『地元密着型演劇祭を盛り上げる』ために必要な“4つのwin”

“演劇祭”と呼ばれるものは、全国全世界にたくさんあり、どれもそれぞれ違います。

4月19日(火)に参加したネビュラエクストラサポート(Next)さんが主催する制作塾オープンサロン「東京の地元密着型演劇祭を盛り上げよう」では、『したまち演劇祭in台東』『下北沢演劇祭』『佐藤佐吉演劇祭』の3祭について、主催の方々からお話をうかがいました。

そこで頭に浮かんだ「地元密着型演劇祭を盛り上げるために必要だなと思う4つのwin」について書き出してみました。

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いちおうもくじ。

■サロン「東京の地元密着型演劇祭を盛り上げよう」の概要

■4つのwinとは?

■“演劇祭”に似ているもの

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■サロン「東京の地元密着型演劇祭を盛り上げよう」の概要

まず前提として「地元密着型演劇祭」とはなにかと言うと、Nextさんのサロンの言葉をお借りします。(多少補足)

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演劇祭とは、ある期間に何かしらのテーマ性を持って集中的に演劇の上演が行われるイベントです。

演劇祭には「大型の舞台芸術祭(大きなテーマを掲げて広範囲にわたって行われるもの)」と「小規模な演劇祭(局地的に実施される)」があります。今回のサロンにおいては、後者の「小規模な演劇祭」を、仮に「地元密着型演劇祭」と呼ぶことにしました。

ちなみにこの小規模な演劇祭は、さらに「自治体が主導して実行委員会を結成しているもの」「民間の団体が主導して行うもの」「民間の団体が持ち小屋を使って行うもの」などと細かく分けられます。

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今回、東京の「地元密着型演劇祭」の例として挙げられた3つの演劇祭のざっと違いを書くと……

◆したまち演劇祭in台東(台東区)

区の魅力を高め移住者を増やすことをも視野に入れた演劇祭です。ブランディングのひとつとして参加団体をサポートしているため、ともに演劇祭をつくるパートナーになってくれるような団体に参加して欲しいとのコンセプトです。参加団体のメリットは、主催が多量のチラシを印刷、区役所員がそのチラシを配ったりと協力的、格安で劇場を借りられる、などがあります。最近ではすこしずつ一見さんも増えてきたようです。

◆下北沢演劇祭(世田谷区下北沢)

地域のお祭りとして始まった演劇祭で、1990年に下北タウンホールができたことをきっかけに始まりました。商店街の住人が運営を手伝ったり、演劇公演に参加したりします。区としては“お祭り”の扱いなので、地域振興課からの助成を受けています。スタートから四半世紀を経て、2016年の第26回開催で初めて、劇場の外でパフォーマンスを行いました(スイッチ総研)。

◆佐藤佐吉演劇祭(北区王子)

「若手育成」を目的とした演劇祭。運営スタッフが各地でさまざまな演劇を観漁り、目にとまった団体に上演依頼をする参加枠もあります。この演劇祭に参加した後、今や大人気劇団となった団体も多くあります。参加団体にとっては、制作・広報面でのサポートのほか、プロに観てもらえるというメリットがあります。また、高齢化の進んだ地域が拠点であったことから、図らずも町に若者を呼ぶきっかけにもなっています。

◆おまけ

サロンの途中で話にでてきた『池袋演劇祭』。プロアマ問わず近郊で公演する劇団がエントリーし、公募による100人の一般審査員が審査します。審査員も、自分の好みだと選ばない公演を観ることで「こんな舞台があるんだ!」という発見や出会いがあるそうです。

そのほか挙げたらキリがないほどいろいろな演劇祭の話がでました。

演劇祭の数だけコンセプトがあることに改めて驚きました。「いつ・どこで・どんな団体を集め・誰に観てもらうか」……たくさんのアイデアがあるのだなあ。


■4つのwinとは?

『地元密着型演劇祭を盛り上げよう』と考えた時に。

私は「4つのwin」が存在するのじゃないかなと思います。

winとはつまりwin-winのこと。「AとB両方の利益になること」ですね。

どの4つかというと、①主催、②参加団体、③観客、④地域。

当日は話に出ませんでしたが、これら4つともが”良い”状態であることが、「祭」がより盛り上がるためには大事なんじゃないかなと思っています。

①主催と②参加団体の関係

「演劇祭に関わろう」という場合はたいてい、“主催・運営”もしくは“参加団体”のどちらかだと思います。

サロンでもまず、演劇祭が盛り上がるために重要なこととして「主催側と参加団体が“演劇祭の理念と目的”を擦り合せること」が挙がりました。両者に温度差があれば、協力体制が築けません。『○日までに資料を提出』『△日の打ち合せには参加』といったことさえ滞ってしまいます。(どこの業界でもよくある……)

