鯢(さんしやういを) 山椒魚
鯢
渓澗水に生ず。牛尾魚に似て 口大なり。茶褐色にして、甲に班攵あり。能く水を離れて陸地を行く。大なるものは 三尺 斗、甚 山椒の気あり。又、椒樹に上り、樹の皮を採り食。此魚、畜おけば 夜啼て小児の声のごとし。性 至て強き物にて、常に小池に畜ひ、用ゆべき時、其 半身を截裁、其 半を復 小池へ放ちおけば、自づから肉を生じ、元の全身となる故に、作州の方言にハンサキといふ。又、其 去たる皮も久しくして、尚 動なりといへり。
※ 「鯢」は、山椒魚。
※ 「牛尾魚」は、海水魚のコチ(鯒、鮲)。
※ 「作州」は、美作国。
※ 「ハンサキ」は、岡山県の県北に位置するはんざき。この辺りでは、オオサンショウウオのことを「はんざき」と呼ぶそうです。
別に、一種 箱根の 山椒魚 といふものあり。小 魚なり。
越後にてセングハンウヲといふ。其形、水蜥蜴に似て 腹も赤し。故に アカハラともいふ。乾物として出し、小児の 疳虫を治す。物理小識に閩高の源に黒魚ありとは 是なり。
※ 「疳虫」は、小児の疳の病(夜泣き、かんしゃく、ひきつけなど)を起こすといわれる虫。疳の虫。
※ 「物理小識」は、明末清初の時代に方以智によって編纂された科学技術全般の類書的な書物。
国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができます。『物理小識12卷總論1卷【全号まとめ】』
※ 「閩高」の閩は、五代十国のひとつで福建を拠点にした閩越国の意味。
今、相州、信州軽井沢和田の邊より出る物も、かの いもりのごとき物にて、夜、瀧の左右の岩を ■ [木+付+攀の脚の部分] 上なり。土人 是を採るに、木綿袋にて玉網のごときものゝ底を 巾着の 口のごとくにして、松明を照して、魚の上るを候ひ、袋をさし附て、自から入るを取りて、袋の尻を解き、壺へ納む。又、丹波、但馬、土佐よりも出せり。
※ 「相州」は、相模国。
本草に、一種 䱱魚といふものおなじく 山椒魚ともいへども、是は人魚なり。河中 及び 湖水に生ず。形 鮧魚に似て、翅長く手足のごとし。又、時珎の諬神録に載する所の物は、華考の海人魚なり。紅毛人、此 海人魚の骨持来りて、蛮名ヘイシムルと云。甚 偽もの多し。
※ 「本草」は、江戸時代中期に貝原益軒によって編纂された本草書のことと思われます。『大和本草』。
※ 「時珎」は、明の李時珍。『本草綱目』の編纂者。
※ 「諬神録」は、五代十国時代から北宋代にかけての政治家・徐鉉の著書。「時珎の諬神録」とありますが、これは誤りのように思われます。
※ 「華考」は、明の愼懋官によって編纂された『華夷花木鳥獸珍玩考』のことと思われます。
国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができます。『華夷花木鳥獸珍玩考12卷【全号まとめ】』
※ 「ヘイシムル」は、『大和本草』では「海女 ヘイシムレル」と記されています。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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