでなくてよかった」と苦笑していた。
お母さんにピアノが弾けなくなるって絶対怒られると思っていたので、驚いた。ちょっと気が楽になった。
「人助けも大切だけど、今度からは自分がケガをしないように気をつけなさいね。それと、指は、ちゃんと治るまで動かしちゃだめよ」
ケガは仕方がないから、他の指だけでも練習しろって言われるかと思っていた。
「もちろん、小指なしで弾く指使いにして、練習するっていうなら、止めないけど……。陽葵、いい機会だから、オケ部とか、いろんなことをやってみたらいいんじゃない?」
お母さんは朗らかに話す。どうしてそんなにお母さんは機嫌がいいのか。きっとスランプ解消のきっかけになるとか考えているに違いない。お母さんと私のスランプを確認するのは不愉快なので、そこはスルーすることにした。
「いろんなことって?」
「そうよ。若いんだから……。青春よ、青春」
お母さんはニコニコしている。
「そうだな、赤ちゃんが無事でよかったじゃないか。陽葵、えらかったな。手はちゃんと治るから、大丈夫だからな。無理するなよ。たまにはピアノと距離をとるのも、いい経験だ」
お父さんもほめてくれた。
「さて、仕事してくるね」
お母さんは適当なメロディーを鼻で歌いながら、レッスン室へ入っていった。どうやら夜のレッスンを予約している生徒さんがもう来ているみたい。
お母さん、もっとねちねち説教するって思ったのになあ。逆にいろんなことをしてみなさいって、言ってくれた。
お父さんとお母さんの言葉を反芻する。
いろんなことかぁ。何しよう。
自分の部屋のクローゼットを開ける。制服を脱ごうとするが、ギブスでカバーされている小指は、重くて、扱いづらかった。

1学期が始まった。2年生の新クラスには、知り合いも顔見知りもいなかった。クラスの中では、おしゃべりしている人たちもいる。
がーん。どうしよう。今年もひとりぼっちかも。自分の周りを見ると、誰も話しかけてくれそうにない。やだなあ。誰かと話せないかなあ。
思わず憂鬱になるが、そんな思いも一瞬の杞憂だった。
始業式前日、私が右手の小指をケガをしてからというもの、毎日のように朝練、昼練、放課後練習と、川中先輩か近藤先輩が私をオケ部に呼びに来る。
ケガをしていても、部活に出やすくなるようにって、気遣いなんだろうけど……。弾けない私は、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「おい、杉浦陽葵、暇なら音出し手伝え」
今朝もオケ部から呼び出しがかかった。
2年生の教室に3年のオケ部の部長が呼びに来るのだ。おそらく大変目立っていると思われる。おしゃべりしてくれるお友達もできないので、オケ部の呼び出しが助かっているともいえる。一人はいやだもの。
「杉浦さん、先輩が来てるよ」
陸上部のユニフォームを着た女の子が川中先輩を廊下で対応して、窓際の席でカバンの整理をしていた私に声をかけてくれた。
陸上部も朝練があるらしく、部活用のかばんを手に提げて、急いでいるようだった。
「杉浦さんも朝練ファイト!」
だれだっけ、近くに座っている子なんだけど。ファイトって言ってくれた。なんて爽やかな激励だ。
「あ、ありがとう」
咄嗟にお礼を言うと、彼女は手を振りながら、手提げの他にジャージの上着を持って駆けて行く。彼女も部活なんだな。
「おい、杉浦陽葵、早くしろ。急げ」
「……はい」
川中先輩にフルネームで呼ばれ、私も慌てることになった。
うちの教室にとっては、すでに毎度の光景で、部長がまた来てるくらいにしか思われてないみたい。
朝練のある部活が多いようで、まだ始業式前だというのに、教室にカバンが起きっぱなしになっている机がの半分くらいある。
私は急いで先輩といっしょに音楽室へ向かった。
川中先輩は背が高く、脚が長いせいか、だんだん離れていってしまう。朝練の時間まで、あと数分だ。川中先輩も急いでいるんだろう。私ももっと急がないと。
