水母（くらげ）

2023年11月17日 21:36

水母（くらげ）　一名　借眼公しやくがんこう　海舌かいぜつ

諸州しよしうに産さんして、備前びぜん殊ことに名産めいさんとす。又、唐水母たうくらげ、朝鮮てうせん水母くらげと云いふは、肥前ひぜんに産す。元もとは、異国いこくより長崎ながさきへ伝送でんそうせし物ものなれば、かく号なづけり。今いまは本朝ほんてうにも其その法はうを覚おぼえて製せいし、同く唐水母とうくらげと称しやうす。其その製法せいはうは、石灰はいと明礬めうばんとに浸ひたし晒さらして、血汁ちしるをされば、色いろ変へんじて潔白けつぱくなり。又、備前びぜんは、櫪くぬぎの葉はを少すこし炙あぶり、臼うすにて舂つき、塩水しほみづに和くわし浸ひたすなり。其その外ほか数種すうしゆあり。中なかにも水みず水母くらげ、又、色いろ黒くろき物もの、赤あかきものは、皆みな毒どくありとて、魚人ぎよじんこれを採とる事ことなし。

形かたちは蓮はすの葉はを覆おいひかてるが如ごとく、其その邉ふちに足あしの如ごとき物ものあり。色いろは紅あか紫むらさきにて眼めも口くちもなし。腹はらの下したに糸いとのごとく絮うちはたのごとく長曳ながくひく物あり。魚蝦えびかならず是これに随附ずいふす。俗ぞくに、これが眼めを借かりて游およぐともいへり。故ゆへに、借眼公しやくがんこうの名なあり。