見出し画像

鳧(かも)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

かもは、摂州せつしう大坂 近邊きんぺんるもの、 はなはだ 美味びみなり。きた中嶌なかしま上品じやうひんとす。河内かわちそのつぎなり。

これるに、他国たこくにては 鴨羅かもあみといへども、くににては シキデンとて、横幅よこはゞ五六間に、たて一間斗のほそいとあみ左右さいうたけつけたつる。又、三間ほどづゝへだてて、三ぢうぢうるなり。これを、かすみとも云。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]
< 摂州 霞網(せつしうかすみあみ)>

又、一はうに、いけほとりにては、たけもちり、よこおほくさしおけば、かも みぎはせりなど求食あさるとて、竹のしたくゝるにれて、もちにかゝる。これを、ハゴといふ

又、一法いつはう水中すいちうとりをとるには、ながもちとて 藁葉わらしべもちり、川上かわかみよりながしかけ つばさにまとはせてとろふ。

又、一法いつはう高縄たかなわいふ ありこれは、池沼いけぬま水田すいでんとりるがためなり。づ、もちかんこほらざるがためあぶらくわえて、これ一度いちどて、り、わくまきり、さて 両岸りやうぎし篠竹しのたけほそきを長さ一間いつけん ばかりなるを、あいだ 一間はん一本いつほんづゝたてらべ、右の糸をまとことのごとし。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]
< 高縄をもつて鳧を捕(たかなわをもつてかもをとる)>

一方いつはうむかひたる一本つゝの竹は、かどきりかけのはづに、あぶらり、糸のはしをかけき、とりのかかるにつきて、はつはづれてまとはるゝをとろふ。是を、たなおちるといふ。

※ 「はづ」は、ここでは、糸をかけるために切り込みを入れた 篠竹しのたけの加工部分を指していると思われます。

東西とうざいかぜには 南北なんぼくき、南北の風には東西にひき、かならず  風にむかふて とびきたるをまつなり。又、かも 群飛ぐんひして、いとみな おちるを、そうまくりといふ

猟師りやうしは、みづ足袋たびとて かわにてつくりたるくつをはき、又下またしたに なんばといふものそへきて、ぬまふけ田の 泥上でいじやうゆく便利べんりとす。又、とりあさおりしと、よひりしとは、みづにごりをもつり、又、足跡あしあとについて、そのきたらざるをかんがへ、あす きたるべき時刻じこくなどさつするに、ひとつもあたらずといふことなし。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

がんるにも、この 高縄たかなわもちゆとはいへども、がんかもよりさとくて、もとより よるも目のゆるものゆへに、飼のおゝきにはりず。土砂どしや みだれたるにはくだらず。あるひは、つがとりそのへんめぐ一聲ひとこへなひて、とき群鳥ぐんてうしたがつる。たま/\ 高縄たかなわほとりくだれば、猟師りやうし たけもつきうこれへば、おどろきて なはにかゝることぢう一度いちどなり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]
< 津国 無雙返 鳧羅(つのくにむそうがへしかもあみ)>

又、一法いつはう無双むさうがへしといふあり。これ摂州せつしう嶌下しましもこほり鳥飼とりかいにて、かもはうなり。

むかしは、おふてんと 高縄たかなわもちひたれども、近年きんねん尾州びしう猟師りやうしならひて、かへしあみもちゆ。これ便利べんりじゆつなり。

大抵たいてい、六間に はゞ二間ばかりあみ 小二拾間斗のつなつけて、みづ干潟ひがたあるひは、砂地すなちみじかくひ二所ふたところ 打網うちあみすそかたむすとゞめ、上のはしには たけを付け、その たけをすぢかひに 両方りやうはうひらき、もとうちたるくひむすつけ、よくかへるやうに、しかけあみ竹縄たけなはとも すなうちによくかくし、そのまへをすこしりてくぼめ、こめひへなどをきて、とりむれるをまちとほくひかへたるあみを、二人がかりにひきかへせば、とりのうへにおゝひて、一つももらすことなく、一挙いつきょ十羽じつぱるなり。

これを、羽をうちちがひにねぢて、つゝみなどに はなつとぶことあたわず。これを、がひじめといふ。がんるにも、これもちゆ。されども、すなうづみやうのまきやうありて、未練みれんものとりがたし。

かもは、山澤さんたく海邊かいへん湖中こちうにありて、人家じんかはず。中華ちうくわ 縁頭●よくとう上品じやうひんとす。日本、これ真鳧まかもといふゆへに、萬葉集まんようしうあおきによせてよめり。またさきは、是につぎて、小ガモといふ。古名 タカヘ なり。

黒鴨くろかも赤頭あかかしら、ヒトリ、ヨシフク、鳥フク、■■かいつぶり [■は群+鳥、■は虎+鳥]、シハヲシ、秋紗あいさ、トウ長、ミコアイ、ハシヒロ、冠鳬あじかも(アシとも云なり)。

尾長をなが このほか 種類しゆるいおゝし緑頸あをくび小鳬こがも。アジは、あぢよし。そのはよからず。


峯越鴨おごしのかも

鴨の字は、アヒロなり。故に、一名水鴨といふ。カモは、鳬を正字とす。今、俗にしたがふ。

これ豫州よしうやま方術はうじゆつなり。八九月のあさゆうかもれて みねこへるに、茅草ちくさつばされ、たかく生る事なきに、人 そのくさかげ周廻まはりふかともに、三尺ばかり穿うがちたるあなかくれ、あみあふぎかたちつくり、その かなめところながたけを付て、あなうへちかくとびきたるを、ふせとるに、是もあみちゞまりとりまとはるゝをとろふもつとも手練てれんものならでは、やすくは 獲がたし(たゞし、みね両方りやうはうのある所をよしとす。あさゆうともにくらもつぱらとす。あみをなづけて、坂網さかあみといふ)。

※ 「峯越鴨おごしのかも」は、尾越おごしかものことと思われます。晩秋に、峰を越えて北から飛んでくる鴨のこと。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]
< 豫州 峯越鳧(よしうおごしかも)>



筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