見出し画像

『眠り展』を訪れて


東京国立近代美術館 「眠り展」 2020-2021


 ルーベンス、ルドンの絵画作品から塩田千春の現代アートまで、多様な媒体を通した「眠り」が混在している会場には、まどろみの中をゆっくりと歩いていくようなやわらかさのある作品から、鋭く攻撃的な空気を感じられる作品など、同様のテーマであってもその切り口は実に多彩なものであった。

東京国立近代美術館『眠り展』
会期:2020.11.25 - 2021.2.23

 作品群の世界観になぞらえて設置された、カーテンを思わせるような布や、壁に描かれた布のようなグラフィック、鑑賞者を作品世界にいざなう言葉の数々、夢の中でものの輪郭が緩やかに崩れ落ちていく様を表した、ゆがみながら分離していく文字のフォントといった空間づくりも印象的であった。会場の照明も、微細な揺らぎや明度の調整などがこまかくなされており、奥に進むにつれて作品と共に夢の中におちていくような感覚を得た。

エドモン=フランソワ・アマン=ジャンの《夢想》は、川辺の草原に横たわった薄紫のドレスに身を包んだ女性が描かれている。あたりは薄暗くぼんやりとしていて、奥に開けた空を流れ落ちるように描かれている星の光、もしくは散りゆく花びらたちを両手で受け止めようとしているが、その景色の正体も、女性の仕草の意図も曖昧に描かれている点が印象的であり、鑑賞している側も夢を見ているかのような感覚にさせる。彩度の低い色彩遣いと、もやがかかったようにぼかされた輪郭も、この絵画の幻想的な世界観の創造を助長している。


エドモン=フランソワ・アマン=ジャン《夢想》1923年

 この絵画を鑑賞した際、同タイトルであるクロード・アシル・ドビュッシーの「夢想」が頭の中に流れだした。繊細さと不安定感、夢の中をさまよい歩くような幻想的な美的感覚が共鳴し、作品の持つ世界観を立体感をもって体感する、よい没入体験が出来た。

 人々は「夢」や「眠り」に、安らかで穏やかなものという静かで柔和なイメージをもつ反面、その現実離れした不安定さや得体の知れなさ、夜闇などに対する恐怖や不安感、ナーバスさという相反するイメージを抱いている。 
 それらの二律背反するイメージは「夢」「眠り」を連想するうえで互いに共鳴し合い、我々の空想上で独特の世界観や深みを作り出しているのではないだろうか。そして、そういったどこか手の届かない概念が私たちのクリエイティビティを刺激し、このように様々な年代・媒体・表現方法の中で多くの作品や発想を生み出してきたのではないかと考える。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?