川中先輩はメガネの似合うクールな出で立ちから一部の女子から人気らしい。私を呼びに来てくれるのはありがたいのだけど、昼休みや放課後、2年生の廊下を歩いてくるだけで女子たちがざわめいていた。
冷たい眼差しが素敵とか言われているらしいが、私には怖い人にしか思えない。とりあえず、入部してから私は怒られたことはないけれどね。さぼったり、努力をしない人には恐ろしいと言われている。
川中先輩のすごいところは、バイオリンとピアノが上手いところだ。将来、指揮者を目指しているらしく、よくオーボエや打楽器などいろんなグループにも入っていって、楽器を弾いているみたい。楽器オタクである。音楽好きにもいろいろあるね。
私はピアノだけでいっぱいいっぱいなのに、そのバイタリティは感服ものだ。
小さい頃から自分はピアノを習っていたし、コンクールにも出場して入賞したこともあるから、ピアノは得意だって思っていたけれど。
オケ部のピアノグループに所属してから、そんなことないかもって思い始めている。バイオリンやフリートのグループでも、コンクールに出場経験のある人がオケ部に入部している。
そういう演奏者が集まる、うちのオケ部は、全国でもトロフィーをもらうくらい優秀。中学からうちの高校のオケ部を目指す人も多い。
ちなみに、近藤先輩もモテている。近藤先輩がでるコンサートや定期演奏会の最前列には、男子ファンが並ぶらしい。わかるような気がする。ピアノは上手いし、小柄で細くて、顔も可愛いものね。
オケ部は、年にニ回定期演奏会を開いていて、親しみやすいオケ部をモットーに、クラシックからポップス、流行りの曲を披露しているらしい。学校の生徒や親、OB、OGたちも、演奏会に来てくれるんだって。
「川中先輩、速すぎ。待ってください」という心の声を出さないように、一生懸命、川中先輩の後ろを移動するが、まったく追いつかない。息が切れてきた。
「おい、大丈夫か」
川中先輩は立ち止まって、くるりと振り向いた。あら、待っていてくれたみたい。
「俺が歩くのが早くっていつも怒られるんだよな。すまん」
「いえいえ、先輩のせいじゃないです」
私はあわてて謝り返した。
「あれ、だれ? なんで川中くんと話してるの?」
「オケ部の新入部員。ニ年らしいよ」
すれ違う女子生徒のささやく声が聞こえた。三年生だ。制服のラインが一本多い。
注目されているのが分かり、耳が赤くなっていくのを感じた。
私のことはそっとしておいてください。川中先輩だけ見てください。川中先輩とは何でもないですから。私のことは、気にしないでください。
女子生徒たちが、川中先輩のいる渡り廊下に熱い視線を送っているのが分かり、私はうつむいた。
「川中、私も行くから、ちょっと待ってて!」
近藤先輩がひょいと教室から顔を出した。
「おはよう、陽葵ちゃん」
「おはようございます」
「ちょっと、川中、歩くの早い」
ちょこちょこと走る近藤先輩が苦情を言う。
「早く歩けよ。待っててやるから」
川中先輩は、私には言わなかったことを、近藤先輩に遠慮なく要求した。
あれ? その空気感に近藤先輩と川中先輩の距離の近さを感じた。部長と副部長だから、仲がいいのかもしれない。
川中先輩は左腕の時計を見る。
「おい、急ぐぞ」
川中先輩は、近藤先輩を見て、ゆっくりと口角を上げてうなずいた。
「陽葵ちゃん、すこし急ぐよ」
近藤先輩が私に声をかけた。
がんばって、私も速足で追いかけます。
音楽室にやっとついた。ちょっと息切れがするので、呼吸を整える。私以外の荒い呼吸音が聞こえてくるので、隣を見たら、近藤先輩も隣で「ハアハア」言っていた。
私と二人で目を合わせて、苦笑する。
きょうは、まず、第一音楽室の管楽器の音出しの手伝いだ。すでにチューバの低い音が空気を震わせていた。
副部長の近藤先輩が「こっち来て。弾いていてね」と手をこまねいた。
私はあわててピアノの前に座る。
あれ? 川中先輩は?
