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鳧(かも)
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鳧は、摂州大坂 近邊に捕るもの、 甚 美味なり。北中嶌を 上品とす。河内、其次なり。
是を捕るに、他国にては 鴨羅といへども、津の国にては シキデンとて、横幅五六間に、竪一間斗の細き糸の羅を 左右竹に付て立る。又、三間程づゝ隔てて、三重四重に張るなり。是を、霞とも云。
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< 摂州 霞網(せつしうかすみあみ)>
又、一法に、池の辺にては、竹に黐を塗り、横に多くさし置ば、鳧 渚の芹など求食とて、竹の下を潜るに觸れて、黐にかゝる。是を、ハゴと云。
又、一法に 水中に有る鳥をとるには、流し黐とて 藁葉に黐を塗り、川上より流しかけ 翅にまとはせて捕ふ。
又、一法に 高縄と云 有。是は、池沼水田の鳥を捕るが為なり。先づ、黐を寒に凍らざるが為、油を加えて、是を一度煮て、苧に塗り、轤に巻取り、さて 両岸に 篠竹の細きを長さ一間 斗なるを、間 一間半に 一本宛立並らべ、右の糸を纒ひ張る事、図のごとし。
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< 高縄をもつて鳧を捕(たかなわをもつてかもをとる)>
一方に 向ひたる一本つゝの竹は、尖の切かけの筈に、油を塗り、糸の端をかけ置き、鳥のかかるに付て、筈はづれて纏はるゝを捕ふ。是を、棚が落るといふ。
※ 「筈」は、ここでは、糸をかけるために切り込みを入れた 篠竹の加工部分を指していると思われます。
東西の風には 南北に延き、南北の風には東西にひき、必 風に向ふて 飛来るを待なり。又、鴨 群飛して、糸の皆 落るを、惣まくりと云。
猟師は、水足袋とて 韋にて作りたる沓をはき、又下に なんばと云物を副差きて、沼ふけ田の 泥上を行に便利とす。又、鳥の朝下しと、宵に下りしとは、水の濁りを以て知り、又、足跡について、其夜来る 来ざるを考がへ、且 来るべき時刻など察するに、一もあたらずといふことなし。
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鴈を捕るにも、此 高縄を用ゆとは云ども、鴈は 鴨より智さとくて、元より 夜も目の見ゆるもの故に、飼の多きには下りず。土砂 乱たる地には下らず。或は、番ひ鳥の其邊を廻り 一聲鳴て、飛ぶ時は 群鳥隨て去る。たま/\ 高縄の 邊に下れば、猟師 竹を以て 急に是を追へば、驚きて 縄にかゝること十に一度なり。
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< 津国 無雙返 鳧羅(つのくにむそうがへしかもあみ)>
又、一法、無双がへしといふあり。是、摂州嶌下郡鳥飼にて、鳧を捕る法なり。
昔は、おふてんと 高縄を用ひたれども、近年、尾州の猟師に習ひて、かへし網を用ゆ。是、便利の 術なり。
大抵、六間に 幅二間許の網 小二拾間斗の綱を付て、水の干潟、或は、砂地に 短き杭を 二所 打網の 裾の方を結び留め、上の端には 竹を付け、其 竹をすぢかひに 両方へ開き、元打たる杭に結び付、よくかへるやうに、しかけ羅、竹縄とも 砂の中によくかくし、其前をすこし堀りて窪め、穀、稗などを蒔きて、鳥の群るを待て遠くひかへたる網を、二人がかりにひきかへせば、鳥のうへに覆ひて、一つも洩すことなく、一挙數十羽を獲るなり。
是を、羽を打ちがひにねぢて、堤などに 放に飛ことあたわず。是を、羽がひじめといふ。鴈を取るにも、是を用ゆ。されども、砂の埋やう餌のまきやうありて、未練の者は取獲がたし。
鳧は、山澤海邊湖中にありて、人家に畜はず。中華 縁頭を 上品とす。日本、是を真鳧といふ故に、萬葉集、青きによせてよめり。又、尾尖は、是に次て、小ガモといふ。古名 タカヘ なり。
黒鴨、赤頭、ヒトリ、ヨシフク、鳥フク、■■ [■は群+鳥、■は虎+鳥]、シハヲシ、秋紗、トウ長、ミコアイ、ハシヒロ、冠鳬(アシとも云なり)。
尾長 此外 種類多。緑頸、小鳬。アジは、味よし。其余はよからず。
峯越鴨
鴨の字は、アヒロなり。故に、一名水鴨といふ。カモは、鳬を正字とす。今、俗にしたがふ。
是、豫州の山に捕る 方術なり。八九月の朝夕、鳧の群れて 峯を越るに、茅草も 翅に摺り切れ、高く生る事なきに、人 其草の 陰に 周廻深さ共に、三尺斗に穿ちたる穴に隠れ、羅を 扇の 形に作り、其 要の 所に 長き竹の柄を付て、穴の上ちかく飛来るを、ふせ捕に、是も羅の縮、鳥に纏はるゝを捕。尤、手練の者ならでは、易 獲がたし(但し、峯は 両方に田のある所をよしとす。朝夕ともに闇き夜を専らとす。網をなづけて、坂網といふ)。
※ 「峯越鴨」は、尾越の鴨のことと思われます。晩秋に、峰を越えて北から飛んでくる鴨のこと。
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< 豫州 峯越鳧(よしうおごしかも)>
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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