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8 弱り切ったアヒル

アヒルを家に連れて帰る

『イクラ もうそっちへは行っちゃだめよ。今日の散歩は済んだでしょ。困ったわね。』
そう言いながらも根負けしたお母さんは一旦家の中に入り厚手のコートを着て懐中電灯も用意して外に出てきてくれました。何事かと心配したお父さんも一緒に出かける支度をして出てきました。
 イクラは暗がりの中 時々懐中電灯の明かりに背中を照らされながら 振り返り振り返り 二人がちゃんと後ろからついて来ていることを確認しながら道を進みました。そしてアキコさん夫妻を川沿いの道まで連れてくることができました。
『イクラはどこへ行くつもりかしらね。いつもの散歩コースとは違うみたいだけど。』
『さあね。それにしても寒いな。この雪は積もるかもしれないぞ。毎年恒例のホワイトクリスマスになりそうだ。』
 ちらちらと雪は降り続いています。やがてイクラが立ち止まりました。懐中電灯に照らし出されたのは 既に積もり始めていた雪の中で足に怪我を負ってうずくまっているアヒルの子供でした。イクラはアヒルの背中にさっきと同じように鼻をくっつけて小さくバウっと声をかけました。アヒルは力なくゆっくりと首をもたげましたが 又すぐにぐったりとしてしまい お母さんがその子を抱っこしても抵抗する素振りさえ見せませんでした。
『何も心配いらないからね。』と優しく声をかけながらお母さんがそっとそのアヒルを抱きかかえてそのまま家に連れて帰ることにしました。

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