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陶器(やきもの)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]

諸州しよしう 数品すひんありなかにも 肥前国ひぜんのくに伊万里いまりやきいふ本朝ほんてう第一だいいちとす。このかまやま およそ十八ヶしよ上場じやうばとす。

 ・大河内山おゝかはちやま  ・三河内山みかわちやま  ・和泉山いづみやま
 ・上幸平うへかうひら   ・本幸平ほんかうひら   ・大樽おゝたる
 ・中樽なかたる    ・白川しらかわ    ・稗古場ひいこば
 ・赤絵町あかゑまち   ・中野原なかのはら   ・岩屋いわや
 ・長原ながはら    ・南河原みなみかはら 上下二所
 ・外尾ほかを    ・黒牟田くろむた   ・廣瀬ひろせ
 ・いち   ・應法山わうはうやま

とうにて、このうち大河内おゝかわち鍋島なべしま御用山ごようやま三河内みかわち平戸ひらど御用山ごようやまにして、貨買くわばいすることきんず。

伊万里いまり商人あきびと幅湊ふくそうせるにて、やきつくるのにはあらず。およそ 松浦郡まつらこほり有田ありたのうちにして、そのうち中尾なかを三ッのまた稗古場ひへこば同国どうこくりやうちがひ、又、廣瀬ひろせなどは青磁せいじものおゝくして上品じやうひんなし。都合つがう 二十四五しよにはなれども、十八ヶ所は泉山のわきにありて、これつちいづる山也。

※ 「幅湊」は、輻湊ふくそう。四方から寄り集まること。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]
肥前ひぜん伊万里いまり陶器やきもの

堊土しらつち

泉山いづみやまいで国中こくちう名産めいさん 本朝ほんてう他山たさん比類ひるいなし。中華ちうくは中国ちうごくの五六しよにもいだせり。これ つちにしてつちにあらず。いしにしていしにあらず。そのせいはなはだ堅硬かたし。拳鑿げんのうをもつてうちかき、金杵かな●ね添水そうずからうすこれつかしむ。きねはゞ一尺ばかりあつさ一尺五六寸、ながさ一けんはんばかり

※ 「堊土しらつち」は、白土。
※ 「添水そうず」は、添水そうず。ここでは、ししおどしの石を打つ部分に杵をつけて白土をく仕掛けのことと思われます。
※ 「からうす」は、臼を地面に埋めて、きねを足で踏んで(梃子てこの原理を応用して)米などの穀類をつく仕掛けのこと。

もつとも 水勢すいせい つよくしかけて、からうすかずおゝらね、よく粉となりたるに、またほかつち柔軟やはらかなるを ニ三ひんくわあわせて、いへうち溜池ためいけひたし、度々たび/\拌通かきまはし、よくくわしたるを 飯籮いかきし、またほか溜池ためいけうつし、よくすまし、そのうへうきたるものを 細料さいれうとし、なか普通ふつう上品じやうひんもちひ、そこ下沉しづみたるは 取捨とりすて不用もちひず

さて、その水干すひひつち素焼すやきかま塗附ぬりつけうち火力くはりきりて すいかわかす。もつともこれによきほどうかゞひみて、おとし、かさね清水せいすい調和ちょうくはし、かの団子だんごのごとく こねくわして、工人こうじんあたふなり。これまで 婦人ふじん所為しよいなり。


造瓷坏器うつはをつくる

およそ瓷坏うつはつくるに 両種りやうしゆ あり。一には、印器かたおしいふ方円はうゑん数品すひんどびんつぼ爐合こうろるい屏風べうぶ燭台しよくだいるいにもおよべり。

これとうおよつくねして、あるひふたつり、あるひふたつり、またふたゝ白泥つちりて、かたうつし、あるひはそのまゝに は●を押すもあり。又、おなじつちくすり水をくわしてあわせ取付とりつけなどもするなり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]