川中先輩は、第一音楽室からもういなくなっていた。近藤先輩にここは任せて、弦楽器グループが練習している講堂を見に行ったみたい。見に行ったというのは、語弊がある……。正確には、弦楽器がさぼっていないか見回りに行っただな。
弦楽器グループの人たち、がんばって。
とりあえず、祈っておく。
さてと……。私もピアノの準備をする。
楽譜を譜面台に並べ、ヒビの入った右手の小指は使わないと自分に呪いをかける。使ってはいけないって意識をすると、意外に使わないものだ。小指なしの指使いもだいぶわかってきていた。
トランペット、ホルン、チューバと、それぞれのグループが集まってきた。
音出しのお手伝いも終わり、グループでの練習が始まった。これで、私の出番はしばらくはないはずだ。近藤先輩は各グループの様子を見守っている。
ピアノの練習のために私は一人、第二音楽室に戻ってきたが、なんとなくすぐに取り掛かる気がしない。ぼんやりと窓の外を眺めていた。
一学期が始まって数日が経つが、残念ながらいまだに仲良く話せる友だちがいない。
困ったなあ。自分から話しかければいいのでは? とは思うんだけど、うまくいかない。話そうにしても、朝練、昼練、放課後練習とあっては、なかなか深くも話せない。オケ部があるから寂しくないけれど、オケ部があるから友達ができない。なんともいえない状況だ。
友だちができたら、放課後に一緒に帰ったり、遊んだりしてみたいけど……。一斉にお友達を作ろうという期間から完全に出遅れちゃった感がある。
今年も、気がついたら、クラスの空気になっていたというのは、避けたい。
昼練があるから、昼ご飯もオケ部で食べているし。クラスの女の子とおしゃべりしたいし、きゃーきゃーと憧れの恋バナもしたい。ちなみに好きな人は今はいない。ああ、今年も無理なのかな。
右手を怪我をして、ピアノの練習をセーブしているから、すこしは暇になったのだけど、しゃべる人もいないなんて悲しすぎる。
現状はクラスの中で、ぼーっとしている時間が増えただけで、暇つぶしにスマホをいじるしかない。
心の支えは、ポラロイドカメラの写真だ。
見ていると頑張ろうって気になる。だから、毎日カバンに入れて持って歩いている。
そのまま写真を持っていたら、角の辺りが傷んできたので、硬質ケースに入れてみた。
隣の教室からは、管楽器の音が響いてくる。全体練習になるまでもう少し時間があるに違いない。
ポラロイドカメラの写真のケースをカバンからそっと取り出しす。譜面台に譜面と共において、眺めていると、桜吹雪の日のことを思い出した。
ポラロイドカメラの写真は、ふんわりとしたところとか、フィルム感って言うらしいんだけど、そこが懐かしい感じがして、ステキだなって思うんだ。
ゆっくりと桜の雪を指でなぞる。
美しく舞い降りる桜の花びらと、ひたむきに走る男性。転びそうになっていたランナーさんは、元気なんだろうか。引きずっていた足は治ったんだろうか。
逆光のせいか、シルエットだけで彼の顔はよく分からない。
けれど、なんか心惹かれてしまう。いつか、どこかで、また会えないかなって期待している自分がいる。誰だかわからないのに、会えるわけないよね。わかってるんだけど。
休憩中もポラロイドカメラの写真を見ていたら、川中先輩に見つかってしまった。しまった。
「おい、杉浦。何してる? 暇なら放課後、練習前に、新しい楽譜を顧問のタイラッチからもらってきて」
川中先輩が嫌とは言わせないぞという笑みを浮かべている。
がーん。職員室にいくの? 面倒だな……。さぼっていたと思われた?
「あれ、何見ているの?」
近藤先輩が覗き込む。
「偶然、撮れた写真なんです」
「これ、ポラロイドカメラで撮ったの? いいね!」
さすが近藤先輩。女子の流行を知っている。
「はい、そうなんです」
「最近、またフィルムカメラが見直されているのよね」
近藤先輩がニコニコしながら、写真を見る。
「そうなのか? 少し、写真が小さくないか? どれ、俺にも見せてみろ」
川中先輩はいぶかし気に写真のケースを覗き込んだ。
「ポラロイドカメラとか、インスタントカメラって、オシャレな写真とか、友だちとワイワイしているところとか、その場で撮れて、その場でみんなで見ることができるのがいいのよね」
「ふーん、まあ、そういうのも、いいのかもしれないな」
川中先輩の微妙そうな反応に、近藤先輩はイラっとしたみたい。近藤先輩の片方の眉がピクリと動いた。
「ポラロイドカメラって、レトロな雑貨感があるっていうか、姿そのものが可愛いじゃん。ころんとしたフォルムとかきゅんとするよね、わかる? 」
近藤先輩が熱く語るが、川中先輩には今一つその心は届かないらしい。川中先輩はメガネを指で押し上げながら、そっと顔をそむけた。
こういうのを糠に釘って言うのだろうなと思った。あ、馬耳東風でもいいかも。
そんな風に考えていたら、
「それから、あと、顧問のタイラッチがお前に頼みたいことがあるっていっていたぞ」
「はあ」
何のことだろう?
