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江戸高名会亭尽 王子

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『王子(江戸高名会亭尽)

狂句合
   扇屋へ 馴染になつた 三の午

女性たちが水遊びをするのは石神井しゃくじい川の下流域、音無川おとなしがわです。

王子稲荷社や王子権現(現在の王子神社)がある高台と飛鳥山との間を流れ、滝野川、王子川とも呼ばれていました。現在の音無親水公園(東京都北区)の辺りです。

○  音無川
音無川をとなしがはは王子神社のふもとを流るゝ小川こがはにして石神井川しやくじゐがはの下流なり。是れ王子神社は紀州熊野神社をうつせるより、この 川をもなづけしよし、世俗に瀧野川たきのがはと云へるは誤りなり。一に王子川と云ふ、王子豊島をて荒川にる。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『東京名所図絵
王子稲荷社・王子権現と飛鳥山の間を流れる音無川
料理屋「扇屋」「海老屋」の名前も見えます

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『染井王子巣鴨辺絵図

歌川広重の『名所江戸百景』にも描かれる江戸の観光名所でした。

左「飛鳥山北の眺望」 中央「王子音無川堰 世俗大滝ト唱」 右「王子稲荷の社
東都名所飛鳥山全図
東都名所王子稲荷境内全図

王子街道沿いということもあって、大勢の人がこの川沿いを往来し、料理屋が軒を並べました。なかでも有名だったのが「海老屋」と、『江戸高名会亭尽 王子』の狂句に詠まれる「扇屋」です。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『江戸買物独案内

即席 御料理
扇屋安右衛門 王子稲荷神社前
御好次第仕出シ仕候

「 扇屋へ 馴染になつた 三の午 」

さんうま」というのは、二月の3回目のうまの日のことです。

王子稲荷社では、毎年二月に「初午祭」「二ノ午祭」と呼ばれる祭礼が行われていて、年によっては「三ノ午祭」があります。

例えば、今年(令和五年)の場合は、初午が2月5日、二の午が2月17日です。三の午があるのは、直近では令和八年(2026年)、初午が2月1日、二の午が2月13日、三の午が2月25日になります。

「馴染になつた三の午」は、初午祭、二ノ午祭、三ノ午祭の参詣ごとに扇屋に立ち寄れば、店構えが大きく大勢の客で賑わう扇屋でも、顔を覚えてもらえたということなのでしょうね。

扇屋へ 馴染になつた 三の午



参考:国立国会図書館デジタルコレクション『三府名所独案内図会1東京之部』『東京名勝図会2版』『道中記:附・東京四日廻』『王子稲荷初午祭ノ図』『江戸買物独案内(海老屋)』

筆者注 新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