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【人相学】『武者鑑』北条時政/牧の方/巴御前/和田左衛門尉義盛
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北条時政
時政は、北条四郎大夫時家の子なりしが、源氏再興に心を尽し、且、頼朝を聟と做せしゆへに、東国 平定して後、頼朝 執権の 職を 司どらしむ。
その性、甚しき ■曲にして我威に募りて、忠臣を多く害す。尤、相する所、頬骨高く、荒々しく頤の骨大にして、耳の根より張、眶 陥凹で、鼻は鳶口のごとく、法令深く、魂性 悪きこと、顕然として、所謂 鎌倉の為には 獅子身中の虫とも言つべし。然し、仏神を尊み、殊に江の島の弁財天を信ず。故にや、子孫大いに富栄ふ。
※ ■は、女+友+干。
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牧の方
牧の方は、時政の後妻にて利発の女なれば、時政 常に政事の善悪を問ふとかや。
其相、眼尻下り、鼻にふしありて、眼のはた薄黒く、脇の下に毛多く、極めて淫好の女なりければ、良人の年いたく長たるを嫌ひて、一族なる稲毛の三郎と姧好をなして、己が侭のふるまひをなしけるが、又、我 聟の平賀武蔵守を 将軍になさんと、時政にすゝむるに、悦んで味方を集むるといへど、此 縡顕はれて、余儀なく 時政夫婦は 伊豆へ 蟄居をなす。是 世俗にいふ、牝鶏のときをすゝむるといふ。女は 可慎 の第一なり。
※ 「牝鶏のときをすゝむる」は、女性が男性に代わって権勢を振るうことのたとえ。雌鶏 勧めて 雄鶏 時を作る。
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巴御前
巴は、中三権頭兼遠の 女にして、今井兼平の 妹なり。義仲、是を妾として 毎も 陣中へ伴ひ、一方の 大将となすに、女に似合ぬ 無双の大力にて、尤 戦功多かりしが、粟津が原の戦ひに 義盛に組れて、擒となりしを、義盛 軍功にかへて、是を 申請て妾となして、朝比奈義秀を出産す。
眼圓くして少しゆがみ、青眼にしてすゞやうに見へ、両の眉の正中より上へさして、凹ありしは、良人をかゆるの相とはいへど、敵の為に妾となるは何事ぞ。勿論、実はこの時、義仲の胤を懐䏕しなれば也といへど、かの 常盤御前の 清盛に 靡しとは、又 異る所あり。たゞ 勇は誉べき女也。
※ 「朝比奈義秀」について、義秀に「よしもり」とふりがなが振られていますが、その理由は分かりません。
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和田左衛門尉義盛
義盛は、三浦大助 義明の 嫡孫にて、侍所の 別当べつたうを勤め、左衛門尉となる。鎌倉の柱臣なりしが、其 心 直実の君子なれば、常に 北条義時と中睦しからず。竟に、甥の平太胤長の縡より憤怒して、北条一家を亡ぼさんと 一族郎黨三千余騎にて三日三夜、大小 戦ひけれど、運つたなくとゝに亡ぶ。
寔に 勤厚の人なれど、時なるかな。此節に至りて、眼中に黄青き 縷 瞳を 貫きしに、俄にこの乱を引出して、一族ともに 家名永く絶るも 天欤命欤 悼むに絶たり。
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