頭に疑問がよぎる。
顧問の平先生は、タイラッチって呼ばれていて、ひげ面で、森のくまさんって感じの先生だ。面倒見がいい先生と聞いている。
「タイラッチ、優しいし。大丈夫よ、心配ないから」
近藤先輩が川中先輩の脇腹を小突いた。
「なんだよ」
「そんな言い方したら、陽葵ちゃんが不安になっちゃうでしょ。丁寧に言わないと」
「うん? そうか? ああ、まあ、お前にしか頼めないことだそうだ。うん、がんばれよ。応援している」
川中先輩はひとり「うんうん」と首を縦に振りながら、音楽室をでていってしまった。おかしな川中先輩である。
そのまま近藤先輩とおしゃべりをしていたら、朝練が終わってしまった。
隣の音楽室は、すでに静かになっていた。
ええ? 何のことなんだろう。
不安になりつつも、もうすぐ一時間目の授業が始まってしまうので、ピアノを急いで片付けて、第ニ音楽室を出た。
「陽葵ちゃん、教室行くでしょ? 途中まで、一緒に行こう?」
片付けが終わっている近藤先輩が廊下で待っていてくれた。
前のドアのガラスから、第二音楽室の中が見えた。いまは空っぽになった音楽室は静かで、さっきまで私たちが練習していた気配がまるでない。音楽がなくなった音楽室は寂しい感じがした。
窓ガラスから温かな日差しが床に伸びている。まだ春だというのに、今日もうっすら汗がにじむくらい暑くなりそうだ。
廊下を歩き始めると、すぐに川中先輩に会った。
川中先輩も待っていてくれた? やさしい……って、誰を待っていたの? ええ? いや、私じゃないよね。近藤先輩のこと、待っていたのかな。
ちらっと近藤先輩を見る。
「音楽室に誰もいなかったか」
「はい、大丈夫です」
私は肯いた。
「私も確認したわよ。さあ、早く教室戻らないと、一限目に遅れちゃうわよ、大翔。急げ~」
あれ、近藤先輩、川中先輩を大翔と呼んでいるんだ……。仲良しなんだな。
私は下を向いて、見つからないようにくすりと笑う。
「学校で大翔って呼ぶなって言っただろう。後輩もいるんだから、気を使わせるし」
「あ、ごめん、ごめん。陽葵ちゃんだし、まあ、いいかなって」
近藤先輩は悪びれずに謝っている。
近藤先輩と川中先輩が、私の方をじっと見る。ええっと、そういうことなのかな? そういうことだよね。
二人は私に早く質問しろとばかりに黙っている。
「あの……」
とりあえず、聞くことにした。聞かないと終わらないというか、聞くべき流れだったのだ。質問してよかったらしい。
近藤先輩はにこりと笑った。
「そうなの、私たち、付き合ってるのよ」
全部を聞く前に、近藤先輩が肯定した。川中先輩の頬が少し赤い。
「そうなんですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
近藤先輩はふざけて返す。
「結花、杉浦は知らなかったと思うぞ」
「そっか。オケ部のみんなは知ってるから、もう知ってると思っていたけど」
近藤先輩は手を顎に当てる。
「初めて知りました」
「まあ、つまり、そういうことなのです。よろしくお願いします」
「はい」
二人の顔を交互に見る。
川中先輩と近藤先輩……、ピアノグループって、私が入るまで先輩たちだけってことだよね。もしかして、私ってお邪魔だった? そういうのはちょっといやなんだけど。
「気を使わなくていい。今まで通りで……。邪魔とは思わないから」
気まずそうに、川中先輩がメガネを鼻の上に押し上げ、私から視線を逸らす。よく見ると、川中先輩の首まで赤い。すごく照れているらしい。
「そうよ、気にしなくていいよ。大翔はいっつも見回りに行っちゃうから、私は第二音楽室でずっと一人だったんだから。陽葵ちゃんが来てくれて、ほんとによかったわ」
近藤先輩が私の腕を組んだ。近藤先輩は川中先輩が照れているのを見て、満足したらしい。小悪魔のような顔をしている。
廊下にはもうほとんどの人がいない。そろそろ、本鈴のチャイムが鳴るのかもしれない。
「杉浦は綺麗な指使いをするよな」
