甥っ子とわたし


あの日、私は両手を広げることができなかった。
私のことなど見向きもせずに、素通りされるのが怖かったから。





年末年始、兄家族が1週間ほど帰省した。
大好きな甥っ子に会える...!と家族みんな浮き足立っていた。

2歳になる甥っ子はとても可愛い。叔母バカと言われるかもしれないけど、家族であるという贔屓目なしに可愛い。
そして、すごくおしゃべりだ。大人が使うような言葉を話したりするし、接続語も使いこなしてちゃんと会話になっている。2歳児でこんなに喋れる?と驚いている。甥っ子は頭も良いのだ。

...正真正銘の叔母バカである。

兄家族がくる日、仕事だった私は遅れて実家に合流。兄家族はすでに到着しており、宴がはじまっていた。
ダイニングテーブルの誕生日席、そこには小さな可愛い生き物が佇んでいた。
会うのは夏以来だ。
挨拶はそこそこに、私のこと覚えてる?と話しかけると、

「...ピーマン!」

と言ってきた。

な、なんと、2歳が32歳をイジってきたのである。

イジるというのはコミュニケーションのなかでもかなり高度な手法だ。見当はずれなことを叫んでも面白くはない。
私は家族間で、その緑の野菜に近い響きのあだ名で呼ばれている。
そう、甥っ子はそれを分かったうえで、私のことをピーマンだとイジったのだ。
なんて頭がいいんだ。そして、相変わらずめちゃくちゃ可愛い(バカ)。そして、小さい。

兄嫁が定期的に送ってくれる写真を見ると大きくなっているように見えてた甥っ子も、実際に見るとまだまだちっちゃい。
成長は喜ばしいことだが、小さい甥っ子を見て安心する。まだまだ幼児でいてほしい。


甥っ子と片時も離れたくない私は、兄家族が滞在するほとんどを実家で過ごすことにした。夫は大晦日と元旦に合流してくれるらしい。

甥っ子と過ごす中で気づいたことがある。

認めたくない。
認めたくないが、圧倒的に妹に懐いているのだ。何かにつけて妹を呼ぶ。
近くにいる私ではダメなのだ。

お出かけしていても妹には抱っこをせがむ。
私はダメだ。

妹と私、何が違う?
私だって甥っ子のこと大好きなのに。

妹はよく遠方の甥っ子の家に遊びに行っている。会いに行っている数が違いすぎるのだ。懐くのも当然。誰だってたくさん会いにきてくれる人がいい。アイドルだってたくさんCDを買って、何度も握手会に並んでくれるファンに贔屓したくなるだろう。完敗だ。

一旦、私は夫の待つ自分の家に帰った。負け戦の報告だ。
落ち込む私に、

「まだ作戦はある。プレゼント攻撃だ!」

と夫は慰めてくれた。

プレゼントか。
私のほうが妹より幾分か財力はある。
プレゼント攻撃で好きになってもらえるならお安い御用である。
ただ分かっている。物をあげたって甥っ子の心までは買えないことを...

仕事納めるため、私は仕事に出かけた。その日、妹は甥っ子と動物園に行くらしい。う、羨ましい...

どうせ私がいなくたって...

自分でもびっくりするくらい落ち込んでいた。

無事に仕事を納めて、1日ぶりに甥っ子に会う。
特段、久しぶりに私に会って嬉しそうな素振りもない。



みんなでお昼にピザを食べに行った。
テラス席に通され、そこは子供が走り回れるほどの芝生の広場がある商業施設だった。

甥っ子はピザはそっちのけで駆け回っている。
席に帰ってくるかと思えば、私の席を素通りして妹のほうに駆け寄ってくる。

遠くにいる甥っ子に兄嫁が「よーいドン!」とかけ声をかけると甥っ子はこっちに向かって走ってくる。
兄嫁の隣に私。本当は両手を広げて甥っ子がくるのを待ちたかった。でも、広げた両手の行き場がなくなるのが怖くてできなかった。
当然のように甥っ子はママのほうに走ってきた。
情けない気持ちになった。



甥っ子のおばあちゃん、つまり私の母が
「○○くん、ぎゅーってして(抱きしめて)いい?」
とニコニコしながら甥っ子に話しかけていた。
甥っ子は照れてるのか、逃げてしまう。

「ダメ?おばあちゃん、○○くんのこと大好きなんだけどなぁ」

さすが子育てのプロ、めげない。



私はこれを見て、フッと心が楽になった。


「私って甥っ子に好かれたいんだっけ?
それは私のエゴではないか?
私が甥っ子のことが大好きなんだから、それでいいじゃないか。
甥っ子からの好きが返ってこなくても自分が甥っ子といれて幸せなら別にいいじゃん」

と心から思えたのだ。

それからというもの、私は甥っ子への愛を惜しみなく伝えることにした。
「○○くん、ぎゅーってしていい?」
「えー○○くんのこと、大好きなのにぃ」

別に反応がなくてもいい。私が甥っ子のことが好きなだけ。好きなものはしょうがないじゃん。
私にもう怖いものなどない。


思えば、別に甥っ子に嫌われていたというわけではなかった。
話しかけてくれたし、一緒に遊んでくれていた。
ただ、私が妹に嫉妬していただけなのだ。

どこの小娘だよ。いい歳して情けない。

それからは甥っ子といる時間が純粋に楽しかった。すごく幸せな時間だった。



そして、Xデーはやってきた。

忘れもしない。2024年1月1日。



夫も合流して、実家でみんなで夕飯にステーキを食べていたときのこと。

ダイニングテーブルに座る人数には限りがあったので、妹と私はローテーブルで食べることにした。
すると、甥っ子もここで食べたい!と言い出した。可愛いやつめ。

美味しいね〜なんて言いながらステーキに舌鼓を打っていたら、突然、甥っ子が私に向かって





「○○ちゃん(私)、すき〜」



と言い、甥っ子のほっぺをむぎゅっとつまんで、



なんと、



なんと!!





私の唇にチューしてきたのだ!!!!!!!!!






私、死す。

死因:キュン死(©️ラブコン)



え、何が起こった???????
私は突然のことすぎて理解が追いついていない。

目の前で見ていた妹も驚いていた。


甥っ子の行動を推察すると、
私が事あるごとに言っていた
「ぎゅーってしていい?」
というのは、どうやら甥っ子にとってはほっぺをむぎゅっと掴むことだと思っていたみたいで、
でもそれを愛情表現だということは理解していたらしく、私に彼なりの愛情表現をしてくれたんだと思われる。


え、可愛すぎん???無理なんだが????

書いてる今でも思い出して死ねる。思い出し死。


私がパニックになって、
「え、もうダメかもしれない(好きすぎて)」
って言ったら甥っ子が


「ダメかもしれないって何〜」


って言ってきた。


え、イケメンか???私を殺すんか???


なんかね、今までで湧いた事ない感情が湧いた。
多分これが本当の恋だと思う(大真面目)。
今までこんなに私をキュンキュンさせてくれた人がいただろうか。

甥っ子よ、マジでありがとう。




なんか興奮して方向が変わってきたが、
ついに!!!!
私の気持ちが実ったのだ!!!!

嬉しかったなあ〜〜〜


甥っ子に好かれたいって下心あるうちは、きっとこうはいかなかっただろう。



私が本当に死ぬときは、2024年1月1日のこの夜が走馬灯のように流れるんだと思う。






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