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『金沢八景』歌川広重
乙艫帰帆(おとものきはん)
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乙艫帰帆
沖つ舟 ほのかにみしも とる梶の
おとものうらに かへる夕波
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※ 「乙艫」は、乙艫の浦。現在の乙舳海岸。
※ 「帰帆」は、港に帰る帆かけ舟、または、帰途につく船のこと。
※ 「梶」は、梶の木 と 舟の舵 の掛詞になっています。
※ 「おとものうら」は、乙艫の浦。
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船にかけられた大きな白い帆が、広重の美しい「青」に映えます。
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おとものうらに かへる夕波
小泉夜雨(こずみのやう)
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小泉夜雨
かちまくら とまもる雨も 袖かけて
なみたふる江の 昔をそおもふ
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※ 「小泉」は、手子神社の辺りだそうです。
※ 「かちまくら」は、楫枕。 楫を枕にして寝るという意味から、船中で寝ること。船旅。
※ 「なみたふる江」は、波倒る江で、波が打ち寄せる入り江 という意味合いでしょうか。「なみた」は、涙 と 波た の掛詞になっているように思います。
※ 「昔をそおもふ」は、昔をぞ思う。
激しく降る雨のなかを、ふたりの人物がすれ違おうとしています。見方によっては、左の男がうしろの人物を気づかって、振り返って見守っているようにも見えます。
うしろの人物は半合羽のようなものを着て、提灯が雨にぬれないように前かがみで歩いています。
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足早に駆けるでなく、ゆっくり行く感じが印象的な一枚です。
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称名晩鐘(しょうみょうのばんしょう)
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称名晩鐘
はるけしな 山の名におふ かね沢の
霧よりもるゝ 入あひのこえ
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※ 「称名」は、金沢山称名寺のこと。十三世紀中頃に創建された金沢北条氏一門の菩提寺。
※ 「晩鐘」は、夕方に鳴らす寺院の鐘のこと。
※ 「はるけし」は、遥けし。
※ 「かね沢」は、金沢。
※ 「入あひ」は、入相(日が山の端に入る頃、夕暮れのこと) と 入会(村人たちが山林・原野・漁場などを共同で管理して木や草を刈ったり漁をしたりすること)の掛詞になってます。
絵には、漁をする人の姿、山あいの家、その間には木々を背にした家並みが描かれていて、 海 山 里 の暮らしの息づかいを感じさせてくれます。
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野島夕照(のじまのせきしょう)
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野島夕照
夕日さす 野嶋の浦に ほすあみの
めならふ里の あまの家ゝ
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※ 「野島」は、現在は野島公園になっています。
※ 「夕照」は、夕方のこと。
※ 「ほすあみ」は、干す網。
※ 「めならふ」は、目並ぶ。
※ 「あま」は、海人。
絵の中央をゆっくりと屋形船が行きます。中では、男が煙管を片手にくつろいでいます。となりの女性は岡持ちのふたを開けて、仕出料理をのぞき込んでいるところです。広重の「青」で描かれた平潟湾は、穏やかでとてもきれいです。
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平潟落雁(ひらかたのらくがん)
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平潟落雁
跡とむる 真砂に もしの数●へて
しほの干潟に 落るかりかね
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※ 「平潟」は、現在の平潟湾。
※ 「真砂」は、細かい砂のこと。
※ 「しほ」は、潮。
※ 「かりかね」は、雁が音、雁金。雁の鳴く声のこと。
季節は旧暦三月、「清明」の頃でしょうか。北に帰る雁の群れから、鳴き声が落ちてきます。
二十四節気「清明」
玄鳥至 つばめきたる
鴻雁北 こうがんかえる ※鴻雁は雁のこと
虹始見 にじはじめてあらわる
絵の中央には、潮干狩りをする人々の姿が描かれています。潮干狩りは春の風物詩、旧暦三月の季語のひとつです。
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おしんのように手ぬぐいを巻いた女の子が可愛いらしいですね。
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こちらの男の子たちは、髷を結わずに月代だけ剃ったヘアスタイルです。
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幼い子供もお父さんの傍らで、一生懸命に貝を拾っています。
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内川暮雪(うちかわのぼせつ)
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内川暮雪
木陰なく 松わむもれて くるゝとも
いさしら雪の みなと江のそら
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※ 「内川」は、現在の内川橋のあたり。
※ 「暮雪」は、夕暮れに降る雪、または、夕暮れに見る雪景色のこと。
※ 「みなと江」は、港江。港になっている入り江のこと。
天秤棒を担ぎゆく人は、膝から下が素足で冷たそうです。後ろの男性はしっかりと脚絆を巻いて、高下駄を履いています。手には杖をもっているようです。海には、ゆっくりと進む 筏船 が見えます。
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茶店のようなたたずまいの家の奥に点在する小屋は、塩田の釜屋でしょうか。
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洲崎晴嵐(すさきのせいらん)
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洲崎晴嵐
にきはへる すさきの里の 朝けふり
はるゝあらしに たてる市人
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※ 「洲崎」は、現在の洲崎町のあたり。
※ 「晴嵐」は、晴れわたった日のかすみ、または、よく晴れわたった日にたちのぼる山の気のこと。
※ 「にきはへる」は、賑わえる。
※ 「すさきの里」は、洲崎の里。
※ 「はるゝあらし」は、晴るゝ嵐。
※ 「市人」は、市に集まってきて、物を売る人のこと。
絵の中央には、釜屋が点在する塩田の風景が描かれています。その手前を、 筏師が 筏 を運んでいます。長い竿をさして、めいっぱいの体重をかけて竿を押す姿がとてもリアルで、今にも動き出しそうな気がします。
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瀬戸秋月(せとのしゅうげつ)
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よるなみの 瀬戸の秋風 小夜●て
千里のおきに すめる月かけ
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※ 「瀬戸」は、瀬戸神社のあたり。十二世紀前半、源頼朝が戦勝を祈願して、伊豆三島明神を勧請したそうです。
※ 「よるなみ」は、寄る波。
※ 「小夜」は、接頭語「さ」+夜。さよ。
※ 「月かけ」は、月影。
中秋の名月でしょうか。美しい満月があがっています。
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料理屋の二階から満月を眺める客人たち、庭にも空を見上げる人の姿があります。
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舟の上でも月見を楽しんでいます。🌕
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名月をとつてくれろと泣く子かな
一茶
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