川中先輩は話題を変える。
「うん、本当に。うらやましいわ」
近藤先輩がその話題に乗っかった。
「え?」
私は譜面通り弾くとか、速弾きするとかは得意なんだけど、ほめられたことがなくて、驚いた。
小指を骨折しているし、いつものようには弾けないのに。
「骨折もなんのその。さすがよ。よく指が動くなって感心しちゃう」
近藤先輩がうらやましそうに言う。
「そんなことないです。私のほうこそ、深く表現ができる、近藤先輩にあこがれていたんです」
「ええ? そうなの?」
近藤先輩は目を丸くした。
「確かに、結花は情緒的な弾き方がうまいな。でも、杉浦も上手いぞ。タイプは違うから、比べられないが……。杉浦の指がなめらかに動くのは才能だと思う。この機会に左手の重点練習して、右手は小指抜きで弾けるように、指使いを変えればいい。指のケガはちゃんと直せばいいから、あんまり考えるなよ」
川中先輩は、さらっと鬼畜な課題を掲げた。
「陽葵ちゃん、がんばって部活に来てくれてるし、私はとってもうれしいよ。演奏はね、陽葵ちゃんは陽葵ちゃんらしくでいいのよ。指もケガをしているんだし、しばらくは無理しないようにね」
近藤先輩がフォローしてくれた。
「でもなあ、杉浦の、せっかくの指がなまるから、動かすことはさぼってほしくないな。結花には言うなって言われてたんだが……。やっぱり、杉浦の才能と時間がもったいない。研鑽してほしい」
と念押しされてしまった。
さぼるなか……。私のためを思って言ってくれた言葉だけど、胸が苦しくなった。
「はい」
私は小さな声で返事をした。
「ケガをしたのが、今でよかったよ。定期演奏会前だったら、大変だったね」
近藤先輩がぎゅっと私の腕をきつく絡めた。先輩の髪からシャンプーの甘い匂いがした。
「本当ですよね、定期演奏会までには、絶対に治ると思います」
「文化祭のあとの、夏休みに強化練習することになるよ。演奏会は、だいたい十一月の最初の日曜日で、文化の日あたりかな。それよりもなんか、最近、悩んでいそうだけど、演奏のこと? それとも手のこと? 思ったよりも痛いの? 何でも相談してね?」
近藤先輩が私の手を握った。
「……はい」
どきっとした。悩んでいることがなぜバレた? そんなにわかりやすかったのだろうか。聞いてみようかと悩むけど、もうそろそろチャイムが鳴るよね。
それに、心が入った演奏ってなんですか、どうしたら弾けますか?とはさすがに聞けない。それとも、クラスで友だちができないんです、どうしたらいいですか?と聞くべきだろうか。いやいやいやいや、無理だわ。
「大丈夫です」
この答え、一択だね。同じピアノ弾きとして、いつか近藤先輩に演奏について聞けたらいいな。
「じゃ、また放課後ね。昼休みは、きょうは練習なしよ」
近藤先輩は大きく手を振ってくれた。
何とかチャイムと同時に教室に滑り込みんだ。でも、「お疲れ」とか、「おかえり」とか、話しかけてくれる人はいなかった。
もう、朝のお喋りタイムじゃないのが理由の一つだろうけど、わかっていても寂しい気持ちで席に着く。
机の中からノートを出して授業の準備をしていると、隣の席の女の子が後ろの席の子とプリントについて話し始めた。ああ、私もあんな風に友達とおしゃべりしたいな。これって、贅沢なんだろうか。
朝の会が始まり、授業は滞りなく進んでいった。もうすぐ4限目が終わる。
昼練は、きょうはないって言っていたけど、クラスの中で、一緒に食べる相手もいない。
ううう、教室でひとりぼっちでご飯を食べるのか。
つ、つらすぎる。やはりお供はスマホだろうか。
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、私はノロノロと弁当の用意をし始めた。
きょうのひとりぼっちのお供は、スマホしかない。読む本はもってきてないし。いっそ、写真を片手に食べるとか? なんか変だよね。はあ、虚しい……。
「ねえねえ、きょうは昼練はないの?」
私に話しかけてくれている? 
