陶器(やきもの)
諸州 数品有。中にも 肥前国伊万里焼と云を 本朝第一とす。此窯山 凡十八ヶ所を上場とす。
・大河内山 ・三河内山 ・和泉山
・上幸平 ・本幸平 ・大樽
・中樽 ・白川 ・稗古場
・赤絵町 ・中野原 ・岩屋
・長原 ・南河原 上下二所
・外尾 ・黒牟田 ・廣瀬
・一の瀬 ・應法山
等にて、此内、大河内は鍋島の御用山、三河内は平戸の御用山にして、他に貨買する事を禁ず。
伊万里は商人の幅湊せる津にて、焼造るの場にはあらず。凡 松浦郡有田のうちにして、其内中尾三ッの股、稗古場は同国の領ちがひ、又、廣瀬などは青磁物多くして上品なし。都合 二十四五所にはなれども、十八ヶ所は泉山の脇にありて、是圡の出る山也。
※ 「幅湊」は、輻湊。四方から寄り集まること。
堊土
泉山 に出て国中の名産 本朝他山に比類なし。中華は 中国の五六処にも出せり。是 圡にして圡にあらず。石にして石にあらず。其性甚だ堅硬し。拳鑿をもつて打かき、金杵の添水碓に是を舂しむ。杵の幅一尺斗、厚さ一尺五六寸、長さ一間半斗。
※ 「堊土」は、白土。
※ 「添水」は、添水。ここでは、ししおどしの石を打つ部分に杵をつけて白土を搗く仕掛けのことと思われます。
※ 「碓」は、臼を地面に埋めて、杵の柄を足で踏んで(梃子の原理を応用して)米などの穀類をつく仕掛けのこと。
最 水勢 つよくしかけて、碓 の数多く連らね、よく末粉となりたるに、又、他の土の柔軟なるを ニ三品和し合せて、家の内の溜池に漂し、度々拌通し、よく和したるを 飯籮に漉し、又、外の溜池へ移し、よく澄し、其上に 浮たるものを 細料とし、中を普通の 上品 に用ひ、底に下沉たるは 取捨て不用。
さて、其水干の土を素焼窯の背に塗附、内の火力を借りて 吸乾かす。最これによき程を候ひみて、掻き落し、重て清水の調和し、かの団子のごとく 粘和して、工人に ●ふなり。是まで 婦人の所為なり。
造瓷坏器
凡、瓷坏を造るに 両種 あり。一には、印器と云。方円数品、瓶、甕、爐合の類、屏風、燭台 の類にも及べり。
是等は凡そ塑成して、或は両に破り、或は両に截り、又、再び白泥を埏りて、範に模し、或はそのまゝに 印を押すもあり。又、おなじ圡に 銹水を和して塗り合取付などもするなり。
一には、円器といひて、凡、大小億万の杯盤は人間日用の物にして、其数を造る事十に九なり。
此 円器を造るには、先 陶車を製す。其 円盤上下二ツにして、下の物少し大なり。真中に 真木一根を 竪て 埋む事、三尺許、高さ二尺許、上の車の真中に 土を置て造る也。下の車は 工人の足にて廻し、須臾も廻り止ことなく、両手を以て かの上の圡を上へ押捧げ、指自ら内に交り、車の旋轉が中に、栂指は器の底にありて、其 形の 異法心にまかせ、すべて手のうち指尖の妙工見るがうちに、其 数を造り、其様千万の数も一■ [■=竹+軋] の内に 出るがごとくにして、大小をあやまらず。
又、椀鉢の類の 外の輪■ [■=其+至] を付るには微し乾して、再び 車に上せ、小刀を以て 輪■ [■=其+至] の内外を削り成し、碎缺も 此時に補ひ、或は 釼手、瓶の水口などは 別に造り、粘土を合せて和付す。又、是を 陰乾とし、極白に至らしめ、素焼窯へ入るゝなり。
素焼窯は図するごとく、糀室 の如き物にて 器物を内に積みかさね、火門 一方 にありて 薪を用ゆ。度量を候ひ、火を消し、其まゝ能くさます。
折圏書画再入窯
右 素焼のよく冷めたるを取出し、一度 水に洗ひ、毛綿裂にて巾き 磨なり。茶碗鉢などの 内外 上下 の圏輪の筋を画くには、又、車に上せ、筆を其所にあてゝくるまをめぐらせり。
然して書画を施し、其上へ銹漿を 二度過てよく乾し、本窯へ 納れて焼けば、火を出て後、画 自 ら 顕る。取出し、又、水に 洗ふを 全備とす。すべて圡を取るより はじめて 終成 まではたゞ一杯の小皿なりといへども、其 工力 を過ること 七十二度にして、其 微細 節目 尚 其数云尽すべからず。
