鮴(ごり)
鮴 字書に見ることなし、姑く 俗に徒がふ
一名 鯼 イシフシ
山城 加茂川の名産なり。『大和本草』に二種あり。一種は、腹の下に丸き鰭あり。其 鰭 平なる所ありて 石に付けり。是、真物とす。
膩ら多し。羹 として味よし。形は、杜夫魚に似て、小さく背に黒白の文あり。一名、石伏と云々。是、貝原氏の粗説なり。尤一物なりとはいへども、形小異あり。尚、下の図に見るべし。
※ 「貝原氏」は、貝原益軒のこと。『大和本草』の編纂者。
魚捕は、筵二枚を継ぎて、浅瀬に 伏せ小石を多く置き、一方の両方の耳を二人して持あげるれば、又、一人川下より長さ三尺余りの撞木を以て 川の底をすりて、追登る魚 追はれて、筵の上の小石に付き隠るを、其侭 石ともにあげ採るなり。
是を 鮴押 と云。
又、加賀 浅野川の物も名産とす。是を採るに、加茂川の法に同じくフツタイ、板おしき と其名を異にするのみ。
フツタイは割りたる竹にて 大なる箕ののごとき物を、加茂川の筵のかわりに用ひ、板おしきは竪五尺、横三尺許の厚き板を竹にて挟み、下に足がかりの穴あり。是に足を入れて、上の竹の余りを手に持、石間をすりて、追来る事、前に云ごとし。
又、里人などの納涼に乗じて、河辺に逍遙し、この魚を採に、人ゝ 香餌を手の中に握り、水に掬し、「ゴリ」と呼ば、魚群れて掌中に入るなり。
又、籃にてすくひ採ことも有るなり。是をしも、未熟の者にては、得やすからず。清流 浅水 といへども、見えがたき魚なり。
『和名抄』に「ゴリ」を出さず。● を「いしぶし」として、性 石間に伏沈。
※ 「和名抄」は、『和名類聚抄』のこと。平安時代中期に編纂された辞書。
■は、チゝカブリ。鯸に似て黒点あり。[ ■は魚+庸-广 ]
䱩魚 カラカコ
鯸に似て、頬に鉤を著ける物なり、と注せり。案ずるに、文字に於ては、適当とも云がたし。和訓義に於ては「いしふし」。石に伏して、今コリ石伏といふにあたれり。
ゴリは、鳴く声の「ゴリゴリ」といふによりて、後世の名なるべし。
チゝカフリは、チゝは土にて、土をかぶり、●との儀なるべし。されば、杜父魚にちかし。人の音を聞けば、砂中に頭をさして、碇のごとくす。一名「砂堀■」とも云。[ ■は魚+砂 ]
カラカコは、頬に鉤を付たるの名なり。鉤の古名「カコ」とも云へり。カラの義、未詳。
或云、聲有魚は、必ず 眼を開閤す。是 ●● 一竒なりとす。されども、其実をしらず。
又、是等 皆、所 の方言に「かじか」とも云へり。尚、辨説有。
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筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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