気分がぱあっと明るくなる。
振り向くと、後ろの席の女の子だった。
あれ、今朝の子だ。
未来が開けた感じがして、胸があったかくなった。
「うん、練習ないの」
「じゃ、一緒に食べよ? わたし、鈴木真希だよ。よろしくね」
「いいの……?」
思わず鈴木さんの顔色をうかがう。鈴木さんの、いつも一緒の友達は、きょうはいないのだろうか。
「うん! 陽葵ちゃんだよね? あと、同じ中学校だった、若菜も一緒でいい?」
「もちろん!」
私たちは机を向かい合わせにした。
「ねえねえ、陽葵ちゃんって、オケ部だよね? 川中先輩も、近藤先輩も有名だよね、美男美女カップルで」
真希ちゃんがお弁当のナプキンを広げ始めた。
「うん、実は、今朝、先輩たちがカップルだって知ったの……」
「えええ! そうだったの? ところで、陽葵ちゃんはオケ部のピアノだよね?」
若菜ちゃんはハンバーグを口にほおばる。
「よく知ってるねえ」
びっくりした。
「陽葵ちゃんって、近藤先輩が可愛がっている子って聞いたよ」
若菜ちゃんが目をキラキラさせて私の顔を見る。
そうなんだ……。そんなことまでご存知とは。ちょっぴり恥ずかしくなった。
「普通の子って、お昼、こんな風に食べているんだね。感動しちゃう。ずっとオケ部で昼練していたから、音楽室でひとりボッチ飯か、近藤先輩と食べてたの」
悲壮感を込めてわざと冗談っぽく言ってみたら、若菜ちゃんと真希ちゃんが笑ってくれた。
「昼練がないときは、一緒に食べようね?」
「うん! ありがとう」
真希ちゃんと若菜ちゃんの気遣いが嬉しかった。
突然机の上でスマホが軽く揺れ始めた。ちらっとみると、ホーム画面には川中先輩の名前が出ている。たぶん、きょうの昼練がないっていう連絡メールだろう。
「大丈夫? 返信しなくていいの?」
「うん、きっと昼練がないよっていう連絡だよ。あとで返信する」
「そっかあ。小指の骨折って、痛そうだね。お手伝いするから言ってね」
初めての友達。初めての、クラスでの昼ご飯。この教室の中に居場所ができた。ピアノの前以外の場所ができたのは嬉しかった。
「真希ちゃんと若菜ちゃんは、部活何入っているの?」
「陸上部だよ」
にーっと笑った真希ちゃんと若菜ちゃんが同時に答えた。真っ白な歯がまぶしかった。
「毎日、グラウンドにいても、ピアノの音が聞こえてくるからね。あれ、陽葵ちゃんが弾いているのかなって、二人で噂してたの」
「ええ! 恥ずかしい」
私は顔が赤くなるのを感じた。
「春休み、すごい速い曲弾いてたよね?」
「え? あー、先輩に自己紹介の時、無茶ぶりで弾いたやつかな」
「上手かったね、陸上部の人たちもびっくりしていたよ」
真希ちゃんが腕組みをして肯いた。
陸上部の人たち、聞いていたの? そんなに外に響いていたなんて、考えもしなかった。ぶわっと一気に汗が出て、顔が赤くなる。
「あれ、なんて曲?」
若菜ちゃんは興味津々だ。
「超絶技巧練習曲の鬼火っていう曲だよ」
「名前からしてすごいわ! 超絶技巧って」
真希ちゃんと若菜ちゃんが笑う。
「そうだよねえ、リストも自分で超絶技巧練習曲とか言っちゃうんだから、すごいよね。」
私もうなずく。
「きょうの放課後は空いている? 陸上部は休みだよ。オケ部も休み? 一緒に帰らない?」
真希ちゃんが誘ってくれた。初めてだった。
「うん、そうだね。私も帰ろっかな」
真希ちゃんと若菜ちゃんと一緒にいたくなり、きょうは部活を休もうと決意する。
指もケガしているし。いいよね? ちゃんと連絡すれば。
「じゃ、途中まで一緒に帰ろう」
「うん」
真希ちゃんと若菜ちゃんと話しながら帰る予定ができた。きょうは、陸上部は会議だからお休みなんだって。
休むのは少し後ろめたかったけど、初めての友達と一緒に帰るのは楽しみだ。近藤先輩にあとで連絡すれば大丈夫なはず。胸の中に座らりとしたものが残った。

放課後。
真希ちゃんたちと並んで、お喋りをしながら歩く。久しぶりに明るい時間の下校だ。そして、念願かなっての友達との下校だ。
