イランの演劇、その文化と伝統
おめでたい正月の三が日もあけないうちに、突然世界が混沌とした。アメリカがイラクで、イランのソレイマニ司令官を殺害したのだ。日本はニュースが入ってくるのがやたら遅いけれど、多くのジャーナリストや専門家が発信を続けている。これはとんでもない事態だ。
イラン。というと私たちはどれくらいのことを知っているだろう。一方のアメリカの方はいろんな情報が入ってくるとはいえ、イランは正直身近な国とはいえない。イラン国民は親日で、「日本人だ」と知ると奢ってくれたり泊めてくれたりとものすごくもてなしてくれることもある国だとはいえ……
わたしは演劇の仕事をしているけれど、イランの演劇についてはあまり詳しくない。今さらだけど……でも今からでも……イランがどんな環境で、どんな文化で、どんな演劇がおこなわれているのか。その空気をすこしでも感じ、身近にしたい。イランの演劇文化についてとりいそぎ、いくつかの参考記事をトピックごとにまとめてみた。
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※今回のイランとアメリカの関係については、ものすごくざっくりではあるけれどこれを見ていただけるととりあえずわかりやすいと思う
https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji14/
1:首都テヘランの劇場・演劇
イランでは、どんな環境で演劇が上演されているのか。首都テヘランから5つのトピック(劇場、伝統、その機会など)が紹介されている記事。まずは雰囲気だけでもこちらから。(2020年)
https://jpn.worldtourismgroup.com/best-iranian-theatre-tehran-passion-63091
2:イランの演劇祭
演劇祭について3つの記事を紹介する。
「イラン伝統演劇フェスティバル」
"イランの演劇のスタイルは、宗教劇、語り手が語る演劇、人形劇、影絵など"である。フェスティバルでは1989年から約30年、伝統的な特徴を持つ演劇作品を保護し、広めてきた。"宗教的、民族的な英雄たちの人生や戦闘をテーマにしたものであり、観客と出演者が一体となることで、見る者の心に直接、訴えかけ"ている。(2017年9月の記事)
「ファジル国際演劇祭」
こちらは日本のアーティストによるレポート記事。2012年とちょっと前だが、テヘランで開催された「ファジル国際演劇祭」に参加したようすが紹介されている。日本での出発から町の様子まで……たくさんの写真で息づかいが伝わり、現地に行ったような気持ちになる。レポートは①〜⑦まで。(演劇祭は⑤。ほか、食事や観光のようすなど)(2012年)
「ショーケース」
次は、2019年2月に「ファジル国際演劇祭」と共同開催されたイラン初の国内パフォーミング・アーツ・ショーケース。国外に向けてイランの多様なパフォーミング・アーツを知らせることを目指している。ただこちらはイラン劇場のサイトだが、今はスライマニ司令官の死去が多く伝えられている……(2019年、英語記事)
3:イランの風習と舞台芸術
こんなことがあった。シェイクスピア劇『夏の夜の夢』にあたり、イラン演劇界の著名人2人が拘束されたのだ。拘束理由は、“SNSで拡散された舞台の予告編動画にうつる「上演された音楽の種類」と俳優たちの「動き」”。イランでは、男女が一緒に踊ることが禁止されているのだ。(2018年9月11日の記事)
ただし、50年前まではミニスカートをはけるくらい開放的な国だったそう。それが79年のイラン革命をきっかけに、黒づくめになったそうだ。
4:日本での上演
イランの演劇は、当然、日本でも上演されている。2012年にフェスティバル/トーキョーでの公演だが、日本人にどう届けられたのか、参考までに。公演パンフレットもダウンロードできるのでぜひ。
──"抑圧的な社会や他者への不信感、焦燥に苛まれる若者像を鮮やかに浮かび上がらせる。その姿はまるで、テヘランの複雑な現実の映し鏡のようでもある。"
イランを描いた日本の演劇から一作。
時間堂『テヘランでロリータを読む』
ベストセラー小説をオノマリコさんの台本で演劇化。イランでの抑圧された女性たちの日常、友情と別れを描く。観劇三昧にてDVDと台本を発売中。
5:もっとくわしくイランの演劇を知る
《国際演劇年鑑2017》でのイラン演劇紹介は、わかりやすいのだけれど、システム的にちょっと見づらいので最後の方の掲載とした。イランの舞台芸術の現状、さまざまなフェスティバル、注目の作品(2016年版)などがわかりやすく紹介されている。
1.演劇進展の概観
2.注目すべき舞台公演
3.演劇祭・演劇関係のイベント
4.演劇研究の出版
※イラン演劇レポートはP.37〜45に掲載。
もうひとつ。
ちょっと長いけれど、詳しく知りたければこちらが良い!現代演劇におけるイランの伝統劇場の影響についての論文だ。
"「この論文は、イスラム革命後のイランでの演劇活動に注目し、どのように演劇や芸術家について議論します彼らは宗教制度内で行動することができました。現代イランの歴史を踏まえ、イランの現代演劇の歴史は、革命の前後に分けることができます。 我々は、演劇儀式と伝統がイランの現代演劇に及ぼす影響を調べることから始める。"
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「芸術は、政治とはちがうドアを開けられる」という言葉がある。たとえ国同士が対立していたとしても、文化は(スポーツもだ)、繋がることができる交換できる、交流できる、そして知ることや対話をやめないことができる。……ただし、今回はかなり衝撃的で繊細な事態になってしまったので悠長な状況ではない。けれど、それでも、"知らない"ということは危険だ。なにも判断できないし、誤解もするし、不安にもなる。
もちろん知識だけではなく行動は大切だ。けれど、なにをどう行動すればいいのだろう? 知識がないと、想像することもできない。想像は演劇の基礎だ。想像するためにできることを諦めないために。
まずは、ここから。
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