見出し画像

広重魚尽(うおづくし)

いなだ ふぐ 梅

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

あたたかい なたのしほかせ ふくからに
  つほみもひらく 梅の折枝
               数寿垣

※ 「あたかい  なだの  しほかせ潮風  ふくからに」は、「いなだ」と「灘」、「吹く」と「ふぐ」をかけています。

🐟 奥の青い魚がいなだ(ぶりの幼魚)、手前の鶯色の魚がふぐ。


あわび さより 桃

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

波に洗ひ 磯の いわお にすりつけて
  あわび は おのか玉を みかけり
             雲垣冨士見

献立の あはせさよりも 衣かへ
   わたをぬきてそ  こしらへにける
             三輪垣耳喜

□れもまた ちいさてならむ 岩あひの
  細きすきまの あはひとる海士
             千代垣素直

※ 「あはせさより」は、料理名。 合鱵あわせさより


ひらめ めばる 桜

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

咲はなの いろ香も 魚の味ひも
   あかぬさかりは 弥生なりけり
              大崎児春

🐟 奥の白い魚がひらめ、手前の黒い魚がめばる。


鰹 さくら

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

●かほの 花たのいろの はつ鰹
   日のこぬうちと 夜通しに来る
              年廼門春喜

鎌くらの 雪の下なる 初鰹
   ふく●消る 味はひそ よき
              年庵真千門

※ 「花たのいろ」は、伝統的な青の名前。花田色はなだいろはなだ  いろ
※ 「鎌くらの雪の下」は、鶴岡八幡宮がある鎌倉市雪ノ下。鶴岡八幡宮から若宮大路をまっすぐ行くと相模湾に出ます。江戸時代、相模湾でとれた鰹は、押送船おしおくりぶねという小型の高速船にのせて江戸に運ばれました。


飛魚 いしもち 百合

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

ほととぎす なくころ 波間たかく飛
   魚にこゑある 海士か さへつり
              手垣真春

🐟 奥の青い魚が飛魚とびうお、手前の灰色の魚がいしもち。


いさき かさご 薑

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

時来ぬと 開きて 見ても 五月雨に
     ほすいとまなき からかさこ哉
               年舎富春

生舟の たよりこのもし 三崎より
    いさきの魚を 贈る友とち
        相州藤沢 森●亭 里人

※ 「  はじかみ  」は、葉つき生姜のこと。
※ 「生舟なまふね」は、生蕎麦などを保管する木箱のこと。
※ 「友とち」は、友達ともどちのこと。

🐟 奥の橙黄色の魚がかさご、手前の青い魚がいさき。


あまだい めばる わさび

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

うつしゑの 筆もかろくて 此魚の
   味はひよしと おもはれそする
             篶垣

🐟 奥の茶色い魚がめばる、手前の薄紅色の魚があまだい。


黒鯛 小鯛 山椒

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

もちの夜に すなとる●の 小鯛つる
    影と大きく 見ゆる黒鯛
             富垣内安

□つくしき 小鯛に□し 黒鯛は
   黒木にさしゝ ●とや見む
        ●後川袋 花王菴 芳志

※ 「もちの夜」は、もち(陰暦八月十五日、仲秋の満月)のこと。
※ 「すなとる」は、すなど(る)のこと。

🐟 左の黒い魚が黒鯛、右の赤い魚が小鯛。


すゞき 金目鯛 しそ

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

はく露も ひかる こかねの 花すゝき
  かさしにさせる たつの宮姫
              篶垣

※ 「たつの宮姫」は、龍宮姫たつのみやひめのこと。
※ 「はく露」は、二十四節気のひとつ 白露はくろ(太陰太陽暦の八月節)のことでしょうか。
※ 「花すゝき」は、穂がでたすすきのこと。花薄はなすすきすすきと魚のすずきをかけています。
※ 「かさし」は、挿頭かざし。髪や冠に、花や枝をさすこと。

🐟 奥の青い魚がすずき、手前の赤い魚が金目鯛。


こち 茄子

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

春吹る 風の名におふ こちをとそ
    夏はみな 人めつるなりけれ
             良垣俊持

あらくうつ 波の下より 生まれ出て
   こちは かしらの ひしけたりけむ
             真垣春友

※ 「こち」は、東風こち(春の東から吹く風)と魚のこちをかけています。
※ 「めつる」は、づる。
※ 「かしらのひしけたり」は、かしらひしげたり。頭が押されてつぶれる、ひしゃげているという意味。


さば かに 朝顔

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

大江戸や 見てめさましき 魚市も
  あさなあさなの 花にこそあれ
            七珠亭万寶

※ 「あさなあさな」は、朝な朝な。毎朝という意味。

🐟 奥の青い魚がさば、手前は渡り蟹(がざみ)。


伊勢海老 芝えび

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

伊勢海老を とり逃せしは 
いせの海士の 舟流したる おもひなるらむ
        □ 戸崎 緑樹園 元有

□ぬるみ にえたつやうな 夏の日に
    わきて出たる 芝浦の蝦
             年庵真千門

※ 江戸時代、芝えびは 芝浦の特産品。

🐟 中央が伊勢えび、右が芝えび。


鯵 車海老 蓼

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

ちいさきを さいまきといふ 車海老
    柴うらにこそ つみて送らめ
            年舎富春

※ 「さいまき」は、体長10cm以下ほどの若い車海老のこと。さいまき海老。

🐟 奥が車海老、手前があじ。


しま鯛 あいなめ 南天

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

包丁に さしみの波に かひしきの
  をこのこけむす 沖のしま鯛
            閑春楼主人

※ 「かひしき」は、掻敷かひしき皆敷かひしき。料理を器に盛るときに下に敷くもの。南天、ひのきの葉、笹の葉などの他に、和紙も用いられます。

🐟 奥の黒い魚がしま鯛、手前の青い魚があいなめ。


かなかしら 木の葉かれい 笹

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

門にほす 木の葉かれいも 紅葉して
    うらの苫やの 秋そ賑はふ
      下野江戸崎 緑樹園 元有

ひのもとの ふみのはじめの かながしら
   先まな板に のせてひらかむ
            雀躍亭 竹村

※ 「かれい」は、めいたがれいのこと。
※ 「苫や」は、とますげかやなどを粗く編んだむしろ)でいた家のこと。
※ 「ひのもとの  ふみの  はじめの  かながしら」は、山の神が海のおこぜに送った「かながしら  めばるのおよぐ  波の上  みるにつけても  おこぜ恋しき」という恋文から来ています。

🐟 赤い魚がかながしら、薄黄色の魚が木の葉かれい。


ぼら 椿

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

□子のうらや 不二の移れし 波の上を
   下るもをかし すはしりの魚
             檜垣 百舩

神なりの ●●の ほらも 釣ばりの
   稲妻を見て へそやちゝめむ
             年廼門春喜

※ 「すはしり」は、洲走すばしり。ぼらの稚魚のこと。
※ ぼらのへそは、ぼらの幽門(十二指腸につながる胃の部分)のこと。筋肉が厚く発達しているため歯ごたえがあります。


出典:国立国会図書館デジタルコレクション『広重魚尽

末つひに 雲ゐの龍と なりぬべし
      川瀬をのぼる 鯉の勢ひ
           應需 真春



筆者注 □は欠字、●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