「ピアノの音って本当に聞こえるの? グラウンドのどこまで聞こえるの?」
どうしても気になって、真剣に質問してしまった。
「え? そうだなあ。いつもは微かにって感じだけど、時々よく聞こえるよね。風の向きとかもあると思う」
「うんうん、あと、校舎周りを走らされているときも、よく聞こえるよね。窓が開いてるし、音楽室近いからだと思うけど。」
真希ちゃんと若菜ちゃんが交互に話す。
なるほど、いつでも、油断はできないってことか。調子に乗って、変な曲を弾くのは絶対やめておこう。
「ピアノの音とか、オケ部の楽しそうな演奏を聞くと、足取り軽やかになるっていうか」
「そうそう、元気が出るよね」
「思わず立ち止まって聞いちゃったりしてさ」
若菜ちゃんが笑う。
そうなのか。ありがとう。オケ部、お役に立ってる! 私も頑張って練習するよ。
若菜ちゃんと真希ちゃんに励まされ、心のバロメータが上昇する。やる気が出てきたわ。
しばらく一緒に歩いたけれど、若菜ちゃんと真希ちゃんとは別れることになった。同じ瑞穂区だけれども、若菜ちゃんたちは熱田区のほうだったのだ。
少しだけでも、おしゃべりできて、楽しかった。いい友達ができて、本当によかった。また一緒に帰りたいな。
見上げると、太陽が少し傾いていた。
若菜ちゃんと真希ちゃんの言葉を心の中で反芻する。
オケ部の音楽って元気になる……か。音楽って、人を励ましたりするよね。私の弾くピアノも誰かの心に届いていればいいな。
そうだ、もうすっかり葉桜かもしれないけど、気分もいいし、山崎川沿いを歩いて帰ろう。
川沿いの散策路の桜はとっくに散っていたようで、若々しく柔らかそうな緑の葉が勢いよく伸びていた。
太陽の光をいっぱい浴びようと、葉が揺れている。川から風がさーっと吹いていった。
天気がいいからか、川の浅瀬にある飛び石で、小学生くらいの子どもたちが水遊びをしている。
夕方が近いが、日差しは春というよりも夏に近く、じりじりと皮膚が焼ける感覚がある。子どもたちが楽しそうに川に足を浸しているのを見て、懐かしく思った。
川から時折爽やかな風が吹いてくる。空いているベンチを見つけ、私はカバンを置いた。
夕方とはいえ、日なたは暑い。日陰で涼をとりながら、一休みだ。
春休みの後半からオケ部に入部して、忙しかった。ピアノ教室とピアノの練習するだけの今までの生活とは、まるで違う生活になっていた。
きょうは音楽はお休み。友達もできた。
目を閉じると、水の音が聞こえてくる。
肩の力が抜けるのが分かる。鳥の鳴き声も聞こえてきた。大きく呼吸をする。
こういう時間が必要だったのかもしれない。
ぼんやりと川辺ではしゃぐ子どもたちを見ていると、カバンの中で、スマホが揺れる音が聞こえて来た。慌ててスマホを見ると、近藤先輩からの着信だった。
ヤバい。やっちゃった。そうだ。連絡するのを忘れていた。
あわてて折り返し連絡するが、近藤先輩は電話に出なかった。急いで「ごめんなさい。体調が悪いのできょうは帰ります」とメッセージを送る。
すぐに近藤先輩から既読がついた。それから「オーケー。お大事に」とも返信が来た。
ホッとすると同時に、多量の罪悪感が襲ってきた。
ああ、やらかしてしまった。
さっきまで浮かれていたのがウソのようだ。暗黒な気持ちに襲われる。
自分の失敗で、自分のせいで、近藤先輩や川中先輩に迷惑をかけてしまった。近藤先輩たちの期待を裏切ってしまった。嫌われたかもしれない。もう期待してもらえないかもしれない。
「ゆっくり休んでね。こっちは大丈夫よ」
近藤先輩からニ通目のメールが届いた。
はああああ。
深いため息が出てしまう。
ああ、おまけに保身のために体調が悪いと書いてしまった……。
カバンの中にスマホをしまうと、写真のケースが目についた。
暗い気持ちで写真を見る。猛烈反省だ。
時計を見ると、この前の時間に近かった。
ランナーの彼のように、私も前を向くと決めていたのに。
また、彼が走っていたらいいな。もしかして、もしかして、会えるかもって思っていたんだけど。現実はやっぱり上手くいかないみたい。