素焼の窯は、家の内にあり。本窯は、斜阜 山岡 の上に造りて 必 平地にはなし。皆 一窯宛一 ● 高くし、内の広さ 凡 三十坪、是を六つも 連接して、悉く 其 接目に 火気の通ずる窓を開く。
然れども、火は竈ごとに焚也。内には 器物をのする■[■=其+至] あり。即、圡にて制し、一ツ宛のせて 寸隙なく、一方を 細長く明置、それへ 薪を入るゝ、此 火門八寸に、高二尺計余にして、焚こと凡 昼夜 三四日にして、一窯に 薪 凡 二万本を費やす。尤、焚様に手練ありて、上人下人の 雇賃 を論ず。追々投込に、たゞ 木の重さならぬやうにするをよしとす。
又、戸口の脇に 手鞠 程の穴有。是を 時々 蓋をとりて、度量を 候ひ、其 成熟を 見れば火を消し、其まゝ よく冷して取出すに、一窯の物、凡 百俵 に及べり。
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過銹 は 即 おなじ圡の内にて、上澄の 上品 をゑり、それに 蚊子木 の皮はを 焼たる灰を調和す。最 増減 加味 家々の法ありて、一概ならず。
回青 は、元 漢渡 の 物にしてその名 未詳 。是 亦 よく細末して 水に和し 画く時は、其 色 真白なれども、火を出て後、青碧色と変ず。
天工開物を 見るに、是 惣て 一味の 無名異なり。此 無名異といふは、山にて炭を 久しく焼たる下に 異色の塊生ず。是を薬木膠と云。是も 無名異の名あり。
又、石州銀山にも 同名の物あり。本条 の物にはあらず。是は、圡中にある 紫色の粉を 水干したる物にて、血止とするのみ。最も 偽物多し。
本条 の 無名異は 地面に浮生じて、深圡には生ぜす。堀に三尺には過ぎず。上中下の品ありて、これを ●● す。上なる物は火を出て 翠毛色となり、中なるものは 微青なり。元 舶来の物を 上品 とす。大なるは 僅に一分計、小は 至て 細に砂のごとし。尚 上品下品多し。
※ 「石州」は、石見国の別称。
赤絵の物を 錦様と云て、五彩金銀を 銹に施すこと、是一山の 秘術として、口外 を禁ず。故に 此に略す。是には かの 硝子銹を 用ゆといへり。
惣て、南京焼の 古器は いまだ其 白垩を 得たる時なるにや。圡は土器、土に似て 甚 軟 なり。其 上薬に 硝子 を 加ふるゆへに、自ら 缺損ず。是を 今 虫喰出などゝ 賞ずれども、用に 適しては、今の物に 劣れり。但し、回青絵の 上銹 は 銹の上より 書たる如 見ゆるは、南京物の 妙也 とは云へ共、硝子薬の 助なり。
日本の青絵は、薬の下に 沈みたるが如く見せるは、硝子を用ひざる 故にして、是 又 適用の為に 勝れり。
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陶器の事は、■ [[萑+日]] 事記に 茅渟県に 大陶祇と云あり。茅渟は 和泉の国に属して、今も陶器村あり。古は 物を盛るに すべて土器、又、木の葉を用ゆ。今 堂上 すべて 土器を用ひて、しかも塑なり。是、上古 質朴の 遺製と 捨たまはぬ 風儀を見るべし。
日本記神代巻に 嚴瓫、 嚴瓫之置、忌瓮など、皆 神を祭るの 土器也。又、和名鈔に 缶を ヒラカといひて、斗を受るの 酒器なりとす。斗は 今の 一升なり。
延喜式に 盆 瓫 と云も、皆 古質の器なり。後世に 軍陣の門出のとき、是を 設くを イツヘのヲキモノ とは云也。又、今も 忌部といふ 古物は 古語也。是を以て、陶器を 司どる 姓にもいへり。今の 伊万里に 焼はじめし。年月 未詳 。
※ 「茅渟県」は、崇神天皇のときに大阪湾東部の沿岸に置かれた県。和泉国にあたる。
※ 「和名鈔」は、『和名類聚抄』のこと。平安時代中期に編纂された辞書。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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