主催側は、まず演劇祭に参加する団体が決まる前に(公募式の演劇祭なら募集要項のなかに)「どんな団体を募集しているか」「参加するとどんな特典と役割があるか」などをはっきりとさせること。そして団体側は要項を確認し、「この演劇祭が劇団の目的に合っているな」「この演劇祭に参加することでこんなことができるな」と相性を見て応募すること。…………ができれば後が楽だとは思うのですが、なかなかそうもいかないので、折りに触れ言葉にするコミュニケーションが必要になるんだろうと思います。

③観客のwin

「演劇」「盛り上がる」という単語から外せないのが、『観客』の存在です。

この演劇祭にはどんなお客さんが集まるのか……演劇好きか、普段は舞台を観ない人か、プロか、地元の人か、他地域の人か……どんな人たちと盛り上がりたい演劇祭なのか。主催側はきっととても考えていると思います。

ふだんの劇団公演の場合でも、「どんなお客さんに観てもらいたいか」「どんなお客さんが観たいと思うのか」そして「そのためにどうしたらいいのか」について、とても頭を悩ませているでしょう。しかしこの『お客さん』像は意外と口にされないのでは、とも感じます。

演劇祭も同じです。でもあえて「①主催側と②各参加団体の代表・制作などが、どんな③観客と、どんな関係を結びたいのか」を口に出して共有した方がいいと思う。そうすることで、“誰”の方を向けばいいのか方向性がはっきりし、祭全体のまとまりが出やすくなります。(もしくは共有せず、主催側がしっかりと全体をまとめあげるというのもひとつの方法です。ただそれはプロ指向の演劇祭には向いているかもしれませんが、お祭りに近いものだと①と②が運営においてかなりの協力関係にあるといいのかな、と)

お客さんにとっては、事前に目的がわかりやすい演劇祭であれば事前のイメージと後のイメージが大きくズレが小さくなります。「演劇祭っていっても同時期に近くで公演しているだけ?」と感じることもままあるのですが、その疑問はなくなると思います。

④地域のwin

とくに「小規模の演劇祭」(今サロン定義)には土地の名前がついていることが多いです。『in台東』『下北沢』『池袋』『としま』『たちかわ』『多摩』など。地域団体が助成をしたり、自治体が主催することもあり、まさに地域に密着しています。

サロンで出た意見を参考にすると、地域にとってのプラスは、

・地域のPRや魅力になること

・地域に住む人たちが盛り上がり、アイデンティティにもなること

・地域にあまり来ない人たちが足を運んでくれること

・さらにその地域を好きになって、通ったり移り住んでくれること

などが考えられます。

地域の演劇祭の場合、地域のためになっている=社会的に意義があることで、行政からの協力も得られ、一緒に楽しめるでしょう。

 

この4つのうち、演劇はそもそも基本的に①主催、②参加団体、③観客、それぞれがいないと成り立たちません。そして「地元密着型演劇祭」においてはさらに、④地域、⑤その他(いちおう追記。企画による)も必要になります。

たぶん誰もがそのことを感じたり考えたりして、わかっていると思います。しかしこの「わかっている」というは怖いことで、会社でも夫婦でも同じく、「ゴールここで合ってるよね?」という共有をたまにしないと、気づくと意識も熱量も方向性もバラバラになってしまいます。(あえてバラバラなのを絶対的なトップ演出がまとめることでうまくいうこともある……かもしれない)

主催者と参加団体と観客と地元の4つが「win-win-win-win」になるにはどうしたらいいのか。そのために開催の目的を演劇祭ごとに話し、共有し、明確にしていくことで、関わる人たちが同じ方向を見つめやすくなるんだと思います。


■“演劇祭”に似ているもの

おまけ。

よくよく考えたら演劇祭ってなんだろう〜。

世の中に置き換えられるものあるかな?と考えてみると、『デザインフェスタ(デザフェス)』や『アースデイ』が近いのかな、と思いました。

たとえば人気の『音楽フェス』や『外国フェス(タイフェス、インドフェス)』や『コミケ』などは、お金を払って参加者が騒いだり飲んだり食べたりコスプレしたりします。かなり能動的に参加型な印象があります。これは、音楽・食べ物・コスプレという題材の性質があるのでしょう。

また同じ「祭」でも、地域のお祭りは、交流を深めたり、伝統行事という色が強いです。またここにやってくる人は、無料で見学・参加できたり、観光目的だったりするという点で、多くの演劇祭とは根本的に異なります。

けれど『演劇祭』『デザフェス』『アースデイ』の主な目的としては……

・主催………………芸術やデザインや地球平和を広めたい。

・参加団体…………自分たちのPRしたい。

・観客・来場者……お金を払って情報を受け取る。

(基本受動的。なかには能動的な企画も)

という感じでしょうか。ざっくりですが。

(最近デザフェスは経済的に成功するから開催に力が入ってるって面もあるかもしれません。想像ですけど)

ここらへんは分析してみると、集客方法の可能性とか広がるかもしれません。またの機会に。


(転送元 http://momocom.org/archives/251)

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