ふと湧き上がる希望を自分でつぶし、もう一つ、ため息をつく。
子どもたちが自転車に乗って、瑞穂公園のほうへ移動していく。ああ、楽しそうでいいな。
何にも考えてないよね、あの頃って。いや、そうだったっけ? その時なりに、考えていたかもしれないが、今思うと、悩みも些細なことだったかもしれない。小学生の頃は、将来のことなんて、遠いことのようで、好きなことを夢見ていた。あの頃、ピアニストになりたいって思っていたけど、今の自分は本当にピアニストになりたいのかと疑問におもう。
ピアノが好きなのか。ピアニストになりたいのか。
いっぱい練習して、ずっとピアノを弾いてきた。でも、もうちょっと努力をすればピアニストになれるのかというと、そういうわけでもなさそうだ。
音大に進んで、ピアノの大きなコンクールで入賞しなければ、ピアニストとして活動できないだろう。努力が実を結ぶという時期は終わり、才能が左右するところまで来てしまった。閉塞感で苦しくなる。どうしたらいいんだろう。
夕暮れの風が髪をなでて行く。ひんやりとした風に嫌な予感を覚え、顔を上げるとポツンと頬が濡れた。
慌てて空を見る。鳥は飛んでいなかったが、真っ暗な雲が迫っていた。河辺は静かになっていた。いつまに子どもたちが帰っていったの?
これって、雨だよね?
あわててカバンに大切な写真をしまう。さぼってしまったから、もうピアノグループから追い出されてしまうかもしれない。
オケ部に居られないかもしれない。
せっかくオケ部に入ったのに、もうケガしてるし。
ピアノが弾けない私じゃ、役に立たずじゃないの。
思考がドツボにはまったうえに、とうとう雨まで降り出した。
最悪、不幸すぎる。
部活をサボってしまった上に雨! 自業自得とはいえ、ひどい。
大粒の雨が頭上に落ちてきた。
ここから、さほどかからずに、家に帰れるとは言え、土砂降りになったら、びしょ濡れ決定だ。
早く帰らないと。
重い腰を立ち上がらせていると、ベンチのそばを一人走って行く男性がいた。
あれ?
あの人は……、この前の人? ランナーさんではないか。足の調子がいいみたいで、前よりも引きずってはいない。でも、もしかすると、雨に濡れたくないから、懸命に走っているのかもしれなかった。
やっぱり、あの時のランナーだ。茶色い柔らかそうな髪の毛。まっすぐ前を見つめる姿勢。凛とした雰囲気。
私は思わず見つめた。
まだそんなに雨が降っていないのに、彼の顔は、すでに濡れていた。何度も手で顔を拭っている。泣いているようにも見える。
まさかね。
写真があると声をかけようとも思ったが、彼の姿を見つめるしかできなかった。知らない人に突然声をかけられても、きっと彼も困るよね。
やっぱり、雨だったのかな? ううん、あれは泣いていたよね。あの人も何かあったんだ。
私の心に苦い気持ちが広がっていった。
家に帰って、スマホを見ると、部長からも、もう一件メッセージが入っていた。「具合はどう? タイラッチのところに、明日行ってください。お大事に」と書いてある。
「あああ!」
川中先輩のメッセージを見て、放課後、タイラッチのところへ行くのを忘れていたことを思い出した。なんてダメダメなんだろう。
「今日は大変申し訳ありませんでした。今後は早めに連絡します。本当に、本当にすいませんでした。明日の朝、学校に着いたらすぐ平先生のところに行きます」
返信を慌てて送る。
「うん、よろしく。お大事に」
川中先輩から間髪入れずに返信が来た。いらいらしながら私の返事を待っていたのかもしれない。すいません。私の気分はずーんと重くなる。
でも、川中先輩の返信メールの感じではあまり怒っていなさそうだった。おそらく、近藤先輩がうまく言ってくれたのだろう。女の子にはいろいろあるのよとか。ありがとう、近藤先輩。そして、本当にごめんなさい。
もう無断欠席しません。サボりません。見捨てないでください。これからがんばります。
そっと胸に誓った。

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