一には、円器ゑんきといひて、およそ、大小億万おくまん杯盤はいばん人間にんげん日用にちようものにして、そのかずつくこと十に九なり。

この 円器ゑんきつくるには、まづ 陶車たうしやせいす。その 円盤ゑんばん上下二ツにして、下のものすこおほひなり。真中まんなかに  真木しんきこんたてうづこと、三尺ばかりたかさ二尺ばかり、上のくるま真中まんなかつちおきつくる也。下のくるま工人こうじんあしにてまはし、須臾しばらくまはやむことなく、両手りやうてもつて かのうへつちうへおしさゝげ、ゆびおのづかうちまぐはり、くるま旋轉めぐるうちに、栂指おやゆびうつはそこにありて、その かたち異法い●●こゝろにまかせ、すべてのうちゆびさき妙工めうこうるがうちに、その かずつくり、そのやう千万せんまんかず一■ひとかた [■=竹+軋] のうちいづるがごとくにして、大小をあやまらず。

又、わんはちるいそと輪■いとぞこ [■=其+至] をつけるにはすこかわかして、ふたゝくるまのぼせ、小刀こがたなもつ輪■いとぞこ [■=其+至] の内外うちそとけづし、われかけも 此ときおぎなひ、あるひ釼手とつてびん水口すいくちなどは べつつくり、粘土ねりつちあわせて和付くわふす。またこれ陰乾かげぼしとし、極白ごくはくいたらしめ、素焼すやきかまるゝなり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]
同素焼窯 同過銹

素焼すやきかまするごとく、糀室かうじむろごとものにて 器物きぶつうちみかさね、火門くわもん 一方いつぱう にありて たきゞもちゆ。度量どりやううかゞひ、し、そのまゝくさます。


折圏書画再入窯わをうちゑをかきふたゝびかまにいるゝ

みぎ 素焼すやきのよくめたるを取出とりいだし、一度ひとたび みづあらひ、毛綿もめんきれにてみがくなり。茶碗ちやわんはちなどの 内外うちそと 上下うへした の圏すじゑがくには、またくるまのぼせ、ふでそのところにあてゝくるまをめぐらせり。

しかうして書画しよぐわほどこし、そのうへ銹漿くすりを 二かけてよくし、本窯ほんがまれて焼けば、いでのち おのづかあらはる。取出とりいだし、またみづあらふを 全備ぜんびとす。すべてつちるより はじめて 終成できあがる まではたゞ一杯いつぱい小皿こさらなりといへども、その 工力こうりよくすぐること 七十二にして、その 微細びさい 節目せつもく なを そのかずいゝつくすべからず。

素焼すやきかまは、いへうちにあり。本窯ほんがまは、斜阜なゝめなる 山岡やまおかうへつくりて かならず 平地ひらちにはなし。みなひとかまづゝ一 ● 高ひとつながりにたかくし、うちひろおよそ 三十つぼこれを六つも 連接れんせつして、ことごとその 接目つぎめ火気くわきつうずるまどひらく。

しかれども、かまごとにたく也。うちには 器物きぶつをのするだひ[■=其+至] あり。すなはちつちにてせいし、一ツづゝのせて 寸隙すんげきなく、一方いつぱう細長ほそなが明置あけおき、それへ たきゞるゝ、この 火門くわもん八寸に、たかさ二尺ばかりにして、たくことおよそ 昼夜ちうや 三四日にして、一窯ひとかまに 薪 凡 二万本まんぼんついやす。もつとも焚様たきやう手練しゆれんありて、上人じやうず下人へた雇賃やとひちんろんず。追々おひ/\投込なげこむに、たゞ さならぬやうにするをよしとす。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]

又、戸口とぐちわき手鞠てまり ほどあなありこれ時々とき/\ ふたをとりて、度量どりやううかゞひ、その 成熟せいじゆくればし、そのまゝ よくひやして取出とりいだすに、一窯ひとかまものおよそ 百俵ひゃくひやうおよべり。

