職人尽歌合 44~52番
四十四番 瓦焼 対 笠縫
瓦焼
南禅寺より いそかれ申候
笠縫
世にかくれなき 笠ぬいよ
※ 「南禅寺」は、京都にある臨済宗南禅寺派の大本山。
※ 「かくれなき」は、広く知られていること。
四十五番 鞘巻きり 対 鞍細工
鞘巻きり
当時はやりて まけもなき 細工哉
鞍細工
あら ほねおりや
※ 「鞘巻きり」は、鞘巻に刻み目をつけること。鞘巻切。
※ 「鞘巻き」は、腰刀の一種で、鍔のない短刀の鞘に葛藤の蔓などを巻きつけたもの。後に中世になると、鞘に巻きつけた形の刻み目をつけた漆塗りのものへと変わりました。
※ 漆を塗らず白木のままの鞍のことを白骨鞍といいます。
四十六番 暮露 対 通事
暮露
通事
※ 「暮露」は、普化宗(禅宗の一派)の僧のこと。普化宗は虚無宗ともいわれので、虚無僧、薦僧、菰僧とも呼ばれました。
※ 「通事」は、通訳のこと。
四十七番 文者 対 弓とり
文者
六韜の末は むねと 武道にて候
御稽古候へかし
弓とり
運は天にあり
命は義によりて かろし
※ 「文者」は、学者のこと。また、詩文に巧みな人のこと。※ 「六韜」は、中国の代表的な兵法書で、武経七書のひとつ。
※ 「弓とり」は、弓術にすぐれている人のこと。また、弓矢を持つことを務めとする人のこと。
四十八番 白拍子 対 曲舞ゝ
白拍子
処ゝに ひく水は 山田の井との なわしろ
曲舞ゝ
月よは つらき 小倉山
其名は かくれさりけり
※ 「白拍子」は、平安時代末期から鎌倉時代にかけて起きた歌舞のひとつ。また、その歌舞を業とする人のこと。
※ 「曲舞」は、南北朝時代から室町時代にかけて流行した歌舞のひとつ。久世舞、九世舞。
※ 「小倉山」は、京都の桂川の北に位置する山。(相対する南は嵐山)
四十九番 放下 対 鉢扣
放下
うつゝなの まよひや
鉢扣
きのふ見し人 けふとへは
※ 「放下」は、小切子という楽器を打ちながら歌舞や手品、曲芸をする芸のこと。
※ 「うつゝなのまよひや」は、現無の迷いや。
※ 「鉢扣」は、念仏踊りのひとつで、瓢箪を叩きながら念仏を唱えて踊ること。
※ 「きのふ見し人けふとへは」は、昨日見し人今日問えば。
五十番 田楽 対 猿楽
田楽
猿楽
あけまきや とんとう
ひろはかりや とんとう
※ 「あけまき」は、総角結びのこと。房の結び方のひとつ。『源氏物語』の五十四帖「総角」の巻で、薫中納言が大君に「あげまきに 長き契りをむすびこめ おなじところに よりもあはなむ」という歌を贈っています。
五十一番 縫物師 対 組師
縫物師
組師
たゝふくは 頃 めす人もなき
うたてさよ
※ 「組師」は、組紐を作る人のこと。
※ 「うたて」は、ひどく、面白くない、不快などの意味。
五十二番 すりし 対 畳紙うり
すりし
梅の花はかり する程に やすき
畳紙うり
こたとうかみめせ
いろもよく いてき候そと
※ 「すりし」は、刷師。ここでは、生地に型模様を刷る人のこと。
※ 「梅の花はかりする」は、梅の花ばかり刷る。
※ 「やすき」は、易き。簡単という意味。
※ 「畳紙」は、折り畳んで懐中に入れておく紙(書状や歌を書いたりするのに用いた)のこと。
※ 「こたとうかみ」は、小畳紙でしょうか。
※ 「いろもよくいてき」は、色も良く出来。
筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