過銹かけくすりすなはち おなじつちの内にて、上澄うはずみ上品じやうひん をゑり、それに 蚊子木やしのみはを やきたるはい調和てうわす。もつとも 増減ぞうげん 加味かみ 家々いへ/\の法ありて、一概いちがひならず。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]
同本窯

回青あをゑのくすり  は、もと 漢渡からわたりもににしてその名  未詳つまびらかならず  。これ また よく細末さいまつして みづくわゑがときは、その いろ 真白まつしろなれども、いでのち青碧せいへきしよくへんず。

天工てんかう開物かいぶつるに、これ すべ一味いちみ無名異むめういなり。この 無名異むめういといふは、やまにてすみひさしくやきたるした異色いしよくつちくれせうず。これ薬木膠とやくほくこういふこれ無名異むめういあり。

また石州せきしう銀山ぎんざんにも 同名どうめうものあり。本条ほんじやうものにはあらず。これは、圡中どちうにある 紫色ししよく水干すいひしたるものにて、血止ちとめとするのみ。もつと偽物ぎぶつおゝし。

本条ほんじやう無名異むめうい地面ぢめんうきしやうじて、深圡ふかつちには生ぜす。ほるに三じやくにはぎず。上中下のしなありて、これを ●●●●● す。上なる物はいで翠毛みどりいろとなり、ちうなるものは 微青びせいなり。もと 舶来はくらいもの上品じやうひん とす。おほひなるは わづかに一ばかり、小は いたつこまかすなのごとし。なを 上品下品多し。

※ 「石州せきしう」は、石見国いわみのくにの別称。

赤絵あかゑもの錦様にしきでいふて、五彩ごさい金銀きんぎんくすりに施すこと、これ一山いつさん秘術ひじゆつとして、口外こうぐわいきんず。ゆへこゝりやくす。これには かの 硝子びいどろくすりもちゆといへり。

すべて、南京なんきんやき古器こきは いまだその 白垩しらつちたるときなるにや。つち土器かはらけつちはなはだ やはらか なり。その うへくすり硝子びいどろくわふるゆへに、おのづかかけそんず。これいま むしくひなどゝ しやうずれども、ようてきしては、いまものおとれり。たゞし、回青絵あをゑ上銹うはぐすり は 銹の上より かきたるごとく ゆるは、南京なんきんものめう也 とはども硝子びいどろくすりたすけなり。

日本にほん青絵あをゑは、くすりしたしづみたるがごとく見せるは、硝子びいどろを用ひざる ゆへにして、これ また 適用てきようためまされり。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [5]

陶器たうきことは、 [[萑+日]] 茅渟県ちぬのあがた大陶祇おほすへすみいふあり。茅渟ちぬ和泉いづみくにぞくして、いま陶器村すゑむらあり。いにしへものるに すべて土器かわらけまたもちゆ。いま 堂上だうじやう すべて 土器かはらけもちひて、しかもつくねなり。これ上古じやうこ 質朴しつぼく遺製いせいすてたまはぬ 風儀ふうぎるべし。

日本記にほんき神代巻しんだいのまき嚴瓫いつえ嚴瓫之置いつえのおきもの忌瓮いんべなど、みな かみまつるの 土器どき也。また和名鈔わめうせうほどきを ヒラカといひて、うくるの 酒器しゆきなりとす。いまの 一せうなり。

延喜式ゑんぎしきほとき ほときいふも、みな 古質こしつなり。後世こうせい軍陣ぐんぢん門出かどでのとき、これまふくを イツヘのヲキモノ とはいふ也。又、いうま忌部いんべといふ 古物こぶつ古語こご也。これもつて、陶器たうきつかさどる せいにもいへり。いま伊万里いまりやきはじめし。年月ねんげつ 未詳つまびらかならず

※ 「茅渟県ちぬのあがた」は、崇神天皇のときに大阪湾東部の沿岸に置かれた県。和泉国にあたる。
※ 「和名鈔」は、『和名類聚抄』のこと。平安時代中期に編纂された辞書。



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